ここ数年、富山県を拠点とするスーパーマーケットの県外進出が相次いでいる。同時に、これまで富山のご当地で親しまれてきた商品が、遠く離れた県外で人気を呼ぶという現象も。2023年の夏は、県内で作られる「風の盆牛乳」が愛知県で爆発的な人気となっているという。
県外で“なぜか”爆売れ
7月に愛知県内で撮影された写真。積み上げられているのは、富山県を代表する伝統行事「おわら風の盆」で有名な富山市八尾地区で生産され、長年富山県内で愛されている「風の盆牛乳」だ。
掲載された写真には、八尾乳業のX（旧Twitter）公式アカウントが「どうやら愛知県で爆売れしているらしい…!? 愛知県の皆さま～今後もどうぞよろしくお願いします」とコメントしていた。
製造元の八尾乳業に話を聞いた。
八尾乳業協同組合・長谷寛理事長：
本当にありがたい。8月の牛乳の値上げで今は少し落ち着いているが、1店舗あたりの注文数は地元（富山）並みの数量
八尾乳業協同組合 マネージャー（SNS担当）・小西静香さん：
注文数を見て、事務所でもすごいとなった
しかし、愛知で売れている理由を尋ねてみると…。
八尾乳業協同組合 マネージャー（SNS担当）・小西静香さん：
いや…分かんないです。（八尾牛乳は比較的甘いので）県民性もあるんですかね
以前から岐阜などの別の店で評判は良かったそうだが、今回どうして売れているのかは、はっきり分からないという。
愛知県民にも愛される“富山の味”
そこで、実際に写真が撮られたというスーパーに行って調べてみることに。
やってきたのは愛知・北部に位置する江南市。ここに2023年6月オープンしたのが、富山県民にはおなじみの「大阪屋ショップ江南店」。東海地方に初めて進出した店舗だ。
店内を見渡してみると、特設売場に所狭しと並べられた八尾乳業の商品を発見。どうやら愛知での人気は一時のブームではなく、今も継続中のようだ。
「おわら」をイメージした特徴的なパッケージで、岐阜や山梨のブランド牛乳と共にご当地商品を売り込もうという戦略だったが、その売れ行きに店長は驚いている様子。
大阪屋ショップ江南店・根建修店長：
私もびっくりしている。予想以上に販売している。（1日平均）平日で30本、土日は50本以上。大変好評でブランド牛乳の中でも売れ行きが良いほうです
7月の月間売上は1,400本と、自社ブランド以外の商品としては異例の多さだ。
取材中、牛乳をたくさん購入している女性を発見。
風の盆牛乳の購入客：
風の盆牛乳は甘くておいしい。味が全然違う
ーー元々知っていた？
風の盆牛乳の購入客：
このスーパーができてから（知った）
風の盆牛乳の独特の甘みを評価する声が上がった。
愛知県にも16年の在住経験があり、全国のご当地商品に詳しいスーパーマーケット研究家の菅原佳己さんは…。
愛知県に16年在住 スーパーマーケット研究家・菅原佳己さん：
（愛知県で好まれる商品は）味が「こっくり（深い味わいのある様子）」としている。味噌とか醤油、みりんのこっくりした甘さが好き
愛知で古くから親しまれる味噌なども「こっくりとした甘み」が基礎にあり、それがヒットにつながったのではないかという。
また、風流なパッケージデザインにひきつけられ、思わず手に取った人が「おいしい」と感じてSNSに投稿、それがさらに拡散されるという好循環も。こうした投稿には、牛乳以外の「ご当地商品」と並べて撮った写真が多くみられる。
県と県との「食文化の交流」
店内を探してみると、「あなん谷醤油」や富山・射水市の「中六醤油」に富山で消費量の多い「昆布」が豊富に取り扱われるなど様々な商品が並べられていた。
そして、大阪屋ショップといえば1個25円で販売されている「昔のコロッケ」。この物価高の時代に、値段もほとんど変わっていない。
店独自の人気商品も見事に「越境」し、受け入れられていた。安さとおいしさが評判となり、すっかり愛知の食卓にも定着している様子。
そして、ある意味究極の「地元食材」なのが…。
客：
やっぱり一番は魚じゃないですか
客：
お刺身がおいしいから
この店では、富山県内各地の漁港から毎日新鮮な海の幸を直送。この日も、白エビにキジハタやスズキ、ノドグロのあぶりが並び、午前中から多くの客が買い求めていた。
しかし、全国的にはこうした例は珍しいという。
愛知県に16年在住 スーパーマーケット研究家・菅原佳己さん：
地域に愛されてきたものを外で勝負するのは一定のリスクを背負う。愛知県と北陸は地理的にも近い。文化交流が特別盛んな地域でうまくいった例だと思う
大阪屋ショップでは、今後も「季節ごとの北陸の産品を提案して差別化を図っていきたい」としている。
県外での思わぬヒット商品も生み出した、富山県のスーパーの東海地方進出。富山の食文化の発信基地としても期待される。
（富山テレビ）
