ウクライナ軍はレーダーに映りにくい「忍者」のようなボール紙製のドローン機でロシア軍基地を攻撃し、戦闘機などを破壊する戦果を上げているという。
ウクライナ軍はここへきてロシア国内に向けてドローン機による攻撃を激化させており、8月26日夜にはロシア西部のクルスク空軍基地を複数のドローン機が攻撃した。ウクライナの英字紙「キーウ・ポスト」によると、この攻撃でロシアのSu-30戦闘機4機、MiG-29戦闘機1機、Pantsir-S1近距離防空システム2セット、S-300長距離地対空ミサイル用レーダー1基が破壊されたという。
使用されたのは豪SYPAQ社のドローン
この攻撃の翌日、ロシア発のメッセージアプリ「テレグラム」に「ファイターボンバー」と名乗るミルブロガー(軍事問題のブロガー)が次のような記事を投稿した。

「コフル(ウクライナ人の蔑称)は、飛行場の攻撃に初めて豪州製のSYPAQドローン機を使った」
記事には、模型飛行機のような小型のドローン機が丸いティーテーブルの上にちょこんと乗っている写真が添えられており、その説明が続く。
「このドローン機は体当たり攻撃に用いられ、4~5キロの貨物を搭載することができる。エンジンは電動式。その特徴は、組み立て式で使い捨てが可能。というのもドローンの大部分はワックスペーパーと輪ゴムでできているからで、レーダーではほとんど探知できない。
今夜(26日)コフルは、BMP(基本作戦指令システム)を搭載したドローン機と、なにも搭載していないドローン機多数をちりばめて発射した。
ドローン機にどのようなエンジンが搭載されていたかは不明だが、電動ドローン機だとすればウクライナから発射されたものではない。
対抗策は標準的に、GPS妨害、スターリンク宇宙インターネットの制御周波数妨害、トレーサー付き機関銃、暗視照準器、ヒーター、サーチライト、そしてもちろん可能な限りガビオン(石堤)、土のう、ネットなどだ」
Cardboard drones from Australia used in attack on Russian airfield.
— Vasyl Myroshnychenko (@AmbVasyl) August 29, 2023
Ukraine’s ambassador to Australia Vasyl Myroshnychenko said the Kursk airfield was a “legitimate target” for Ukraine’s armed forces.
“Russia uses that airport to launch military operations and send missiles…
また、在豪州ウクライナ大使館は8月29日、X(旧ツイッター)に次のような声明を投稿した。
「豪州製のボール紙のドローン機がロシア空軍基地攻撃に使われた。ワシル・ミロシュニチェンコ大使は『クルスク空軍基地はウクライナ軍の合法的な標的だった』と言い、『ロシアはその基地をウクライナに対する軍事作戦に使用し、ミサイルを発射していたからだ』と述べた」
豪州製のドローン機の使用を正当化するための投稿だったと考えられるが、これでSYPAQ社のドローン機が使われたことがウクライナ側でも確認されたことになった。
戦場でも簡単に組み立てが可能
SYPAQは豪州メルボルンのシステム会社で、企業のシステム化のコンサルティングなどの他、宇宙、防衛開発にも関わり、昨年CORVOドローンを開発した。
On day 3 of @AvalonAIA it was our absolute honour and privilege to host the Australian Deputy Prime Minister, The Hon. Richard Marles MP and the Ukrainian Ambassador to Australia, His Excellency, Vasyl Myroshnychenko. pic.twitter.com/LFO91NOuqq
— SYPAQ (@SYPAQ_Official) March 2, 2023
SYPAQのホームページによると、CORVOの仕様は、翼幅:2メートル、自重:2.4キロ、搭載量:3キロ、飛行時間:1~3時間、航続距離:40~120キロ(搭載量、バッテリー次第)、巡航速度:60キロ/時、離陸:手放しまたはカタパルト、回収:胴体着陸となっている。
誘導装置の詳細は説明されていないが「一旦発射されると、システムはオペレーターからのさらなる入力を必要としない。目的地まで自立的に移動し、アシストなしで着陸する」とある。

ホームページが強調しているのは、戦場でも簡単に組み立てられることで、本体は76センチ×51センチ×4.5センチの箱で供給され、最小限の工具で簡単に組み立てることができるとする。
その翼と機体の素材だが、ホームページには「折れ曲がる発泡ボード」とある。ボードの素材が何か分からないが、ロシアの「ファイターボンバー」は「ワックスペーパー」としているので、ワックス加工されたボール紙のようなものと推測できる。

翼と機体がボール紙製であれば、金属製の航空機やミサイルを探知するためのレーダーではなかなか捉えられないはずだ。加えて電動モーターで静かに忍び寄るドローンは「忍者」に襲われるような恐怖心を与えることだろう。
また、今回ドローンが攻撃したクルスクの町は、ウクライナの国境から100キロほど離れている。CORVOが何も積んでいなければギリギリ飛行可能な距離だが、爆弾を搭載した場合は重量が増してそこまでは届かないはずなので、「ファイターボンバー」が指摘するようにウクライナ領内から発射されたとは考えにくい。ウクライナの秘密部隊かロシアの反政府分子が、ピザ配達用の箱ほどのドローンの組み立てキットを密かにロシア領内に持ち込み、基地近くから発射したのかもしれない。

ロシアでは8月29日夜から30日にかけて、同国北西部プスコフの空港にドローン機の攻撃があり、大型輸送機イリューシン76型機4機が損傷を受け、そのうち2機は炎上したと伝えられたが、この攻撃にもCORVOが使われたのではないかと言われ始めている。(ニューヨーク・ポスト紙電子版・1日)
プスコフはウクライナ国境から600キロ余離れており、従来のドローン機でウクライナ側から攻撃するのは至難の業だ。CORVOを基地近くで組み立てた後、発射した可能性は十分あり得ることだ。
神出鬼没が可能なことでも「忍者」的な存在だが、その値段が1機約3500米ドル(約50万円)と他のドローンと比べて安価なのも強みだ。
ウクライナ紛争は「ハイテク兵器の実験場」とも言われているが、その中でボール紙製ドローンが戦果を上げているのは、ローテクも捨てたものではないことを思い起こさせてくれている。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】