室町時代の水軍の歴史を受け継ぐ広島・大崎上島の「櫂(かい)伝馬」。200年以上の長い歴史を持つ伝統行事で、コロナ禍で中断されていたが、4年ぶりの復活となった。
島の男たちの熱い思いを取材した。
室町時代の水軍の文化を現代に伝える
瀬戸内海の中央に浮かぶ、大崎上島。橋のかかっていないこの離島には、およそ7000人が暮らす。

子供たちと船に乗るのは、藤原啓志さん。

過疎化が進む瀬戸内の島に暮らす藤原さんは、島の文化を少しでも次の世代に伝えようと奮闘している。

船をこいだ子供:
楽しかったよ。おばあちゃん

藤原さん:
子供たちがこいでくれないと、いくら僕たちが一生懸命がんばっても未来はないですから

大崎上島に伝わる櫂伝馬の歴史は古く、室町時代に活躍した水軍を受け継ぎ、島の各地区の代表が、そのプライドをかけ速さを競いあう海の祭りだ。

藤原さんも、幼い頃、世代を超えた男たちが、無我夢中で船をこぐ姿に憧れ、そのとりこに。
しかし、その伝統行事もコロナ禍の影響で中止になっていた。

4年ぶりに男たちが息を合わせ船をこぐ
7月、4年間中断していた祭りの復活が決定。
この日、藤原さんが指導する久しぶりの合同練習に集まったのは、多くの中高生ら。

藤原さんが、こぎ方を教えてきた子供たちが船に乗れる年齢に成長し、今年、こぎ手として初めて参加する。長く続いたコロナ禍で、練習ができず、船をこぐ櫂の動きはバラバラ。本番までに間に合うのか不安が募る。

藤原さん:
櫂伝馬で一番大事なのは14人が櫂を合わせること。櫂をつける、出るところも一緒。
櫂のつかる深さも一緒。14人が14人のことを気にしながらこぎ始めて大分良くなった。
櫂伝馬競漕は優勝以外意味がない。優勝を勝ち取りたい。

藤原さん:
去年、志半ばで櫂伝馬競漕ができなかったので、4年ぶりの祭り。思いが強いからがんばりたい。この子たちが、10年20年後の櫂伝馬、島の未来をつくっていく

迎えた本番当日、藤原さんたちは自分たちが住む天満地区の代表として、プライドをかけて挑む。藤原さんたちのチームの色は赤。

藤原さん:
祭りが来た。4年ぶり。泣きそう

こぎ手ら:
早い

櫂伝馬競漕は4つの地区が4回競い、その総合得点で順位が決まる。

1回戦は短距離のスピードを競う。

4隻ほぼ同時に折り返し地点へ。互いに譲らない戦い。果たして…。

「1位天満!」「よっしゃー」
天満地区が1位でゴールし、まずは一歩リード。

しかし、3回戦の競漕で、思わぬ事態に…。
白熱して隣のチームと小競り合いに
4隻の戦いが白熱し、天満地区は青色の郷地区と衝突。身動きが取れなくなり、大きく後れをとった。

3回戦終了後、両チーム間で小競り合いが起きる事態になった。
「何がこら」「やめろや」

男たちが真剣に競い合う伝統行事。だから、感情がこみ上げ、簡単には引けない・・・。
最後の競漕を前に藤原さんの天満地区は暫定1位。だが、どの地区も優勝する可能性が残っている。

藤原さん:
今、暫定1位。暑い中、3レースみんながんばった。最後1位でみんなが待っている湾に帰ってきましょう

最後の戦いが始まった。

本気で挑む大人たちの姿に、若い世代は声を枯らし仲間を鼓舞する。

そして、それを見守る若者たち。藤原さんの櫂伝馬への思いは次の世代にしっかりと届いていた。

一番先に戻ってきたのは…天満地区の船。
藤原さん:
やったー

こぎ手らにも喜びが溢れ出る。

藤原さん:
中途半端にしのぎを削るのではなく、本気の戦いをやるからこそ、途中熱いバトルになりましたけど、それを含めて祭りだ。真剣な姿を見て子供や地域の人が喜ぶ

櫂伝馬の競漕が終わり、始まった花火大会。

白熱した戦いを繰り広げた相手も、島の伝統をともに伝えていく大切な仲間だ。

藤原さん:
コロナ禍で伝統行事ができなかったけど、守っていく人が1人でも10人でもダメ。4地区が揃ってできてうれしい

コロナ禍を経て復活した瀬戸内の伝統行事。200年以上の歴史は、櫂伝馬を愛する熱い男たちに受け継がれていく。
(テレビ新広島)