夏の甲子園で優勝候補の一角、広島の広陵高校に劇的な勝利を収め、15年ぶりのベスト8進出を決めた慶応義塾高校。
19日の沖縄尚学との準々決勝対戦を前に、慶応野球部OBで、自らもベスト8を経験した元日本ハムファイターズの白村明弘氏に、チームの強さの秘訣と今後の戦い方などを聞いた。
「絶対大丈夫」日々の努力が自信に
ーー白村さんの経歴は?
僕は岐阜県出身で、中学校まで岐阜にいて、高校から神奈川県の慶応義塾高校に入学し、大学も慶應に進み、その後北海道日本ハムファイターズで7年間プレーして、今は金融の仕事をしています。

ーー慶応は5年ぶりの夏の甲子園出場だが?
これまでは、第100回大会など、統一大会の時には出ていましたが、神奈川県の代表校の1つとして出るのは結構久しぶりなので、本当にすごいことだなと思い、嬉しいです。
神奈川県大会の準決勝、東海大相模戦から全試合見ています。
流れ的に厳しいなという展開でも、そこをはねのけてしっかり勝ち上がっているので、本当に強いなと思います。

ーー15年ぶりにベスト8進出の要因は?
シンプルにバッティングが良いのと、違うタイプのピッチャーが3人いる点が強いところだと思います。
そして、どんな逆境でも楽しそうにプレーしているというか、球場の雰囲気は結構相手側にある中で、選手たちは自分のペースでやっているところが強さの要因かなと思います。
彼らの日々の努力が自信に繋がっていて、「絶対大丈夫」との思いがあるのだと感じます。
森林監督に学んだ「気持ちのコントロール」
ピンチの時もマウンド上で時折笑顔が見られる慶応の選手たち。
白村氏自身も、調子が悪い時の感情のコントロールの大切さを森林監督から教わったと話す。

ーーチームを率いる森林貴彦監督とは面識ある?
僕が15年前に慶応高校野球部の現役だった時は、森林監督はコーチでした。
頻繁に来る感じではなかったものの、来るたびに僕のモチベーションを上げてくれたり、選手への気配りをしてくださる方でした。
頻度がそこまで多くなかったので、技術的なことを言うと僕がこんがらがってしまうだろうと多分理解してくれていたのだと思います。
なので、気持ち的なところをサポートしてもらっていました。

ーー具体的にどういった言葉をかけてもらった?
僕は気持ちが弱く、浮き沈みが激しく、調子の波もあったので、常に「自分をコントロールしろよ」という言葉をかけてもらっていました。
自分を見失いやすいタイプだったので、良い時も悪い時も感情をコントロールして、周りの選手に「あいつ調子悪そうだな」という態度を見せないように心がけるようになりました。

逆に調子が良いとルンルンになるタイプだったので、そこはブレーキをかけました。
高校の最初の頃は一人相撲してばかりでしたが、周りが見えて、気を配れるようになったと感じます。
森林さんは、ピンポイントで選手のフォームを見るというよりも、本当に広い目で選手だけでなく、チームとしてどうモチベーションを上げていくかを常々考えていて、僕はそこに救われたし、素晴らしい監督だと思います。

ーー当時の森林コーチには何て呼ばれていた?
僕は「ハク」と呼ばれていて、コーチのことは「森林さん」と呼んでいました。
“監督”とか“コーチ”と呼ばないのが慶応のやり方で、当時の上田誠監督も「上田さん」と呼んでいました。先輩だから「さん付け」というのが慶応の文化だと思います。
「森林コーチ」と呼んだことは一度もないし、今お会いしても「森林さん」と呼びます。本当に素晴らしい方で、今でも大好きで、時々連絡を取り合っています。
開会式では浮いていた“自由な髪型”
また今大会で話題になっているのが、丸刈り頭じゃない“髪形”。
白村さん自身も甲子園に出場した際、ほかの出場校からのピリピリした視線が今でも記憶に残っているという。

ーー慶応の選手の髪型も話題だが?
僕が現役だった時から髪型は丸刈りではなく、自由で良かったので、そこに惹かれて入学したところもあります。当時から野球部っぽくないところが魅力だなと思っていました。
部員は1学年50人ぐらいで、全体だと150人ほどですが、丸刈り頭は1人いるかいないかといった感じで、逆に目立っていました。

甲子園に3回出場しましたが、初めて出た時の開会式ではめちゃくちゃ浮いていました。(笑)
その時は横浜高校と一緒に出場して、横浜高校とは仲が良いので話すんですけど、他の高校は「なんで髪の毛長いんだ?」みたいな感じで、全く話してくれなくて。あの開会式のピリピリ具合は相当なものでした。
でも、今は慶応が少しずつ甲子園の常連校になっていって、そういった雰囲気もなくなってきたと思います。

ーー2008年の白村さんの髪型も長いですね。
髪型にこだわりはなかったんですけど、丸刈りは僕にはちょっと似合わないので短髪がいいかなと思っていました。
今、野球人口が減っているので、髪型は自由の方が良いのかなと思います。
今回の甲子園を見ると、慶応以外にも丸刈りにしていないチームがあるので、浸透していっていると感じます。時代が僕たちに追いついたんですかね。(笑)
強さの秘訣は「自主性」
一方、選手と監督は対等な関係で、自主性を重んじているのが慶応ナインの強さの1つ。
普段の全体練習後は各々が自主練に取り組み、チーム力アップに大きく貢献していたと白村氏は話す。

ーー髪型以外にも自由だったことは?
今はわかりませんが、当時は自主練習が多かったです。
チームで決められた練習は本当に少なくて、慶応の野球部の教えとしては「しっかり自分で考えて練習する」ことが大事だったので、自主練を頑張るところが大きかったと思います。
学校は14時50分までで、全体練習は15時半~18時。その後は室内練習場で「俺が打つ」とみんなで取り合っていました。
ピッチャーは、ランニングしたり、ウエイトトレーニング、体感トレーニングなど、各々考えてやっていました。

野手は遅い人だと21時ぐらいまで練習している人もいました。
僕もプロ入り後、ピッチャーからバッターになって、バッターの練習がめちゃくちゃきつかったので、あの時の選手たちは凄かったんだなと思いました。
慶応に根性論はありません。
賢い選手が多く、自分は何をしないといけないのか、この場面だったらどういう動きをするべきなのかがわかっている集団が慶応義塾なので、そこが強みだと感じます。

ーー甲子園3回出場の思い出は?
最初の2回は先輩方がすごかったので、そこに乗っかって連れて行ってもらった甲子園でしたが、3回目は自分の力で行きたいと思い、なんとか出場できました。
高3の春の選抜のマウンドに立ちましたが、調子が悪すぎて、「何とか抑えないと」と自分の気持ちをコントロールして必死に投げていたので、楽しんでいる余裕はなかったです。
甲子園出場を決めた時点で監督たちは僕の成長を感じてくれていたと思うので、調子が悪くても最低限のパフォーマンスはできたと思います。
ひいき目なしで慶応が優勝
次の沖縄尚学に勝てば、103年ぶりのベスト4となる慶応。
15年前の甲子園で沖縄代表に敗れた経験を持つ白村氏は、「運命のようなものを感じる」として、雪辱を期待すると話す。

ーー次は沖縄尚学との対戦だが?
勝つと思います。
今年の甲子園は、ひいき目なしで慶応が優勝すると思っています。
仙台育英もいますが、僕は優勝すると思っているので、今まで通り変わらずに、どんな逆境でも笑顔で自分たちらしくプレーしたら良い結果がついてくると思っています。
15年前、僕が高校2年生の時にベスト8で負けた相手が沖縄の浦添商業だったので、やり返してほしいです。また沖縄代表と対戦することに何か運命のようなものを感じます。

ーー勝利の流れがある?
広陵との試合は絶対に負けるような流れでした。それを覆すあのチーム力は本当すごいと思います。
ピンチを何回も最小失点で切り抜けたあの1つ1つのプレーが、延長でのタイブレークで相手のミスを誘い出したんだと思います。

ーー清原和博さんの次男、勝児内野手の存在は?
彼が出てくると球場の雰囲気がガラリと変わるので、大事な場面できっと彼の力が必要になると思います。
彼が中学3年生の頃、室内練習場で清原さんと一緒にいる時に偶然会ったことがありますが、とても落ち着いていて堂々とした雰囲気で、すごいことになりそうだなと思った記憶があります。
これからの試合は、本当に大事な場面で彼が力を発揮すると思うので期待しています。