8月12日にアジア・日本初開催となった「ストリートリーグ東京大会(2023 SLS CHAMPIONSHIP TOUR - TOKYO presented by Nikon)」。

この世界最高峰の舞台で優勝した堀米雄斗(24)は、日本の大エースとしての姿を多くの人に知らしめた。

彼が見せた世界で初めてのニュートリック「ユウトルネード」。

そんな彼や世界のトッププロスケーターらは長年、目指しているものがある。

常人には想像すらできない技

今回、堀米が見せたニュートリック「ユウトルネード」。

堀米が7月10日に自身のインスタグラムに、この技を「What the name this trick?」というメッセージと共に公開。

すると、堀米は多くのコメントの中から「Yutornado」に反応し、このコメントに本人が「I like itttt」と返信していることで、この名前がついた。

その後、SLS東京大会直前にストリートリーグ公式インスタグラム(フォロワー数約258万人、8月16日現在)からアニメーション形式で正式に「ユウトルネード」が紹介されたという経緯となっている。

ユウトルネード
ユウトルネード
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SNSでの投稿をきっかけに自身のオリジナルトリック名が決まるという、ユニークな部分もスケートボードならではだ。

正確には「ノーリーバックサイド270 ノーズスライド270アウト」という技で、進行方向側のデッキの先端を弾いて飛び上がってから(ノーリー)、空中で270度回転して、コース上の構造物に飛び乗り、デッキの先端で滑ったあと、着地の前にさらに空中で270度回転してから降りるというもの。

1つのトリックで、合計540度(1回転半)回っていることになる。

ひたむきに進化させ極めた1トリック

この技は、普通のスケーターは想像できたとしても、実際にはできない。

いや、もはや想像することすら常人には不可能かもしれない。

ノーリーバックサイド270ボードスライド
ノーリーバックサイド270ボードスライド

このトリックを思いつくという想像力が、「ノーリー」というトリックをひたむきに極めてきた彼にしかできないことなのだ。

それほどずば抜けて実現不可能なことを堀米は、コンテスト中に1発勝負の場面で、少しのブレもなく完璧にやり遂げた。

これを解説することは、よほど博識のトッププロスケーターでなければ、どんな感覚なのか、どのように体を使えばいいのか説明することは難しいだろう。

喉から手が出るほど欲しいタイトル

そんな堀米とよく比較されるのが世界最強のスケーターと言われる、アメリカのナイジャ・ヒューストン。

彼はSLS通算24回の優勝を誇り、スーパークラウン(年間王者)にも6度輝いた経歴をもつスケートボード界のキングオブキングスだ。

今大会3位だったナイジャ・ヒューストン
今大会3位だったナイジャ・ヒューストン

あくまで一般的な目線での話になるが、世界トップクラスのプロスケーターが求める権威あるコンテストは、本場アメリカで最も歴史がある大会の1つ、「Tampa Pro(タンパプロ)」「X Games」「ストリートリーグ」、最近ではオリンピックではないだろうか。

堀米に関しては、3月に行われたタンパプロを日本人で初めて制覇し、一見全てを得たように思えるが、まだSLSスーパークラウンは1度も手にしたことがない。

ナイジャ・ヒューストンはスーパークラウンをはじめ、先に述べた大会全てを制覇しているが、オリンピックの金メダルは手にしていない。

互いが互いの持っているものを唯一手にしていないということになる。

2人が求めるスケート界最高の栄誉SOTY

そしてこの世界で1、2を争うほど有名なスケーターである2人が手にしていない唯一の称号、それが世界一有名なスケートボード専門誌『Thrasher Magazine(スラッシャーマガジン)』が毎年発表するSkater Of The Year(スケーター・オブ・ザ・イヤー、通称:SOTY)だ。

この「SOTY」に選ばれるには、必ずとパートと呼ばれるストリートで撮影された数分間の映像を世に公開する必要がある。

スケートボードは何と言ってもストリートから生まれたカルチャーだからだ。

堀米が大切にする“カルチャーとしてのスケートボード”、その称号の代名詞と言えるのがSOTYだといえる。

この数分のパートを完成させるためには数カ月、時には数年にも渡って撮影し、やっと完成させる。

それほどまでにパート撮影は自身のスケートスタイルのこだわりを凝縮するため、誰もやっていないスポットや技をストリートで映像におさめなくてはならないため、撮影は過酷を極める。

2人とも毎年世界で開催される大会に出場しながらも、パート撮影を続け世界中のスケーターの度肝を抜かすパートを残し、SOTY候補に何度かノミネートはされているが、未だ手にしてはいない。

オリンピック予選やストリートリーグなどに出場しつつも、こういったカルチャーとしてのスケートボードを求め続ける彼らの姿にも注目だ。

熾烈を極めるパリ五輪代表への道

2024年に開催されるパリ五輪・スケートボードは各種目、世界中から22名が出場できるが1カ国につき最大で3人までとなっている。

堀米は現在パリ五輪予選ツアーを3戦終えて、全体18位に位置しているが強豪日本勢の中では5位。

堀米が着ていたTシャツには好きな数字「7」。誕生日(1月7日)や今大会7度目優勝など7が偶然にも並ぶ
堀米が着ていたTシャツには好きな数字「7」。誕生日(1月7日)や今大会7度目優勝など7が偶然にも並ぶ

今大会(SLS)後のインタビューで本人も「パリオリンピックの予選大会は調子が悪くて、まだ出しきれていない部分もあるから、次に向けてコンディションを整えて、気を抜かずに楽しみながらやっていきたい」と話していた。

だが、世界最高峰の舞台で圧倒的なまでの強さを見せてくれた今大会は“堀米雄斗をパリオリンピックでも絶対に見たい”とオーディエンスに思わせるには十分すぎる内容だった。

今後さらに熾烈を極めてくるパリ五輪予選ツアーは9月にスイス・ローザンヌで開催される。

写真・文 小嶋勝美 スケートボード放送作家