石川県の一級河川、手取川にかかる北陸自動車道の手取川橋。現在この橋の架け替え工事が2年がかりで行われている。時速100kmの車が行き交う巨大な橋をいかにして架け替えるのか。この壮大なプロジェクトに密着した。

北陸初の巨大工事

キリンのように首の長い重機でコンクリートを掘り起こし、約20tのパーツが宙ぶらりんに。NEXCO中日本金沢支社の森島貴代治支社長は「道路橋としては初めての試みで、北陸地方では初めての大規模な工事」と話す。

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3か月間で延べ1万人以上が関わる一大プロジェクトだ。NEXCO中日本金沢支社の加藤陽一副所長は「高速道路を100年持たせる為に架け替えを行う」と責任の大きさを語った。

加藤陽一副所長
加藤陽一副所長

プロジェクトが動いたのは2023年5月のGW明けだ。北陸道の美川ICから小松ICの一部、約6.5kmを対面通行規制にすることによって、一般車の通行と工事の両立を可能にした。

一般的に、高速道路の橋は車が走行している部分の床版、その下の橋桁、それらを支える橋脚で出来ている。工事が行われた手取川橋の全長は約550m。初めに床版を削り、古い橋桁の上に新しい橋桁を設置する。その後、古い橋桁を取り壊し、新しい橋桁を元の位置まで下ろす。新しい橋桁のパーツは高さ2.5m、長さ5m、重さは約20tにもなる。これをクレーンで吊り上げ約550mの橋いっぱいに並べていく。

重大な仕事を任された若手職員

工事の様子をじっと見つめていたのは金沢支社2年目の金綱しおりさん。幼い頃から車で旅行に出かけることが多く、高速道路に慣れ親しんでいたことからNEXCO中日本への入社を決めた。「不安なことも多くあるんですが、ワクワクもあります」と話す金綱さんが行うのは、工場から送られてきた橋桁を組む前に、製品に問題がないか最終チェックをする重要な任務だ。「アスファルトのすぐ下の床版部分の取り替えしか携わったことがなかったので、床版より更に下の支承の部分まで工事に携わるのは初めて」だという。

金綱しおりさん
金綱しおりさん

北陸自動車道が開通したのは1972年。手取川橋はこの時に誕生した北陸道で最も古い橋だ。1972年と言えば、沖縄が日本に復帰し、上野動物園で初めてジャイアントパンダが一般公開された年。金沢西ICから小松ICの23.2kmから始まった北陸道は、今や国内で3番目に長い路線へと成長した。

1972年の北陸自動車道
1972年の北陸自動車道

海に近く劣化が進みやすい

手取川橋の完成から51年。橋桁が傷み大規模な工事が必要となったわけだが、劣化が進んだ大きな原因はこの場所特有のものだった。加藤副所長は「海岸から約50m程度の場所にあり、飛来塩という塩分が飛んでくる」と手取川橋の置かれた環境を説明する。海風によって塩分が付着した部分からサビ始め、徐々に橋が傷んでいったというのだ。

そこで今回、土台となる橋桁をコンクリートからステンレスクラッド鋼に変えた。サビに強く、タンカーや水門などにも使われている金属だ。これによって砂や塩に強い橋に生まれ変わるという。橋の原料としてこの金属が使用されるのは世界初だそうだ。

ステンレスクラッド鋼
ステンレスクラッド鋼

さらに橋桁同士の繋ぎ方にも工夫がある。「通常、ボルトは全部外に出ているので、塩などが付くとボルトの角ばったところからサビてくる。ボルトを極力なくすために全て溶接するこの工法は画期的で、特に塩の対応については一番いい方法」と加藤副所長は断言する。サビに強い材料とサビを防ぐ方法を融合し、塩によるサビ対策は万全だ。

100年耐えられる橋へ

着工から約3カ月、全ての橋桁がつながった。金綱さんは溶接したつなぎ目に不具合がないかチェックを行っていた。溶接した部分の厚さを測り、「2mmなので合格です。規定上厚さを3mm以内に収めないといけないので」と一つ一つ確認していく。全ての溶接部分を機械で確認した後、溶接に問題が出やすいところをポイント毎に確認するダブルチェックを行う。2週間以上かけて確認した結果、問題となる箇所は見つからなかった。

金綱さんは「こんな大規模の工事があるってことに新鮮さを覚えました。『100年持つ橋』というコンセプトを掲げているので、今後100年無事に供用できるような橋が完成すればいい」と期待を込めた。2023年8月からは橋桁の取り壊しへ移る。上り線の架け替え工事は2024年のゴールデンウイーク前に完成予定で、その後下り線の工事を同じように1年間かけて行う計画だ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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