愛媛と高知を結ぶ全長76.3kmの「JR予土線」。沿線には愛媛・宇和島市、鬼北町、松野町と高知の四万十市、四万十町の5つの市と町がある。2023年秋の法律改正にともない、全国で赤字ローカル線の存廃について議論が活発になるとみられる中、利用客数が低迷する予土線の関係者にも警戒感がにじむ。にぎわい創出に向け、新たな取り組みを始めた沿線の今を取材した。

地元で愛される予土線が“廃線の危機”

山あいの田園地帯や四万十川の清流、まさに日本の原風景の中を列車が走る。

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「0系新幹線」をはじめ「鬼」をモチーフにするなど趣向を凝らした車両で注目されているJR予土線。沿線の人々にとっては長年頼りにしてきた貴重な地域の足だ。

予土線は1974年に全線が開通し、多くの利用客が開通を祝いにぎわった。しかし今、「利用客の低迷」の理由で、路線の存続が危ぶまれている。

背景にあるのは、マイカーの普及と沿線の人口減少。JR四国によると、1kmあたりの1日の平均乗客数を示す「輸送密度」は1989年度には575人だったが、2022年度は220人。この30年余りで6割も減少した。

路線の存続か、廃線か。国は輸送密度「1,000人未満」を、存廃協議を始めるかどうかの目安にしている。この目安を大きく下回る予土線は、特に注目される路線の1つだ。

6月に大洲市で開かれた四国知事会でも、秋の改正法の施行をにらみ、“廃線ありき”の議論が始まらないよう、沿線の知事から国に“釘を刺す意見”が相次いだ。

愛媛・中村時広知事:
ただ単にこの路線をなくすとか、バスにするんだとかいうような乱暴な意見には乗れないんではないかなと

高知・濵田省司知事:
そもそも県境をまたがる交通は、国がしっかり責任を持ってもらわないといけない

予土線は「なくてはならない公共交通機関」

7月中旬、予土線沿線の松野町松丸駅には、朝7時過ぎに地元の高校生たちが駅舎に集まってきた。

高校生:
北宇和高校です。通学で使ってます。一般の人はたまに少し乗ってるぐらい

到着した1両編成の車両に乗っていた乗客は20人ほど。ほとんどが通学の高校生だ。列車は10分ほどで、お隣・鬼北町の近永駅へ。駅を降りると、北宇和高校は歩いてすぐの距離だ。

高校生:
通学も便利だし、遊びに行ったりする時とかに利用できる。残ってほしいです

高校生:
これからもずっとあった方がいいと思います。車にまだ乗れないので、遠くに行きたい時とか列車を使って行くことがあるので。一般の利用客が少なくて学生が多いので(そこが問題)

隣町まで通学する高校生たちにとって、予土線はなくてはならない公共交通機関。そして、学生と同じくらい予土線を頼りにしているのが高齢者だ。

高知県から宇和島の病院へ向かう高齢者:
宇和島の病院に行きよる。近くに診療所があるがやけんど、やっぱりケガによるから診療所じゃダメなんですよ

足腰の弱った高齢者にとって、地域の公共交通は生活のために欠かせないインフラだ。

ーー予土線があった方が便利?

高知県から宇和島の病院へ向かう高齢者:
便利な。なかったら大事よ、年寄りは。それを廃止するとかいろいろ言ってた。全然、われわれみたいな足のない者は困ってる

「駅前マルシェ」で新たな魅力をPR

利用者から心配の声が上がる中、沿線の市町は予土線の利用促進に向け、新たな取り組みを始めている。

7月下旬、近永駅の駅前にグルメの屋台やキッチンカーが集合し、約2,000人の来場者でにぎわった。2023年度から始まった「駅前マルシェ」だ。

県や沿線の3つの市町などが企画したもので、伊予宮野下駅・近永駅・松丸駅の3つの駅前を会場に、2023年2月まで毎月持ち回りで開かれる予定だ。地元特産のキジ肉料理に、北宇和高校の生徒らによるかき氷。まるでお祭りのような楽しい屋台の数々がならぶ。

そんな会場で目についたのが、手作りの角を付けたかわいい「赤鬼」たち。「鬼」の町・鬼北町をPRしようと考えられた、マルシェの“ドレスコード”なのだ。

鬼北町からの来場者:
たまに1台だけ(キッチンカーを)道の駅とかで見たことあるが、きょう来たらたくさん並んでる。これだけの規模はなかなかない。みんなで楽しみたい

宇和島市からの来場者:
(隣の宇和島市)三間町から来ました。きょうも列車で子どもが喜ぶかなと思って来たけど、結構乗ってる人も多くて、こうやってイベントで人と人が集まるのはいい

もちろんマルシェの目的は予土線の利用促進。そのための仕掛けも万全だ。それが会場で使える500円分のクーポン券だ。

会場スタッフ:
駅前のお店でだけ使えますので楽しみください

予土線を利用して来てくれた人たちに、先着順で配られた。

鬼北町からの来場者:
うちの長女は学校通うのに予土線使ってるので、とても必要な線路。車でも来れるが、きょうは応援のために予土線で来ました。久しぶりだと、乗り方が分からなかったりするので、何かひとつのきっかけで(予土線を)使うことがあればいい

鬼北町内からの来場者:
列車で来ました。(マルシェは)鉄道の存在を改めて実感するいい機会になるなと思った

ーークーポンは?

鬼北町内からの来場者:
いただきました。さっそく、かき氷をいただいた

子ども:
楽しかった

鬼北町内からの来場者:
なかなかこういう機会がないと列車乗らないので、列車に乗せるいい機会になった

クーポン券は2時間ほどで配布を終了。主催者の予想を超える130人余りが予土線を使って鬼北町の近永駅にやって来た。

鬼北町・兵頭誠亀町長:
これほどのお客さんが近永駅に来ていただくことはあまりないので、感激に近い思い。継続的に四万十市・四万十町・松野町・宇和島市・鬼北町の(沿線の)5つの市町が、今までの予土線以上の財産・宝物がないか探しているので、いろんな方に届けていきたい

存続に向け「待ったなし」の岐路を迎えているローカル線。沿線ににぎわいを生み出すために何ができるか、模索が続く。

(テレビ愛媛)

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