トランプ米前大統領が連邦議会占拠事件に関与した容疑などで3度起訴され、2024年の米大統領選に出馬できるか注目されている折に、共和党内で37歳という若い無名の候補者が頭角を現してきた。

ビベック・ラマスワミ(Vivek Ramaswamy) 候補がその人で、2023年2月にFOXニュースの番組に出演中に大統領選への出馬を表明したが、それまでは目立った政治的な活動もせず有力な支援者もいなかったので、マスコミには泡沫候補として扱われてきた。

共和党の“若き新星” ビベック・ラマスワミ氏(37)
共和党の“若き新星” ビベック・ラマスワミ氏(37)
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ところがここへきて支持率が急にアップし始め、8月6日、各種世論調査をまとめたリアルクリアポリティクスの共和党候補の支持率調査では、1位がトランプ前大統領の53.7%、2位がフロリダ州のロン・デサンティス知事の15.7%に続いてラマスワミ氏が6.0%と3位につけ、マイク・ペンス前副大統領やニッキー・ヘイリー元国連大使など大物の候補者を抑えてしまった。

トランプ前大統領の最大のライバルと見られていたデサンティス知事が、LGBTQ問題や黒人奴隷問題で超保守的な立場を打ち出して失速気味の中でのラマスワミ氏の台頭は、関係者の目を見張らせるのに充分だった。

戦略的に“トランプ支持”?

ラマスワミ氏は1985年、インド人移民を両親にオハイオ州シンシナティで生まれた。幼い頃から勉学に優れ、ハーバード大学卒業後はヘッジファンドで修行し、2014年には自ら製薬会社を起業して巨額の収益をあげていた。

共和党候補指名を争う13人が参加したイベントにラマスワミ氏も登壇(アイオワ州デモイン 7月28日)
共和党候補指名を争う13人が参加したイベントにラマスワミ氏も登壇(アイオワ州デモイン 7月28日)

その政治姿勢は伝統的な保守派で「小さな政府」を志向し、当選すれば教育省や連邦捜査局(FBI)、それに内国歳入庁(IRS)を廃止すると公約している。また、妊娠中絶に反対し地球温暖化対策にも消極的なことなどは他の共和党候補者と共通しているが、目立つのはトランプ前大統領への強い支持表明だ。

「私が大統領に就任したら、政治化した訴追からトランプ前大統領を恩赦する」

ラマスワミ氏は7月30日、CNNのインタビューにこう断言した。

これはトランプ前大統領の政治姿勢に賛同するというよりは、それがラマスワミ氏が当選できる唯一のシナリオだからだろう。

今のまま共和党の予備選が推移すれば、トランプ氏が候補者に指名されるのは間違いない。しかし、3回の起訴で訴追された78件の罪状の中で1件でも有罪になれば、予備選の行方は混沌としてトランプ前大統領が出馬できない事態に追い込まれるかもしれない。そうなった場合、今3位のラマスワミ氏が2位のデサンティス知事を追い越すには、共和党内に3割はいると言われるトランプ岩盤支持者を味方につければ良い。そのための布石を打ったのではないのか。

演説したラマスワミ氏(アイオワ州デモイン 7月28日)
演説したラマスワミ氏(アイオワ州デモイン 7月28日)

万一、このシナリオが現実となり2024年の大統領選で当選すると、ラマスワミ氏は就任日に39歳164日となり、米国史上初の30歳台の大統領となる。ちなみにこれまで最も若かったのはセオドア・ルーズベルト大統領(1901年)の42歳322日、続いてジョン・ケネディ大統領(1961年)の43歳236日、ビル・クリントン大統領(1993年)の46歳154日などとなっている。

その若さも最近の支持率アップにつながっていると考えられているが、それでもマスコミはラマスワミ氏を「long-shot(まずはあり得ない)候補者」と扱っている(NBCニュース・7月25日など)。

保守政治活動会議(CPAC)で演説したラマスワミ氏(メリーランド州 3月)
保守政治活動会議(CPAC)で演説したラマスワミ氏(メリーランド州 3月)

ワシントンの政界通の間では、ラマスワミ氏はこの選挙で存在感を押し出して上院議員選や次回2028年の大統領選を目指すのではないかといううがった見方もあるが、いずれにせよ、共和党の大統領選候補者選びはトランプ前大統領の出馬問題と絡んでラマスワミ氏の話題で賑わいそうだ。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。