経団連が7月20日からの2日間、長野・軽井沢町のホテルで夏季フォーラムを開催した。約40人の大手企業の経営トップらが参加し、「資本主義の再構築と人材育成」を統一テーマとして、世界、そして日本で大きく変わりつつある経営環境をめぐって有識者の講演が行われ、議論が交わされた。  

経団連の十倉雅和会長
経団連の十倉雅和会長
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十倉会長は開会の挨拶で、「経団連が標榜する『サステイナブルな資本主義』を実践する事で我々が直面する課題を克服できるのか、今こそ本気度が問われている」としたうえで、「目の前の社会課題を成長の好機ととらえ、投資を振り向け、イノベーションをおこし、成長産業の創出につなげる。そうして得られた成長の果実を、構造的な賃上げや人材育成といった人への投資に振り向け、人が活躍することでさらなる経済成長につなげる」と強調した。 

7月20・21日に開催された経団連の夏季フォーラム
7月20・21日に開催された経団連の夏季フォーラム

高齢化社会・人手不足のなかでの人材育成

1日目は、前国家安全保障局長である北村滋氏、さらに、東京大学経済学研究科教授の柳川範之氏を講師に迎え、「経済安全保障の現状」や「人生100年時代の人材育成」をテーマにしたセッションが開かれ、活発な意見交換が行われた。  

東京大学経済学研究科の柳川範之教授
東京大学経済学研究科の柳川範之教授

「人材育成」をめぐるセッションで柳川氏は、「生成AIはシニア層の活躍の武器になる」として、「生成AIにきちんと質問できるシニア層は相当優れたことがこれからできるようになる。シニア層とAIは相性がいい」と持論を展開した。 

日立製作所の東原敏昭会長
日立製作所の東原敏昭会長

日立製作所の東原敏昭会長は「社会に貢献しているという自覚をもった高齢者はずっと元気だ」としたうえで、「会社内の人材については我々企業が考えていきたいが、将来の社会のブランドデザインとして政府のやるべきことと企業のやるべきことを提示して欲しい」と訴えた。 

資本主義の再構築

2日目の午前中には、『資本主義の再構築』の著者として知られる米ハーバード大のレベッカ・ヘンダーソン教授がオンラインで講演を行った。 

米ハーバード大のレベッカ・ヘンダーソン教授
米ハーバード大のレベッカ・ヘンダーソン教授

ヘンダーソン氏は、地球温暖化に伴う気候変動で「世界が瓦解しつつある」としたうえで、「脱炭素化に向けて官民の協力が必要だが、日本の企業は長期的な観点から伸びる技術を持っている」と期待感を示した。

東日本旅客鉄道の冨田哲郎会長は、「脱炭素への取り組みには莫大な資金と時間がかかる。受容する社会を作っていくことが重要だ」と訴えたほか、ENEOSホールディングスの齊藤猛社長は、「石油精製事業からの事業転換を図るべく、水素や合成燃料、太陽光発電などにも力を入れている」としたうえで、「企業が社会をリードできるという話を聞けて心強かった」と述べた。

フォーラムは、「サステナブルな資本主義」の実現に向けて 「成長分野への円滑な労働移動を促進する継続的な支援 ・社内体制の構築」「能力開発など『人への成長投資』の拡充」や 「『グローバルサウス』とよばれる新興国の社会課題の解決策を日本が提供することによる関係強化」などの内容を盛り込んだ総括文書をとりまとめた。 

2日目の最後には地方遊説中の岸田首相が会場を訪れ、特別セッションが行われた。

このなかで岸田首相は、2023年の春闘で30年ぶりとなる高水準の賃上げが「経済界の決断で実現した」と謝意を示した。そのうえで「官民が協力して、引き続き構造的な賃上げを続けていき、『成長と分配』を循環させることが日本経済を成長させる」として、継続的な賃上げの実現に協力を求めるとともに、先端技術、特に生成AIの開発に取り組むスタートアップ企業への支援を強化することを表明した。  

問われる好循環に向けた取り組み

今回のフォーラムを取材して強く感じたのは、「企業トップの危機感」だ。

三井物産の安永竜夫会長
三井物産の安永竜夫会長

グローバルサウスについての分科会座長を務めた三井物産の安永竜夫会長は「外国人の優秀な人材を確保することは不可欠だ」とし、「外国人が働きやすい環境にすること」が重要で、「日本が選ばれる国になるためにどういうことをしなければならないかという問題意識を皆が持つことが大切だ」と強調した。

東京海上ホールディングスの永野毅会長は、「人口増加社会の中で作られてきた分業化、効率化、機能化などが時代に合わなくなってきている」として、「社会の仕組みや組織の構造を変えないと日本は変わらない」と述べたほか、住友商事の兵藤誠之社長は、「日本のいまの経済構造のままでは世界と戦っていけない。EVやGXなど新しい事業が次々と生まれるなかで、様々な業界で、世界基準となるルールを日本が主導すべきだ」と持論を展開した。

コロナ禍は収束に向かっているが、ウクライナ情勢や米中対立などにより世界経済は先行き不透明で、食糧などの価格上昇が続き、気候変動・経済格差の問題も深刻さを増している。日本国内でも少子高齢化が進行するなか、人材不足が深刻化し、デジタル化への対応の遅れが顕在化するなど課題が山積している。

長引くデフレからの脱却に向けて、賃上げの持続性を高め、成長と分配の好循環を実現させることができるのか、2期目に入った十倉体制のもとでの経団連の実力が問われることになる。

(フジテレビ経済部財界担当 木沢基)

木沢 基
木沢 基

フジテレビ報道局経済部記者。記者歴3年。
電動化を進める自動車業界や、コロナ禍を経て変革している小売り業界などを担当した後、現在は内閣府、消費者庁を担当。