高齢化や担い手不足が深刻な農業。福島県で仕事として農業に従事している人は、11年間で4割減少し2021年度には約4万6000人。一方で、2022年4月からの一年間の新規就農者は334人に上り、1999年の調査開始以来 初めて300人を超えた。若者に農業の魅力を伝えようと取り組む、ちょっと変わった経歴の農家の挑戦を追った。
20歳の若者が酒米作り
2023年5月。福島県福島市の田んぼに賑やかな声が響いた。集まった人の多くに共通していたのが…ほとんどが19歳か20歳の学生だということ。慣れない田植え機の運転にも、緊張しながらチャレンジする彼らの目的は「日本酒」

自分で作った日本酒で二十歳を祝う
二十歳を迎える若者に、自分の手で作った日本酒で初めての「乾杯」をしてもらおうという試みだ。まずは”福島の味”を知ってもらおうとの思いから、福島県オリジナルの酒米「福乃香」が選ばれた。

指導するのは酒米農家
2023年で4年目となるこの取り組みを企画しているのが、福島市の丹野友幸さん(48)
高校を卒業した後、営業や移動販売などの仕事をしていたが、農業を営んでいた両親が酒米を作り始めたことに、日本酒好きの丹野さんが反応。26歳の時に家業を継ぐことを決めた。

知識を深めるため大学へ
丹野さんには農家という顔の他に、もう一つ「別の顔」がある。それが「福島大学の学生」 農業の知識を深めたいと大学に入学。より質の高い酒米を作るためコメの構造などを学んでいる。

福島大学で作物学を教える新田洋司教授は「何よりも丹野さんは、ご自身で田んぼを作っているということで、現場的な視点は非常にある。我々とも違う、大学の教員とも違う、独特の解析の仕方があります」と話す。

丹野さんは「これから福島県が震災から復興していくうえで、産学の連携であったりとか、こうやって若い人たちと一緒に学ぶことで、学び得たこととか気づかされたことも大きい。その後、自分自身の酒米の生産の現場でも役に立っていくと思う」と語る。

若者へ農業の魅力を伝える
「乾杯」プロジェクトは、酒米づくりに惹かれて農業の道を選んだ丹野さんが、若者に農業の魅力を伝える手段でもある。「少しでもコメ作りだったりとか、日本酒の原料の酒米に親しんでもらえればと思いますし、農業を考えるきっかけになればいいと思う。最終的には僕と一緒に飲んでくれれば」と丹野さんは話す。

一粒一粒に詰まった「思い出」と「おいしさ」が、若い世代に農業の魅力として届くように。福島の農業をさらに輝かせる丹野さんの挑戦が続く。

プロジェクトに参加した学生は、稲刈りや酒の仕込みなども体験し、2024年4月に手作りの日本酒で「乾杯」する予定だという。
(福島テレビ)