名古屋市南区にある老舗のきしめん店の4代目は双子の姉妹です。2022年、それぞれがこれまでの仕事を辞め、店を継ぐことにしました。3代目の父が体を壊して不在の中、新たな取り組みも始めて店を盛り立てています。

「今まで食べたきしめんで一番」 打ちたてのきしめんが看板の店

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名古屋市南区名鉄大江駅の近く。工場が多い地区に「釜揚げきしめん一八(いっぱち)」はあります。

アットホームな雰囲気が地元で親しまれている麺どころです。

看板メニューは、もちろん「きしめん」(560円)です。

お昼の一番人気は味ご飯と漬物が付く「きしめん定食(ランチタイム限定)」(850円)で、打ちたて切りたての麺はコシがあると評判です。

巨大な特注釜を使う名物の「釜揚げきしめん」(1300円)は、挿し水を繰り返しながら客が自分でゆでて好みの硬さに仕上げる体験型メニュー。

50年以上前に始めました。

食べ方は「つけめん」と同じで、特製のつゆにネギ・大根おろし・ショウガ、そしてとき卵を入れるのがオススメといいます。

麺の湯切りができるよう、釜のふちが2重になっているのもポイントです。

男性客A:
釜が歴史を感じます

男性客B:
初めてこの釜を見ましたけど、ずっと温かいままでおいしいです。卵が効いていて、甘くておいしいです

男性には、創業以来変わらぬ味のカレーきしめんに、揚げたてのトンカツを乗せる「カツカレーきしめん」(1400円)が好評です。

辛さ控えめながら、濃厚なカレースープとトンカツの相性は抜群で、麺を食べた後にごはんを入れる人も多いといいます。

男性客C:
コシがあってモチモチしていて、僕はとても好きです

男性客D:
今まで私が食べたきしめんでは、ここが一番うまいと思う

先代は療養中…跡継ぎはパン職人とエンタメ業の双子の娘

「釜揚げきしめん一八」は、昭和25年(1950年)に「一八食堂」として創業しました。

釜揚げを始めたのは2代目の有三(ゆうぞう)さんです。3代目の吉明(よしあき 65)さんは、2022年に膝を悪くして療養しています。

代わって、結婚して40年という妻の久登美(ひとみ 64)さんと、母を支える4代目の姉妹が店を守っています。

長女の裕美子(ゆみこ 37)さんは、接客とダシ作りを担当。

次女の千苑子(ちえこ 37)さんは、麺作り。

跡継ぎは、うり二つの双子です。

2人とも、1年前までは違う世界で働いていました。

千苑子さん:
東京でパンの製造をしていて、フランスでも3年ぐらい仕事をして、東京に戻って東京で引き続き

裕美子さん:
私は東京で、韓国のエンタメ会社で、主に韓国ドラマの宣伝をやっていました

パン職人とドラマの宣伝担当だった2人でしたが、そろって実家に戻りました。

裕美子さん:
自然にそういう話になり…タイミング的にちょうどよかったんですかね

千苑子さん:
父が体調が悪い、ひざが悪いとか年齢もあったので

父が休んでしまえば、店は母1人で切り盛りすることに。

ずっと仲が良かった2人は、どちらからともなく実家を継ぐと決め、退職して名古屋へ戻りました。

千苑子さん:
双子パワー?

裕美子さん:
1人だとできないと思います

千苑子さん:
2人だからできるんだと思います

裕美子さん:
せっかく70年以上続いている店なので、無くしてしまうのはもったいないと思ったので

2人だったら、老舗を守ることができる。父がやっていた麺打ちは、パン職人だった妹・千苑子さんが担っています。

修業する時間がなく、父も不在の中、パン作りのノウハウを生かし、独学で麺を再現しました。2023年からは使う小麦粉を海外産から愛知県産に切り替え、進化させました。

千苑子さん:
せっかく名古屋でやっているなら、愛知県の粉を使いたいというのもあって。おいしいですけどデリケートなので、一から試行錯誤して…。すごく試作しました

何度も試作を重ね、老舗の名に恥じない麺を見事に作り上げました。

姉の裕美子さんが受け継いだのは、ムロアジとシイタケでとるダシです。そこに加えるしょうゆとたまり、みりんとザラメなどの分量で、きしめんの味が決まります。

母の久登美さん:
旦那は麺を打つのをお父さんから教えてもらっているので、ダシは(私が)お母さんから教えてもらって

創業以来、ダシは女性が味を守ってきました。

裕美子さん:
もっと足してもいいね

久登美さん:
うん、みりんを足そうか

親子で何度も何度も味見をしながら、完成させていきます。

久登美さん:
大丈夫だね。じゃあこれで

73年もの間、大切に受け継がれてきた「きしめん」。

2人の4代目が作る味は、常連にも「昔のまま」と好評です。

新しい取り組みも…特技を生かし妹がパンを販売

4代目の2人は、新しいことにもチャレンジしています。

久登美さん:
いとこにニンジン農家がいて、ニンジンをいっぱいもらったんですよ。そのニンジンを、あの子(次女)がすり始め、何をするのかと思ったらパンになったので、「あ~ニンジンがパンだぁ」って思って

千苑子さん:
自然にです、自然に作っちゃったんです。ここに小麦粉があったもので

裕美子さん:
それが元々は専門なので、特技を生かすというか…

ニンジンと、きしめんに使う小麦粉がきっかけで始めたパン作りです。

それ以来、麺打ちをする前、午前3時からパンを焼き、店頭で販売しています。

パン職人だった腕前は折り紙つきです。種類も豊富とあって評判になり、パンだけを買いに来る人もいるといいます。

男性客E:
これが好きなの、ベーコンマヨ。これがおいしいんだ。しっとりとして、ちょっと歯応えがある。昔はパンをあまり食べなかったけど、ここでパンをやりだしてからちょっと食べてみたら、おいしいもんだから

ランチタイム終わりの午後2時から午後5時まで、店内でパンが食べられる「パンタイム」も始めました。

好きなパン1つと牛乳コーヒーがセットで500円。

使っている器は、母・久登美さんの嫁入り道具です。

本格的な復帰前に脳出血に…父の回復まで母娘3人で店を守る

店が順調な中で待たれるのは、ヒザを悪くして療養中の3代目の父・吉明さんの復帰です。

しかし、4月半ばに店を訪ねると、入口には吉明さんが脳出血でしばらく店に出られなくなったことを伝える張り紙がありました。

久登美さん:
ヒザの事もあるけど、昼だけはって店に出てもらえるようになっていて、休憩で2階に上がってもらって、その後、自分たちが上に上がったら旦那さんが布団じゃない所に転がってたんで、最初は冗談やってるかと思って…。なんだと思って声をかけたら“うぅ~”って声じゃない声だったんで、おかしいと思って

ヒザが良くなってきた吉明さんを襲った脳出血。幸い発見が早く命に別条はありませんが、マヒが残り入院しています。

当分の間は、また女性3人で店を守ります。

久登美さん:
旦那さんも、「この子たちの思うようにやっていけばいいよ」という感じから始まったので、2人がいてくれるのですごく心強い。おいしいダシもおいしいきしめんも作ってくれているのは間違いないので、安心しています

「きしめんを食べて笑顔になって欲しい」、そんな思いを込めて店を切り盛りする3人。今日も味のチェックに余念がありません。

久登美さん:
(試食して)うん、おいしいね。いつものように、すごくおいしいと思います。どうもありがとうございます

千苑子さん:
これまでやってきたことを守りつつ、これからやっていきたいことを、うまいバランスで2人で話をしながら

裕美子さん:
若い人にも来ていただけるように、これまでにないメニューも考えていければなと思っております

2023年4月27日放送

(東海テレビ)

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