静岡地方裁判所・沼津支部は7月13日、通電させた手袋を妻に押し当て感電死させた男に懲役15年の実刑判決を言い渡した。男は公判の中で「アイアンマンの世界を具現化したいと思った」などと話していた。

通電させた手袋を妻に押し当て殺害

警察による鑑識作業(2021年12月撮影)
警察による鑑識作業(2021年12月撮影)
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事件が起きたのは2021年12月11日早朝。トラック運転手の男(66)は静岡県沼津市の自宅で、ブレーカーに電気コードをつないで通電させたアルミ板を装着させたゴム手袋を両手にはめ、妻の口を押さえた上、手をつかむなどして感電死させた。

当初は殺意を認めるも…

男は当初、殺意を持って犯行に及んだことを認めていた。取り調べでは「2021年夏頃から妻への殺意を抱き、感電死させようと思って準備してきた」ことを明らかにし、「犯行当日の朝、同居する息子が不在だったことから妻の殺害を実行することにした」「道具を装着していたところ妻に見つかり、後戻りはできないと思い、妻の殺害を決意した」などと話していたが、ある時から供述を一変させた。

争点は殺意の有無と量刑

裁判が始まり、検察側は「男が妻の生活態度に不満を募らせていた上に、離婚を切り出され自宅を出ていくよう迫られていたことから殺そうと考え、電気工事に関する知識を悪用して道具を自作し、妻の寝室に行き通電させて殺害した」と主張した。一方、弁護側は男の行為そのものは認めたものの「妻の口に触れたのは驚いての反射的な行動であり、危険性の認識がなかったため殺意は認められない」と反論。このため「殺意の有無」と「量刑」を争点に裁判は進められた。

検察は実験結果や男の経歴を基に立証

静岡地方検察庁 沼津支部(仮庁舎)
静岡地方検察庁 沼津支部(仮庁舎)

検察側は立証の中で、男の自宅で行った実験の結果を示した。これによれば、豚肉を人体に見立てて犯行を再現したところ、アルミ板には「208ボルト」の電圧で「0.7アンペア」の電流が発生することが判明したという。また、捜査段階で男が話した「妻を5秒から10秒ほど押さえ続けた」という供述を裏付けるように、妻の遺体の両手首や口の周辺には電流が流れたことによる表皮はく奪などが確認された上、一部が炭化していたことから「電流を数秒以上流し続けたのは明らか」と指摘した。

電気関係の国際規格であるIEC規格によれば「0.5アンペア以上の電流が0.01秒程度でも人体に流れれば『心拍停止』や『やけど』などで死亡する危険性があり、その危険性は電流が流れる時間が長ければ長いほど高まる」とされていて、このため「男の行為が妻を死亡させる危険性が極めて高いものであることは明白」と主張。

さらに男には電気工事に関わるアルバイト経験があることに加え、第2種電気工事士の資格も持っていて、200ボルトの電気が取れるよう特殊な方法でブレーカーとアルミ板をつなぐなど「電気や配線、ブレーカーの構造について十分な知識があった」とも付け加え、犯行に先立ち、インターネットで感電死に関わる情報を集めていたことも明らかにしている。

また、倒れたまま動かなくなった妻を目の当たりにしながら、119番通報をしたり、救命措置を行ったりすることなく現場を立ち去っていることから「殺意がなかったとすればおよそ説明困難な行動」などと結論付け、「周到な準備・計画によって敢行された犯行」であり「男が反省しているとは到底言えず、更生の意欲に乏しい」などとして懲役18年を求刑した。

男は「パニック」を理由に殺意を否認

静岡地方裁判所 沼津支部
静岡地方裁判所 沼津支部

一方、男は被告人質問で「アイアンマンの世界を具現化したいと思い自作の道具を装着した」と説明し、「寝室の引き戸を開けた妻に見つかり大声を出され、パニックになって脊髄反射的に妻を静かにさせようとした」と弁明した。そして、突如として殺意を否認するに至った理由について問われると、「弁護士や検事から一線を越えた理由を聞かれて説明ができず、その説明ができないのに長期間の刑に服することはできないと思った」と口にした。

また「気づいたら妻が倒れていた」、「自分が妻に何をしたのか何も覚えていない」などと、行為そのものも否定するかのような発言もあった。

裁判長 男の言い分をことごとく否定

判決が言い渡される前の法廷
判決が言い渡される前の法廷

7月13日に静岡地裁・沼津支部で行われた判決公判。野澤晃一 裁判長はまず、男には妻を殺害する動機があり、感電死に関わる検索をしていたことを考慮すると「遅くとも寝室の前に立った時点では殺害を考えていたと認められる」とし、妻が引き戸を開けたこと自体は男にとって予想外の出来事だったとしても「妻の口や手を押さえること自体は意図的な行動」であると認定し、妻の身体に複数回 通電させていることなどから「殺意を持ってアルミ板を押し当てた」と断罪した。

その上で、危険性が極めて高い行為で、さらに突発的犯行でないことも指摘し「被害者に落ち度があったとは言えず、動機や経緯に酌むべき事情はみられない」として懲役15年の実刑判決を言い渡した。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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