ウクライナ侵攻をきっかけに、ロシアや旧ソ連構成国など東ヨーロッパ諸国のIT人材の国外流出が続いている。人材の受け皿となり、新たなIT産業の拠点となることをめざして、2023年5月、島根・出雲市に会社が設立された。約2カ月がたち、ロシア・東欧出身のエンジニアが移住し仕事を始める中、現場を取材した。
IT人材受け入れ地方のIT強化へ
2023年5月、島根・出雲市で開かれた会社の設立発表会。あいさつに立った飯塚市長は、「民間と一緒にいろんな企業、人を呼び込める場所にしていきたい」と期待を込め、設立された会社「People Cloud(ピープル クラウド)」にエールを送った。
この記事の画像(8枚)「People Cloud」は、東京のIT企業や地元信用金庫、出雲市などが出資し設立された。
ロシア・東欧から受け入れたエンジニアを、出雲市をはじめ、国内の企業に紹介する事業を手がける。ウクライナへの軍事侵攻をきっかけに、ロシア・東欧では国外へのIT人材流出が続いていて、「People Cloud」はその受け皿を目指している。様々な分野でDXが進む中、人材不足で十分な対応ができていない地方企業のIT対応力強化につなげる狙いだ。
軍事侵攻で“母国離れる”重い決断
会社設立から約2カ月、出雲市内のオフィスで仕事をするロシア人男性の姿があった。
シパノフ・ミハイルさん、29歳。2023年6月、出雲市に移住してきた。
ロシア、ウクライナなどの東ヨーロッパ諸国は、旧ソ連時代に培われた原子力や航空宇宙技術を基盤に、今も優秀なIT人材が豊富だと言われている。ロシア国内トップクラスの工学系大学を卒業したミハイルさんは、エンジニアとして6年間働いてきた。動画の音声に自動で字幕をつけるプログラムを組むのもお手の物だ。
2022年に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻をきっかけに、不安定な国際情勢がつづく中、ミハイルさんは、母国を離れる、重い決断を下した。
シパノフ・ミハイルさん:
問題なく、冷静に安全で暮らせる場所を求めていたから出国した。
20から30人の想定に100人以上が応募
ミハイルさんの受け皿になったのが、「People Cloud」だ。代表を務める牧野寛社長によると、東ヨーロッパのITエンジニアを対象に、日本で働きたい人材を募集したところ、想定を大きく上回る応募があったという。
People Cloud・牧野寛社長:
20人か30人の応募で、10人を選抜するイメージだったが、フタをあけてみたら、100人以上集まった。中東地域に滞留している人が多いが、定住できる居住ステータスが取れず、口座を開けない、家を借りられない状況で暮らしは不安定。日本で、企業が受け入れ、ビザが出て、次のキャリアを考えられるのが、彼らへの大きなメッセージになったと思う。
日本で足場固め“両親安心させたい”
アニメなど、日本のポップカルチャーがお気に入りだというミハイルさんも、応募者のひとりだった。
シパノフ・ミハイルさん:
日本でエンジニアとして成功し、収入を増やし、安定した仕事を(家族に)見せたい。
日本でエンジニアとして足場を固め、ロシアにいる両親を安心させたいと話すミハイルさん。出雲市に住みながら、東京のIT企業の仕事をリモートで請け負っている。
この会社の誕生をきっかけに、ロシア人やウクライナ人など約10人が出雲に移住し、働き始めた。
マッチングで国際化の流れも!?
牧野社長は、今後、出雲市が整備する「コワーキングスペース」の運営も担い、IT人材を必要とする企業の出雲市への誘致にも貢献したいと考えている。
People Cloud・牧野寛社長:
一方で人材が流出してくる、一方では人材を求めているところがある。うまくマッチングできれば、出雲や日本の地方都市に入ってきて活躍して、国際化していく流れが生まれていくのではと思う。
ウクライナ侵攻をきっかけに、母国を離れ、出雲にたどり着いたエンジニアたち。
人材不足に悩む地方のDXを加速させる切り札になるかもしれない。
(TSKさんいん中央テレビ)