新型コロナの5類移行で、アクリル板のパーティションの処分を検討する企業や飲食店が増えている。廃棄される前のアクリル板を回収し、新しい商品を作ろうとする会社が名古屋にある。1人で全国を駆け回り “アップサイクル”に奮闘する男性に密着した。

アクリル板の“アップサイクル”に挑む

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千葉・浦安市の「ホテルオークラ東京ベイ」。

倉庫には、アクリル製のパーティションが置かれていた。

この3年間、宴会場などで使っていたというが、新型コロナが5類に移行して使わなくなり、撤去されていた。アクリル板は全国で約600万枚が出回ったといわれるが、その“処理”が課題になっている。活用法が見いだせず、廃棄処分する会社が多くある。

そのアクリル板に、“新たな命”を吹き込もうとしている会社が名古屋市東区にある。

アクリルキーホルダーなどの小物を手掛けるメーカー「タイヨー」だ。コロナ以降は、アクリルパーティションの製造・販売を行ってきた。

タイヨーの平林康徳社長:
アクリル板を飛沫(ひまつ)防止以外の役目を担えるような製品に作り変えるということも、我々としてはできることなんじゃないかなと

考えたのは、リサイクルではなく“アップサイクル”。さらなる価値を付け加えた新商品を作り作り出そうと、2022年から計画を立ててきたという。

アップサイクルのためには、アクリル板を「回収」「粉砕して成型」、さらに「製品化」と3つのステップを踏まなければならない。

平林康徳社長:
とても難しいプロセスになってくるので、恐らくわざわざやろうとする会社はなかなかないです

手間とアイデアが必要なため、全国的にもアクリル板のアップサイクルに取り組む企業はほとんどないという。

千葉から福岡まで回収に…

そのミッションを任されたのが、「エシカル事業部」部長の伊藤敦(いとう・あつし 51)さんだ。会社の“環境対策”を担当している。

まずは原料となるアクリル板の「回収」からだが、単に「集めるだけ」とはいかなかった。

伊藤敦さん:
アクリル板の数に上限があるんですよね。材料がないとものづくりができない。だから、それがなくなっちゃう前に回収したいなという思いはあります

「回収は時間との勝負」。5類移行でアクリル板の廃棄を検討する会社が多い中、素早く確保する必要がある。取引先に片っ端から声をかける「ローラー作戦」で、在庫があると聞けば自ら車で出向き、安く引き取っている。

担当は伊藤さん1人。東は千葉から西は福岡まで、全国の会社から回収するのには相当な労力がかかる。

伊藤敦さん:
コロナ禍、我々はアクリルパーティションに守ってもらったわけなんです。捨てられてしまう前に回収をして、ものづくりに使用して、長く使っていただけるものにしたいと思っています。コロナ時代の象徴が形になって残ってるというのもいいかなと

5月から6月にかけて800枚を集め、回収は無事クリアした。

「粉砕」で別の破片が混ざる問題も

次の工程は、集めたアクリル板を細かくする「粉砕」だ。三重・鳥羽市で、海のごみ「海洋プラスチック」を回収してアート作品に変えるという、ユニークな取り組みを行っている会社「REMARE(リマーレ)」に協力を仰いだ。

東海地方では数少ないプラスチック粉砕用の機械があるのが強みだ。

しかし、従業員からは不安の声があがっていた。

従業員:
プラスチックに比べて硬い分、粉砕機の刃がかむまでに時間がかかる

通常、投入口にプラスチックを入れると、中で回転する刃にひっかかり粉砕されて出てくるが、アクリル板はプラスチックに比べて硬いため、刃にひっかからないと細かく砕けない可能性があるという。

手で押さえる必要はあったが、実際にはスムーズに粉砕できた。

しかし、ここでトラブルが。過去に粉砕したプラスチックの細かな破片が機械の奥に残っていて、それがアクリル板に混ざって出てきてしまった。

伊藤敦さん:
ちなみにこれって、前に何か入っていた感じですかね?

従業員:
たぶん、漁具だと思うんですけど…

伊藤敦さん:
アクリルを入れる前に粉砕したものっていうのも、やっぱり残っているんですよね、機械の中に

アクリル以外の素材が混ざったことで、このままでは製品にした時に、溶け残りや色むらが出る恐れがある。しかし新たな機械を導入するには、時間的にもコスト的にも厳しい。

課題をクリアしたのは「防犯砂利」

数日後、その不純物が混ざったアクリルの破片を持ち伊藤さんが向かったのは、愛知・豊川市の自動車部品メーカー「プラセス」だ。

伊藤敦さん:
技術を持っていらっしゃるところのお力を借りる

プラセスの社長:
最初はできるっていうのはちょっと言わなかったんですけど、チャレンジはしていこうと

プラセスでは、工場から出るプラスチックごみからカラフルな「防犯砂利」を作っている。

伊藤さんが「防犯砂利」に注目したのには理由があった。

伊藤敦さん:
一回熱がかかるので、もともとのものは混ざるんですよ、全部。練り込まれるって感じで。あれぐらいの不純物の割合だったら、多分こっち(塗料)の色の方が勝ちますので

プラスチックごみと塗料を混ぜ、高温で溶かして作る防犯砂利。この作り方であれば、アクリル板に混じる不純物も熱で一緒に溶け、塗料で色むらも見えなくなるのではないかと考えた。

その考えの通り、きれいなエメラルドグリーンの防犯砂利ができた。色むらがないのはもちろん、アクリル板を使ったことで、表面に光沢感まで出すことができた。

プラセスの社長:
なかなかいいですね。こんな風にできるかちょっと不安だったんですけど、なかなかきれいにでき上がっていますね

想定外のこともあったが、“防犯砂利”という形で商品化にこぎつけた。

作り変えて使う「SDGs」

伊藤さんは別の商品も考えたいと、大阪・東大阪市のプラスチック加工会社「モールドサポート」を訪ねた。

伊藤敦さん:
アクリルをどういう形にしてほしいかっていうのは、お客さんによってかなり違いますので、選択肢が広がるように色んな製品を用意した方がいいと思いますので

これまでアクリル板を回収するたびに、どんな商品があるといいかヒアリングを行っていたが、声が多かったのはアクリル板ならではの“透明感”を生かした商品だ。

自分たちの強みでもある、キーホルダーも作れないかと考えた伊藤さん。この日は「モールドサポート」に試作品のチェックだ。

モールドサポートの社長:
これぐらいのラインが出るんですけど

伊藤敦さん:
ここにまっすぐ線が入るじゃないですか。この黒の着色が薄いから、どうしても目立つんですよね

透明感を出すために塗料を薄くすると、ムラが出てしまう。型に流す量やスピードなどを微調整し、試作を繰り返すこと30回以上。

伊藤敦さん:
いいじゃないですか。めっちゃカッコいいですよ、この黒感

あとは、これに会社名などをプリントすれば、透明感を生かしたキーホルダーのできあがりだ。

伊藤さんは今後さらに、透明感のあるコースターやボールペンなど、アクリル板の特性を引き出した「アップサイクル」商品を計画しているという

伊藤敦さん:
結構SDGsって皆さん「難しいことだよね、自分には関係ないよね」って思われがちなんですけど、身近なところのもったいないっていうのを、もう一度ものに作り変えて使うことも立派なSDGsですよっていうのを伝えていきたいなと思っています

キーホルダーは表面に会社のロゴなどをプリントし、ノベルティとして企業などに販売する予定だ。今は社会貢献を優先しているが、将来的にはアクリル板の回収を効率的に行うなどコストダウンして、ビジネスモデルを確立していく計画だ。

2023年6月27日放送

(東海テレビ)

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