台風災害で崩落した上田電鉄別所線の「赤い鉄橋」が、地域の力で復活するまでを長野県上田市の夫婦が「写真絵本」にした。支援の輪が広がり、地域のシンボル復旧への物語は、「夏休みの推薦図書」にもなるなど、共感を呼んでいる。

写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
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夫が写真撮影 妻が文章

写真絵本「赤い鉄橋を渡っていくよ」。

上田電鉄別所線のシンボル「赤い鉄橋」が、台風災害で崩落してから復旧するまでを写真と文章でつづった一冊。

著者は市内在住の岡田さん夫婦。夫でカメラマンの光司さん(56)が撮影した写真に、妻の康子さん(55)が文章をつけた。

岡田康子さん:
みんなが応援した別所線のことをたくさんの方に知ってもらいたい。乗りに来てもらいたいという思いが一番大きい

岡田光司さん(56) 康子さん(55)
岡田光司さん(56) 康子さん(55)

康子さんは大阪生まれ。短大卒業後、千葉県で幼稚園の教諭になった。1994年にカメラマンの光司さんと結婚し、2人の子どもをもうけた。

その後、1998年に、一家は千葉から上田市へ。

実は上田に康子さんの両親の実家があり、自然豊かな場所で子育てをしたいと移住を決めたという。

風景写真が専門の光司さん。移住後すぐに、「赤い鉄橋」に魅せられ、写真を撮りためるようになった。

岡田光司さん:
青空に対して、補色ではないけど、青に赤がすごくいきる。相乗効果で赤い鉄橋がきれいに見える

岡田光司さん
岡田光司さん

地域のシンボル「赤い鉄橋」

1924年・大正13年に架けられた別所線の「赤い鉄橋」。

地域のシンボルとして鉄道ファンだけでなく、市民に親しまれてきた。

岡田さん一家もー。

岡田康子さん:
娘も息子も小さいときから別所線が好きで、休みの日になると別所線に塩田町から乗って、別所温泉で降りて、お散歩してから帰ってきたり。生活の中に、みんなの大好きな別所線が溶け込んでいたというか

提供:上田商工会議所
提供:上田商工会議所

台風19号災害で「赤い鉄橋」崩落

その別所線に突如、苦難が訪れる。

2019年10月の台風19号災害。赤い鉄橋は千曲川の増水によって崩落。橋を含む区間では、長く運休が続いた。

岡田康子さん:
ニュースで最初は知ったんですけど信じられなくて、すごくショックで。時が止まってしまったような

台風19号災害で「赤い鉄橋」崩落(2019年10月)
台風19号災害で「赤い鉄橋」崩落(2019年10月)

復旧に向け「支援の輪」

ショックは地域全体に広がり、「再び赤い鉄橋を」と復旧に向けた取り組みが行政でも、市民レベルでも起こった。

通学で使う長野大学の学生有志は、中づり広告の応援メッセージを募り、その「掲載料」を寄付。

ユーミンこと松任谷由実さんも応援メッセージを寄せた。

岡田さん夫婦もイベントで別所線の写真を展示するなどして支援を呼びかけた。

松任谷由実さんも応援メッセージ
松任谷由実さんも応援メッセージ

被災から1年5カ月 待望の復旧

こうした地域の後押しもあり、工事は順調に進行。別所線は被災から1年5カ月がたった2021年3月、全線開通。

「赤い鉄橋」に再び列車が走った。

岡田康子さん:
待ちに待った全線開通の日だったので、別所線に乗って、みんなが周りで手を振る様子を見てうれしかった

広がった支援の輪、そして待望の復旧―。

被災から1年5カ月 待望の復旧(2021年3月)
被災から1年5カ月 待望の復旧(2021年3月)

支援の輪 復旧までの物語

二人はこれを語り継いでいこうと考えた。

岡田康子さん:
直っていく赤い鉄橋の姿をもっとたくさんの方に見ていただける機会があったらうれしいなと。写真絵本にしたら、大人にもお子さんにも見てもらえるかなと

写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」

写真絵本は児童書の一ジャンル。

被災後も撮影を続けてきた光司さんの写真に幼稚園教諭時代、オリジナルの劇をつくってきた経験がある康子さんがわかりやすい文章をつけてまとめた。

(写真絵本より)
ぼくは「あっ!」と声をあげた。大きな音は赤い鉄橋が落ちてしまった音だったんだ

写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」

物語は別所線ファンの主人公「ぼく」の視点で被災から復旧までを描く。

(写真絵本より)
地元のみんながチャリティーイベントや募金活動をしているみたい。ぼくは少し、元気が出てきた

(写真絵本より)
532日ぶりに別所線がお客さんを乗せて赤い鉄橋の上を走っていく!!

写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」

「夏休み推薦図書」に選ばれる

本にはえりすぐりの別所線の写真を盛り込んだ。

岡田光司さん:
復興するシーンだけで組むことも可能だったんでしょうけど、別所線の魅力を同時に伝えられたらと

本は別所線の上田駅で販売されている他、岡田さん夫婦の自宅近くの書店では特設コーナーで販売中。

えりすぐりの別所線の写真を盛り込む 提供:岡田フォトスタジオ
えりすぐりの別所線の写真を盛り込む 提供:岡田フォトスタジオ

地域に愛された橋の物語は次第に共感を呼び、千葉県と福井県では読書感想文コンクールの課題図書に。

さらに、このほど、書籍卸大手の「夏休み推薦図書」にも選ばれた。

岡田康子さん:
これから夏休みに入るので、皆さんに読んでいただいたり、絵本が気になった方は、感想文書いていただけたらうれしい

千葉県と福井県では読書感想文コンクールの課題図書 書籍卸大手の「夏休み推薦図書」にも選ばれる
千葉県と福井県では読書感想文コンクールの課題図書 書籍卸大手の「夏休み推薦図書」にも選ばれる

「別所線に乗ってもらえたら」

7月5日、これまでの経過や推薦図書になったことを市長に報告した。

上田市・土屋陽一市長:
鉄橋が復活したストーリーを子どもたちに分かりやすく、写真で楽しんでもらえるということで私たちも(推薦図書選定を)喜んでいる

写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」
写真絵本 「赤い鉄橋を渡っていくよ」

地域のシンボルの復活を描いた写真絵本。

この夏、多くの子どもたちが赤い鉄橋と上田市民に思いを寄せることになりそうだ。

岡田光司さん:
一つのものが復旧するということが、いかに多くの方が関わって努力されているか、読者の方に理解していただいて、記録的な意味合いでも大事な絵本だと思う

岡田康子さん:
上田に来て、別所線に乗りたいなと思っていただけたら。そんなきっかけになれたらとてもうれしい

岡田光司さん(56) 康子さん(55)
岡田光司さん(56) 康子さん(55)

(長野放送)

長野放送
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