「実名は知らない」

札幌市東区で2022年10月、自宅アパートで小樽市の当時22歳の女子大学生に頼まれ、首を両腕で絞めて殺害し、遺体の左わきの部分を刃物で切り裂いたとして、嘱託殺人と死体損壊などの罪で起訴された無職・小野勇被告(54)。
8月31日、札幌地方裁判所で開かれた初公判では、被告人質問が行われ、小野被告が事件について話した。

弁護人:
被害者の実名は知っているか?
小野被告:
実名は知らない。
弁護人:
被害者とはどんな会話をした?
小野被告:
殺していいか確認をしたら「死ねるんだったら誰に殺されてもいい。ワクワクする」と言っていた。
弁護人:
小野被告から被害者にお願いしたことは?
小野被告: 携帯電話の電話を切ること、DMでのやりとりの消去。遺体の解体費用に5万円がいると言ったら「わかりました」と答えた。

笑みを浮かべながら答える男 法廷に漂う異様な空気
弁護人:
初めて会ったのはいつか?
小野被告:
(2022年)9月27日です。
弁護人:
どちらが提案した?
小野被告:
被害者の方から。その日の午後1時ごろに、札幌駅の菓子店で待ち合わせて入ろうとしたが混んでいたのでカラオケに行った。そこで本気で殺害を実行していいか、気持ちが変わっていないかを確認したら、被害者が「変わっていない」と答えた。持参したナイフを見せたら嬉しそうな顔をしていた、キラキラ目を輝かせて嬉しそうにしていた。
小野被告は笑みをこぼしながらこう続ける。
小野被告:
被害者は「実感が沸いてわくわくしてきた。やっと肩の荷が降りた」と言っていた。
事件の日 被害者との会話

2人はSNSのDM上で日程を調整し、2022年10月3日に会うことになった。
弁護人:
会ったときの被害者の様子は?
小野被告:
自然だった。「約束通り軽装で来たんだね」と言ったら、被害者は笑いながら「財布捨ててきた」と言っていた。
その後、札幌市東区のカレー店で食事をした2人は
弁護人:
カレー店に行ったあとは?
小野被告:
スーパーに行った。被害者は「最後の晩餐になるから、お酒を飲んで楽しく過ごしたい」と言っていた
その後、2人はアパートでテレビや動画共有サイトなどを見たという。
女子大学生は大量の睡眠薬などを服用し、意識が朦朧となったため、小野被告がベッドに案内したという。
弁護人:
その時の会話は?
小野被告:
被害者に「何か言うことある?」と聞いたら「やっと肩の荷が下りた」と言った。何回か様子を見たが、殺害を実行せずテレビを見たりしていた。

弁護人:
なぜすぐに殺害を実行しなかった?
小野被告:
通常会って間もない人で憎しみを持っていない人を刺すことはできないから。
3日~4日にかけて、女子大学生はテレビなど見て、大量の睡眠薬などを服用。しかし、意識を失うほどの状態にはならなかったと言う。そして…
弁護人:
首を絞めた時間はどのぐらい?
小野被告:
10分以上、20分ぐらい。被害者の力が抜けて自分に体重が全部かかるような状態になった。
弁護人:
被害者が亡くなったあとは?
小野被告:
呆然として4~5時間ぼーっとしていた。
弁護人:
そのあとは?
小野被告:
遺体を風呂場に動かして、返事はないけど「これでよかったのかい?」と何回か聞きました。
弁護人:
死にたいと言われて犯行は止められなかった?
小野被告:
怖がる様子やためらいがあれば止めるとは言った。しかし、彼女は死ぬことに一点集中していた。止められなかったのは僕の弱さ。
嘘をついた理由 「納得してもらうため」

検察側の質問に移る。
検察:
なぜ人を殺したことがある、傭兵をやったことがあると嘘をついた?
小野被告:
そう言えば安心してくれると思った。人を殺せる人と納得してもらうため。
検察:
携帯の電源を消すことを頼んだのは犯行が発覚されたくないから?
小野被告:
それもあります。
検察:
犯行後、ツイッターに様々な投稿をしているが被害者のことか?
小野被告:
そう。自分に言い聞かせるために投稿した。現実を見るために。
検察:
被害者が20代前半とは知っていましたね?結婚して幸せな家庭を築いてなどといった可能性、将来を奪ったことについては?
小野被告:
「殺して」と発信するほど思いが強く、そこに注目していた。死ぬこと以外の発信がなかった。被害者の将来のことは考えないようにしていた。
検察:
カウンセラーや精神科への受診などは提案しなかった?
小野被告:
いえ、言っていない。
Q:子どもいますよね? A:それ関係ありますか?

検察側の席には、被害者遺族の代理人もいました。小野被告に問いかけます。
代理人:
被害者に死にたい理由は聞いた?
小野被告:
1回も聞いていない
代理人:
できれば殺したくなかった?
小野被告:
もちろん
代理人:
殺したくない気持ちがあれば理由を聞くのでは?
小野被告:
どうでしょうね、被害者は死ぬ意志が強すぎたので
代理人:
(小野被告には)子どもがいますよね?
小野被告:
それ、関係ありますか?
代理人:
子どもは大切ですか?
小野被告:
もちろん
代理人:
被害者が亡くなることでその家族が悲しむとは考えなかった?
小野被告:
考えなくはなかったが被害者の気持ちを優先した
「僕は道具みたいなもの」

裁判官からも質問が出る。
新宅孝昭裁判官:
被害者が1人で死ぬのと、小野被告が殺害するのは比べた?
小野被告:
比べたわけじゃない。死亡原因に過ぎない。
新宅孝昭裁判官:
人を殺すとはどういうことだと思うか?
小野被告:
被害者からしたら僕は道具みたいなもの死ぬための道具。
新宅孝昭裁判官:
この事件をどう捉えている?
小野被告:
今更だけど、どうして死にたいかもっと聞くべきだった。

井下田英樹裁判長:
なぜ殺害をやめなかった?
小野被告:
僕がやめても被害者の“希死念慮”は変わらないから。
井下田英樹裁判長:
嘱託の殺人ならいいやと思った?
小野被告:
嘱託だろうが殺人は殺人。殺害というのは変わらない。
井下田英樹裁判長:
罪悪感はある?
小野被告:
ありました。人任せになるけど、被害者の口からやめてとか言ってくれないかなという気持ちはずっとありました
次回に結審

各質問に小野被告が答えたあと、小野被告の精神鑑定をした医師の証人尋問が行われ、8月31日午後4時ごろに初公判が終了。
検察側の席には被害者遺族が参加していたとみられ、時折、すすり泣く声や机をたたくような音も聞こえていた。
次回の裁判は9月4日に開かれ、結審する。