自分の「話し方」についてさまざまな悩みを抱えている人は多いだろう。

「劇団四季」で主役を務め、現在はビジネスパーソンに指導する研修講師として「話すこと」をビジネスにする佐藤政樹さん。

もともとは極度の人見知りと口下手な中、さまざまな職種を経験。その過程で独自の話し方を編み出してきた。

また、劇団四季のカリスマ・浅利慶太さんから直接教わった「伝えることの本質」をもとに、「人を惹きつける話し方」を身につけていくことで人生が変わったという。

そんな佐藤さんの著書『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)では、生まれ持ったセンスも精神論な訓練も必要ない「人を惹きつけることのできる話し方」を身につける方法が記されている。

今回は人と話すとき、自分がどこに意識を置いて話をしているのか。「言葉のポジション」の大切さについて一部抜粋・再編集して紹介する。

言葉の本質を理解しよう

「自分の話にあまり共感してもらっている気がしない」
「論理的に丁寧に話したのに、まったく響いていない」
「そこそこしゃべれるのにいつも成果に波がある」
「上手く話せるのに空回りしている気がする…」
「仲間内では褒めてもらえるが実践では全然ダメ…」

なんでだろう?自分の話し方のどこがいけないのだろう?
 
この原因は、世の中のほとんどの人が「言葉」をなんとなく感覚的に扱ってしまっているからです。

話し方で人を惹きつけるためには、まずは言葉の本質を理解する必要があります。

そのためにいつもお伝えしているのが、「言葉のポジション」です。言葉のポジションとは、あなたが発する言葉の出どころを認識するための考え方。

これを認識することで、言葉を扱うときの意識が変わります。

「頭」「胸」「腹」どれで話している?

言葉のポジションとは「人が言葉を発するときの意識は、3種類にわけられ、どの意識にスタンスを置いているかによって、相手への伝わり方はまったく異なる」ということです。

「意識」の場所の1つ目は「頭」、2つ目は「胸」、3つ目が「腹」です。

この3つの意識を理解するためにあるのが、「言葉のポジション」です。

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意識のスタンスが「頭」のときの言葉を「頭のポジションの言葉」、「胸」のときの言葉を「胸のポジションの言葉」、「腹」のときの言葉を「腹のポジションの言葉」と私は呼んでいます。

頭・胸・腹、あなたが人前で話しているとき、どこに意識を置いて話していますか。

結論をお伝えすると、「頭のポジションの言葉」と「胸のポジションの言葉」では、人を惹きつけることはできません。

相手の心を動かすために皆さんに伝えたいのは「腹のポジションの言葉」の重要さについてです。

「頭」「胸」「腹」、自分はどれに当てはまるか考えてみてください。

「頭」の言葉は唱えているだけ

まずは一番上の「頭」です。

アイデアが出なくて煮詰まったときなどに、頭を両手で抑えたり、頭を掻いたりすることはないでしょうか。

頭に意識が向いていると「頭」に触れていることも(画像:イメージ)
頭に意識が向いていると「頭」に触れていることも(画像:イメージ)

定説はないようですが、私は「自分の意識が頭に向いているから」だと考えています。

これを私は「頭」の意識と呼んでいます。

あなたが相手に自分の考えを伝えようとして、意識が「頭」に向かっているのは「暗記したことを思い出しながら話しているとき」「用意した資料やメモを読んでいるだけのとき」「ただ知識だけを論理的に一方的に話しているとき」、こんなときです。

この頭の意識から生み出される言葉を「頭のポジションの言葉」と私は呼び、「頭のポジションの言葉」のことを劇団四季では「唱えている言葉」といいます。

唱えている言葉は、文字をただ何も考えずに声を出している状態。

代表例は、政治家が目線を下にして用意したメモを一方的にただ読んでいるだけのときです。

心が動かされますか?話の内容に惹きつけられますか?

答えは「ノー」でしょう。

頭のポジションの言葉は、「発声」と「発想」が一致していません。

発想つまり言葉を発するときに頭の中で考えていることは、“借り物の言葉を間違えないように正確に話す”なので当然です。

「胸」の言葉は「うわべ」でしかない

次に真ん中の胸の部分です。

たとえば、あなたがこれから1000人の観衆の前でスピーチをするとします。ドキドキと緊張して、そわそわ落ち着きません。

そんなとき、胸に手を当てることはありませんか。胸に手を当てたくなるときの意識のことを、私はそのまま「胸の意識」と呼んでいます。

胸に意識が向いているとうわべの場合も(画像:イメージ)
胸に意識が向いているとうわべの場合も(画像:イメージ)

「胸」に意識が向いて話しているときは「過度に緊張して落ち着かない気持ちで舞い上がっている」「伝えなければ、結果を出さなければと焦って心がうわずっている」「感情やテンションを高ぶらせてがんばって必死に伝えようとしている」、こんな状態です。

この「胸」の意識から生み出される言葉を「胸のポジションの言葉」と呼び、「胸のポジションの言葉」を劇団四季では「うわべ言葉」もしくは「説明的言葉」といいます。

誰もがハマる「胸」の言葉の落とし穴

実は、世の中の多くの人は、何かを伝えるとき、つい「胸のポジションの言葉」でアプローチしています。これが最大の落とし穴です。

いざ人を目の前にして本番になると、「上手くやらなければ」という気持ちが生まれてしまいがちです。

すると、決まってテンションを上げて、感情たっぷりに伝えようとします。声を高ぶらせてプレゼンが終わったときには、なんとなく、自分も精いっぱい上手くやったような気になっています。

しかしこれは大きなリスクをはらんでいます。それは、聞き手とのギャップです。

テンションや感情を使って情動的に話すことに気がいくと、自分の中で“しっかりと伝えた”“相手に伝わった”という自己認識が生まれます。

しかしこのとき、聞き手は「うわべで説明的でウソっぽいな…」とまったく違う感想を持っています。

その理由は「なぜ話すのか?」に沿って考えるとわかってきます。

「胸」を意識すると自分本位になりがち

「胸のポジションの言葉」を発する理由は「なんとかしてわかってもらいたい」「失敗したくない」「ちょっと、かっこつけたい」といった自分本位の考えです。

胸のポジションの言葉も、実は、発声と発想は一致していません。

なぜなら「発声」するときの「発想」が自分本位(エゴ)になっているからです。

気持ちをたっぷり込めたつもりでも、実際には“自分は伝わったと思うが相手はそう感じない”という主観と客観の大きな乖離(かいり)を生み出しています。

その結果、うわべで説明的でどこかウソっぽい自己満足の表現になってしまいます。

カリスマ・浅利慶太さんに「感情を込めるな」と繰り返し教えられました。

感情を込めてしまうと、どうしても「胸」の意識になりがちです。エゴに近いこの「胸」の意識から生み出されるのは、自己満足の表現。聞いている観客は無意識のうちに冷めてしまいます。

劇団四季の厳しい「稽古」の世界を知っている私は、研修でビジネスパーソンのロールプレイング大会を見ていると、非常に多くの方が「胸のポジションの言葉」でやっているのを目の当たりにします。

ロープレで「気持ちが込もっている」と褒められても、現場に行くと空振りした経験はありませんか。

仲間内で慣れてしまうと、主観と客観の乖離(かいり)が生まれ、初対面の相手に共感してもらえなくなってしまいます。

まとめると、自分は「伝わっている」と思ったのに対し「相手はそう感じていない」というギャップを生み出す可能性が高いのが、「胸のポジションの言葉」なのです。

これでは、人を惹きつけることはできません。

では、どこを意識して話すほうが良いのか。最後は「腹のポジション」についてお伝えします。

『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)
『人を「惹きつける」話し方』(プレジデント社)

佐藤政樹
27歳のときに劇団四季に合格。その際に創業者のカリスマ浅利慶太氏から「伝わる言葉」の本質をマンツーマンで直接学ぶ。講演家になることを志して退団するも、飛び込み営業の会社に就職。鳴かず飛ばずだったが、浅利氏から学んだ「伝わる言葉」と自ら編み出した「人を惹きつける話し方」の技術を活用し活躍。現在は、企業研修や講演活動で全国を飛び回り、延べ約300社・3万人を超える多くのビジネスパーソンに「人を惹きつける話し方」を伝授している

イラスト=さいとうひさし

佐藤政樹
佐藤政樹

企業研修講師、講演家
27歳のときに劇団四季に合格。その際に創業者のカリスマ浅利慶太氏から「伝わる言葉」の本質をマンツーマンで直接学ぶ。講演家になることを志して退団するも、飛び込み営業の会社に就職。鳴かず飛ばずだったが、浅利氏から学んだ「伝わる言葉」と自ら編み出した「人を惹きつける話し方」の技術を活用し活躍。現在は、企業研修や講演活動で全国を飛び回り、延べ約300社・3万人を超える多くのビジネスパーソンに「人を惹きつける話し方」を伝授。伝える力やコミュニケーション能力、自己表現力の向上に貢献している。プレゼンイベントの殿堂TEDxにも出場し、「人を惹きつける話し方」を元にした『感動を創造する言葉の伝え方』のテーマで、日本人では異例の35万回再生を超えている