日経平均株価はバブル期以来の高値圏を推移。これは日本経済の実態を反映しているのか。BSフジLIVE「プライムニュース」では、宮沢洋一自民党税制調査会長、玉木雄一郎国民民主党代表、エコノミストの片岡剛士氏を迎え、日本経済の現状と中長期的な経済成長の方策について徹底議論した。

日経株価の高騰は“30年の異常事態がようやく普通の事態に”

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新美有加キャスター:
日経平均株価は、6月16日にバブル時の史上最高値に迫る3万3706円を記録。この理由は。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
大きく2つ。1つは利上げで欧米の景気が良くなく、中国もコロナ禍以降の持ち直しが不発であること。もう1つは日本が金融緩和を継続しており、コロナ禍以降の需要の回復やインバウンド需要が盛り上がっていること。

反町理キャスター:
株価が上がっても、日本経済が成長しているとは限らないのでは。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
2013年以降ずっと基調として株価は上がっており、株価がバブル期前まで戻ってきた。ただ、基本的に他国の株価はずっと右肩上がり。日本のように戻るまで30年超かかった国はほぼない。今ようやく、異常事態から普通の事態に戻りつつある。

反町理キャスター:
海外の投資家はどこを評価して株を買っているのか。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
先ほどの内容以外に円安の進行。また国際秩序の観点から中国の重要性が薄れ、相対的に日本の位置づけが高まっている。データセンターや半導体工場など日本への設備投資の話が盛り上がっている。また長期停滞が続いたことで伸びしろへの期待がある。今が好循環になるかどうかの瀬戸際。

反町理キャスター:
今後の株価の想定は。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
4万円を超えてくると思う。国民民主党が言ってきた4%程度の名目賃金上昇率、4%程度の名目GDP成長率、4万円超の日経平均株価の「3つの4」に近づいている。持続的な賃上げに繋げ、消費を軸とした好循環としていけるか。

反町理キャスター:
その状況での増税はどうなのか。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
私も晴れ間が見えかかっていると思う。増税といっても、数年で3%下げたが効果がない法人税を1%程度は戻すということ。中小企業はほとんど対象にならない。所得税も現段階では増税にならない。足を引っ張ることは想像がつかない。

新美有加キャスター:
今年1〜3月期の実質GDP成長率は前期比0.7%増で、3四半期ぶりのプラス成長。背景は。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
キーワードは「30年ぶり」。株価の水準も、失業率の低さも、賃上げ率の高さも30年ぶり。また名目設備投資のGDPに対する比率が17%を超えるほどで、1980年代前半の平均値。生産や需要に結びつく可能性は高い。

賃上げ率上昇も物価高で実質賃金は低下…生活は楽になるか

新美有加キャスター:
5月に連合が発表した春闘の賃上げ率は、定期昇給込みで3.66%。30年ぶりの高水準に。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
賃上げ理由は物価上昇と答えた企業が、2021年度の7%ほどに対し2023年度では57.5%という調査がある。上げないと従業員の生活を守れないという意識が広がり、また消費者がある程度価格上昇を許容できる素地があった。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
企業は、賃金を上げていかなければ人が集まらない時代に入ると思っている。

反町理キャスター:
賃金が上がっても暮らしが楽にならないと実感する人は多いと思うが。物価変動分を差し引いた実質賃金は13カ月連続で下がっている。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
その通りで、このままではダメ。ただ経済学的には、物価上昇に伴って実質賃金が下がり、実質金利も下がっている。企業のコストである人件費と金利負担が実質的に下がってきており、ここで収益をしっかり上げ、労働者に還元して実質賃金を上昇に向けられる企業だけが生き残る。労働市場からのプレッシャーを受けていることを企業は自覚すべき。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
企業が賃金や資本の形で利益をちゃんと分配できていない。それができれば需要が出てきて好循環につながる。インフレの中で価格メカニズムをうまく生かす企業が生き残る環境になりやすくなる。

反町理キャスター:
20〜30年「安いことはいいこと」だった。簡単にそのような社会になれるイメージはできない。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
賃金が上がり物価も上がる循環があれば一番いいが、残念ながらどう考えても物価が先に上がってしまう。だが物価上昇で売上が伸びれば、固定費率は同じでも給料が上がっていく。これからの賃金上昇はそれなりに期待できると思っている。

「三位一体の改革」で物価高と賃上げの好循環は実現するか

新美有加キャスター:
岸田総理が通常国会閉会後の会見で、構造的賃上げに向けた「三位一体の改革」を発表。リスキリング(学び直し)、日本型職務給の導入、成長分野への円滑な労働移動。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
やってもいいが、あまり影響しないと思っている。必要なのは賃上げと物価上昇の好循環をしっかり作り上げること。

反町理キャスター:
それを作れずに30年間苦しんできた。どうすればよいか。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
繰り返されれば自然と好循環になると思う。例えば、この秋口以降の物価動向が2%超を維持する状況なら、労組は今回同様の賃上げを要望しやすくなる。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
人件費を考えると機械化・オートマ化は避けて通れないが、人口減少社会の日本は反対運動を避けながら行える。リスキリングは大事。問題はその結果、人材がどれだけ育つか。訓練する側の体制作りが一番難しく、大事だと思う。また日本型職務給(ジョブ型雇用)が給料を抑えるために使われないように。そして、成長分野への円滑な労働力の労働移動は、労働者が減る中では当たり前の話。

反町理キャスター:
企業の変化について。日本の廃業率と開業率は異様に低い。イギリスの廃業率11.1%に対し日本は3.1%、つまり企業が潰れない。開業率はイギリスが12.4%で日本は4.4%。新しい企業が立ち上がらない。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
国がある程度、企業の支援をすることは必要だが、今ある企業を今のまま存続させることに力を使いすぎた。岸田政権がスタートアップ倍増などを言い始めたことは評価する。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
一番の問題は日本の金融システムにある。担保を取って元金が保証されていれば、銀行はずっと貸し続けてくれる。しっかりと企業の成長を見ながら融資をする金融に、どう変わっていけるかが大事。

子育て支援と所得拡大、両輪で少子化対策を

新美有加キャスター:
異次元の少子化対策を掲げる岸田政権は、いわゆる骨太の方針にも少子化対策を盛り込んでいる。ポイントは経済的支援の強化・若い世代の所得向上、全ての子供・子育て世帯への支援拡充、共働き・共育ての推進。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
今回の目玉に、3人以上のお子さんにも支援の輪を広げたり所得制限をなくす話があった。だが、もし一方で控除などを削れば特に高所得世帯にはマイナス。一方で補助を出し、一方では結果的に増税すると、何のための少子化対策かわからなくなる懸念。

反町理キャスター:
保育園や高等教育の無償化、出産後の助成金などが出ているが、より包括的な意味で子供を作る気にさせる社会環境・経済環境を作ることとのバランスは。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
長期停滞からの脱却が必要で、現状の子育て世代が子供を作りやすい環境を作ることが次に大事。両輪をやっていかなければ。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
この20年間の実質賃金と出生率の低下率の相関係数は0.93。就職して真面目に働いたら、ちゃんと給料が上がるという経済環境を取り戻すことがベースになる。また結婚したい人ができる環境。結婚しない要因となるケースの多い奨学金債務について、一律で150万円免除しようと提案している。

債務残高は1200兆円 財政健全化への道筋は

新美有加キャスター:
5月に財務省が発表した今年3月末時点の政府の債務残高は約1200兆円。増え続けることへの懸念は。

宮沢洋一 自民党税調会長 参議院議員:
GDPの倍以上というのは異常な数字。日本国債のデフォルトはおそらくないが、財政への信認が失われキャピタルフライト(投資資金の流出)で相当な円安になるのが一番怖い。財政健全化の道筋を常に作り、示さねばならない。

片岡剛士 元日銀審議委員 PwCコンサルティングチーフエコノミスト:
巨額なのは間違いない。ただ現状は税収増に直結する名目成長率が高く、金利はほぼゼロ。財政健全化はじわじわ進んでいると考えればいい。景気が良くならなければ、財政健全化のための税制上の政策に日本経済が耐えられない。

玉木雄一郎 国民民主党代表:
「ドーマーの定理」では、利子率よりも経済成長率が高いと破綻しない。理論的には改善に向かっていると私も思う。経済成長を安定させれば数兆円単位で税収が伸びる。まずそれを確実にするべき。

(BSフジLIVE「プライムニュース」6月27日放送)