島根県内唯一の百貨店「一畑百貨店」が2024年1月に閉店することを発表した。「買い物の場」だけでなく、「街のシンボル」としての顔ももつ百貨店が窮地に追い込まれた背景、そして、これからについて考える。

一畑百貨店 再生できず閉店へ

JR松江駅前にある「一畑百貨店」街の顔とも言える百貨店の閉店には松江市民にとどまらず、島根県内の行政、さらには、経済関係者や、同業者の間にも大きな衝撃となって伝わった。

この記事の画像(17枚)

「かなりショッキングなニュースだった。山陰の百貨店でも一番の売り上げの店舗だったので」と話すのは、鳥取市の丸由百貨店・営業企画課の川本充士さん。

大丸の看板をおろした「丸由百貨店」
大丸の看板をおろした「丸由百貨店」

丸由は、業績低迷の苦境を乗り切るため、2022年、70年余り掲げていた「大丸」の看板を降ろして、再出発を切った。それだけに、同じ地方百貨店として「一畑閉店」に大きな衝撃を受けたという。

看板を替え再出発を図った「丸由」と看板を降ろす苦渋の選択を迫られた「一畑」。2つの百貨店の明暗を分けたのは、何だったのだろうか?

一畑百貨店・川内孝治社長:
120社くらい、新しいテナントの導入ということで交渉しておりましたが、単一の地方の百貨店のネームバリューでは、なかなか出店していただけない

一畑を「閉店」に追い込んだのは、新しいテナントの誘致が不調に終わったことだった。売り場のリニューアルに再生への望みを繋ごうとしたが、人口20万人の地方都市への出店に応じるテナントを見つけることができず、誘致を断念、閉店を決断するに至ったという。

明暗を分けた「若者に人気なブランド」

一方、丸由百貨店は、前身の「鳥取大丸」が「大丸松坂屋」との資本提携を解消した2019年ごろから若者に人気のブランドを積極的に誘致。これが功を奏して、来店客の「若返り」が進み、若者ターゲットのブランドの新規出店の呼び水になる好循環が生まれている。

丸由百貨店営業企画課・川本充士さん:
フロア半分を使って「ロフト」のオープンを目指しています

ロフト出店予定のフロア
ロフト出店予定のフロア

「丸由」には、さらに2023年9月、若い世代に人気の生活雑貨専門店「ロフト」がオープン予定だ。鳥取県内では米子市に続いて2店目の出店で、若い客層の集客力強化につながると期待している。

ジェラートピケ
ジェラートピケ

川本さんは「テナント誘致の成功事例が積みあがっていって、『ジェラートピケ』、『ロフト』などの出店につながっていった」と分析、「今まで取り扱いがなかったカテゴリーの商品やブランドに積極的に声がけして、若い方を取り込みたい」と意気込んだ。

ジェラートピケ
ジェラートピケ

集客力のあるテナントの誘致が、2つの地方百貨店の明暗を分けた。

相次ぐデパートの閉店…専門家は

地方の百貨店を取り巻く環境は、厳しい状況が続いている。百貨店は、全国各地で相次いで閉店に追い込まれ、県内にデパートがない「空白県」も生まれている。

2020年、山形県の地場百貨店「大沼」が経営破綻。次いで、徳島県の「そごう徳島店」も閉店した。一畑百貨店の閉店により、島根県は全国3番目のデパート「空白県」になる。

「空白県」の今後について、百貨店と地域経済の関係について詳しい神戸国際大学経済学部・中村智彦教授に聞いた。

神戸国際大学経済学部・中村智彦教授:
中心市街地が衰退する懸念はもちろんあるが、それ以前に、地域の周辺が衰退してしまったのではないか。むしろ百貨店が取り残されてきてしまった。(閉店による)そんなに大きな影響はないのではないかと考えている

ショッピングセンターやネットショッピングが台頭する中、中村教授は百貨店の閉店を、中心市街地衰退の「原因」ではなく「結果」だと指摘する。

また、百貨店が閉店しても、中心市街地に住む人が増えれば、大きく衰退しないケースもあるという。

山形市の閉店した百貨店
山形市の閉店した百貨店

神戸国際大学経済学部・中村智彦教授:
老舗が並んでいるところで、なおかつ山形は高層マンションができてきて、居住人口が上向いてきているというのがあって、懸念されたほどの衰退にはなっていない

高層マンションなどで居住人口が上向きだった山形
高層マンションなどで居住人口が上向きだった山形

山形市では、閉店した百貨店「大沼」の周辺では、商業地の地価が1平方メートルあたり21万8,000円と前年から1.4%上昇。また、高層マンションの建設が相次ぎ、山形市の中心市街地の人口も9,829人と「大沼」閉店以降も増加傾向にある。

神戸国際大学経済学部・中村智彦教授:
駅前の中心市街地の今後を考えると、もう一回、まちの中で住む。車を持たなくても生活できるような生活圏を作っていくことが、これからの課題とも言える

JR松江駅に隣接する一畑百貨店
JR松江駅に隣接する一畑百貨店

ただ、JR松江駅に隣接する一畑百貨店は、松江の玄関口のシンボルともいえる大きな存在。今後の活用については、早期に模索すべきだと強調する。

一畑百貨店の現在の壁
一畑百貨店の現在の壁

神戸国際大学経済学部・中村智彦教授:
建物が放置されると、外壁が傷む、大きなビルに電気がつかない、また、ポツンと建っているなど、周囲の街の雰囲気に良くない影響を与える。いかに早く再活用するか、壊して新しいものに建て替えるか、できるだけ早くやっていくことが課題になる。

一畑百貨店によると、閉店後の店舗建物や跡地の利用については、決まっていないという。

全国で3番目のデパート「空白県」に。「一畑」閉店後を見据えた、松江のまちの新たな「青写真」を早急に用意しなければならない。

(TSKさんいん中央テレビ)

TSKさんいん中央テレビ
TSKさんいん中央テレビ

鳥取・島根の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。