コロナ収束ムードの高まりに伴い様々な業種で客足が回復しているが、一方で働き手が不足する問題が浮上している。実は、コロナ禍で人員削減した企業の6割超が、現在人手不足を訴えているというのだ。

(出典:東京商工リサーチ)
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コロナ禍で45%が人員削減した業種も

東京商工リサーチは今年6月、全国の企業を対象に「コロナ禍での人員削減」と「人手不足感」についてアンケート調査を実施し、有効回答があった6071社について調査分析を行った。

その結果、約1割の企業がコロナ禍(概ね2020年2月以降)に人員削減をしていたことが判明。このうち61.5%が現在、人手不足状態に陥っているというのだ。

業種別に見ると、トップは観光業や冠婚葬祭業などを含む「その他の生活関連サービス業」で、45.1%が人員削減を実施したという。続いて「織物・衣服・身の回り品小売業」、いわゆるアパレル小売が40%、「印刷・同関連業」は33.7%だった。

(出典:東京商工リサーチ)
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そして現在、人手不足を訴えている業種は、飲食店が100%でトップ。次いで総合工事業が85.7%、設備工事業が78.5%と続き、建設関連はトップ10に3業種が入っているという。

コロナ禍に人員削減をした業種の1位だった「その他の生活関連サービス業」は76.9%で、需要の回復により、旅行会社や結婚式場運営会社を中心に人手不足を訴える企業が相次いでいるとのことだ。一方で「人手過剰感がある」と答えた企業は約1割いたという。

人手不足を訴えている業種の特徴は?

多くの企業が人手不足を訴える中、逆に過剰だという声があるのはなぜか? そもそも人手不足を解消するためにはどうしたらいいのか? 東京商工リサーチの担当者に聞いてみた。


――人手不足になった理由について、企業からはどんな声が出ている?

いずれも従業員300人未満の企業からですが、以下のような声をいただいています。

・「数の点では人手は充足していても、コロナの影響で経験者が多数離職した。業界の脆弱性が露わになった。」(東京都・旅行業)
・「国の働き方改革による労働時間の問題とそれを解決するための人員確保 それに伴う人件費の高騰」(西日本の建築資材卸売)
・「人材不足は、社員教育の機会不足である」(製本業)

――人手不足を訴えている業種の特徴は?

インバウンドの回復や人流回復に伴う経済活動の再開によって、店舗の新規出店や改装も進み、飲食店や設備工事、職別工事(内装工事など細かな職別での工事です)で需要が増え、人手が不足しています。

他には、道路貨物運送やその他の生活関連サービスもトップ10に入っております。

これらの業種で共通するのは、経済活動再開後、需要が増加した業種となります。さらに、2019年までのコロナ以前でも、人手不足や賃金の引き上げが課題となっていた企業になります。


――反対に、1割の企業が「人手過剰感がある」と回答。これにはどんな理由がある?

コロナ禍で人員削減を行ったのに、いまだに人手過剰感があると回答した企業は、まだ需要がコロナ以前並みまでの回復が難しい業種に比較的多いと言えます。

回答で目立った業種としては、その他の事業サービス業(41.6%。複写業、ビルメンテナンスなどを含む)、窯業・土石製品製造業(33.3%。ガラスやセメント・コンクリート、瓦、陶磁器などの製造業者が含まれます)、印刷業(25.0%)などです。

複写や印刷、ガラスに関しては人流回復後も印刷需要の回復が困難な状況にあるため、アフターコロナに向けた経済活動やインバウンドが回復したからと言ってすぐには需要は戻りにくい、そういった業界的な構造も要素として挙げられます。

道路貨物運送では人手不足も(画像はイメージ)
道路貨物運送では人手不足も(画像はイメージ)

――コロナで削減した人員を補充するのは難しい?

補充することは難しい印象があります。その要因としては、個別ばらばらな部分はあるかと思いますが、「人員削減を行った企業」と印象が広がると尚更難しくなるかと思います。

コロナ禍では、旅行、宿泊、外食、小売で希望退職を含む人員削減が多く行われました。こうした業種では、給与基準を引き上げるなどして急ピッチで人員の補充・増員を行いますが、中小規模を中心に待遇の早急な見直しが困難な企業もあり、そのような企業ではとくに採用活動は難しい局面にあると言えます。


――人手不足を解消するにはどんな対策が考えられる?

例えば、雇用調整助成金は、コロナ禍で売上が減少した企業の雇用を守るために特例措置が取られました(原資は雇用保険でしたが…)。

今回も中小企業を中心に、需要は回復しているのに、コロナ禍で財務がいたんでいたり、その他、元々規模が小さく資金余力に乏しいため、急な賃上げや採用活動が困難な企業もあるかと思います。

こうした企業に対し、例えば、先々半年の受注状況と資金繰りまたは決算状況などを提示するなど、一定のガイドラインを設けて、政府がそういった受注が回復しているのに人手不足のために事業の拡大が難しい企業や、継続が困難な企業に、無利子無担保で採用・賃上げの資金を貸し付けるなどの支援が望ましいと個人的には考えます。

(画像はイメージ)
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バスやタクシーの運転手不足がニュースになるなど、人手不足の解消は待ったなしの状況になっている。担当者が話すように、政府による施策などが必要かもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。