「福島は危ない」…フランス出身のエミリーさんは、原発事故がおきた福島県に対してそう考えていた。しかしその考えは「福島が好き」と上書きされ、いまは福島第一原発が立地する大熊町で暮らしている。マイナスイメージをどうやって変えるか、エミリーさんの言葉がそのヒントになるのかもしれない。
赤べこを描くイラストレーター
フランス人のイラストレーター、ブケ・エミリーさん。エミリーさんが描くのは、福島県の赤べこ。

キャンプを楽しむ赤べこに三世代で温泉に浸かる赤べこ…「みんなにもっと福島のことを知らせたかったから、赤べこを描いた。どんどん好きになりました」とエミリーさんはいう。

福島へのイメージが一変
エミリーさんは、東日本大震災・原発事故直後の2011年4月に語学学校の講師として来日。「福島は全体危ないというイメージ残っていた。福島に来てとても驚いた。まずは心奪われて、たくさんの人と出会って本当によかった」と振り返る。

福島県出身の教え子にすすめられて旅行した福島県で、豊かな自然とそこに暮らす人。そして赤べこに心を奪われ、会津若松市に移住。いわき市にも住んだ後、福島第一原発の地元から「福島は安全」と発信しようと2023年2月に大熊町へ引っ越してきた。

福島第一原発を見学
「自分の目で見てみたい」そう考えていた、福島第一原発を初めて訪れることになった。「原発事故は、フランスのテレビでもずっと流れていた。すごく近くに住んでいるから見に行けるチャンスがあってうれしい」というエミリーさん。

政府と東京電力が計画する処理水の海洋放出に関わる設備を見てまわることに。12年経っても骨組みがむき出しになったままの1号機原子炉建屋。それとは対照的に、整然と並ぶ巨大なタンク。廃炉作業が進む第一原発の今を目の当たりにした。
「工事もやっていてすごいね。すごいの言葉しかでてこない」

目の当たりにして感じた思い
政府と東京電力は「2023年夏ごろまで」の放出開始を目指し、IAEAなど国際機関の力を借りて海外にも理解を広げようとしている。それでも、韓国では「反対」の声が上がり、香港は放出した場合、福島の海産物の輸入を禁止すると表明。出口は見えていない。

エミリーさんは「実際に見るとすごい、思ったより大きくてこんなに沢山あって。説明を聞いて安全と言えるんじゃないかなと思っています。反対する、それはそれぞれの人の考え方。みんなの自由だけど、諦めずに発信を続けていった方がいいんじゃないかなと思う」と話す。

知らないから怖い
こう話すエミリーさんも、かつては「福島は危ない」と考えていた。スーパーで売っていた福島産のインゲンマメを見て「福島のものは食べたくない」と思っていたという。

エミリーさんは「みんなここに一回来てもらいたいと思っています。やっぱり知らないと怖いのではないかなと。自分の目で見て自分の心で感じて安全って感じがするんじゃないかな」と語る。

自然に近い暮らし・農業を目指す
「エコロジックな農業やりたい。パーマカルチャー、自然と一緒に農業する、そういうコンセプトがあるから」と話すエミリーさんの母国・フランスは原発大国。自身も原発の近くで育ち、原子力発電を受け入れていたが、事故が起きると大きな被害をもたらすことを知ってからは、自然に近い形での農業や暮らし方を目指すようになった。

「ソーラーだけじゃなくて、例えば波とか風とか。もっとエネルギー作ってもいいけど、今の生活で使っているエネルギーも減らさないといけないと思っている」とエミリーさんは言う。

また行きたいと思える場所に
海外では、アルファベットで書かれた「Fukushima」に原発事故当時のイメージを持ち続けている人も少なくない。でも、エミリーさんにとっての大熊町は、心落ち着く自然豊かな場所。
エミリーさんは、自分が育てたラズベリーを訪れた観光客に振る舞い「また福島に行きたい」と言ってもらえるような交流をしたいという。

「大好きになった福島をもっと多くの人に伝えたい」と願いを込めた彩り豊かで温かいイラストのように、この場所が賑わう未来を思い描いている。
(福島テレビ)