北大西洋に沈没した<タイタニック>号の見学ツアーの潜水艇が遭難した事件について、米海軍が当初から潜水艇が水圧で崩壊したことを知っていながら5日間も大規模な捜索が行われたことをめぐりさまざまな疑念を招いている。

潜水艇の捜索活動
潜水艇の捜索活動
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見学ツアーの潜水艇は今月18日に消息を断ち、米コーストガードを中心に大規模な捜索が展開されていたが、22日無人探査艇が<タイタニック>号の付近で潜水艇の破片を発見、乗員5人は絶望と発表された。

米海軍の情報はなぜ公開されなかった?

ところが同日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「米海軍は当初から潜水艇が押し潰された音を探知していた」と報じた。

記事によれば米海軍は、16日に潜水艇との交信が途絶え行方が分からなくなった直後から海中の音響探査を始め、間も無く水圧によって内部崩壊が起きたと想定できる音響を探知した。その位置はその後潜水艇の破片が見つかった付近と想定され、米海軍は捜索に当たっているコーストガードの司令官にその情報を伝達したと海軍の当局者は明らかにした。

海底に眠るタイタニック号
海底に眠るタイタニック号

しかしそれが行方不明の潜水艇のものだったかどうかまでは断定できず、この情報は捜索の参考として扱われて結果的に破片の発見に結びつくことになったという。

事故を起こした潜水艇
事故を起こした潜水艇

この間、捜索は海域を広げて米国とカナダに加えて仏の深海探査チームも加わって行われ、「海底からモノを叩くような音が聞こえる」とか「艇内の酸素は間も無く絶える」などと伝えられる中で、米海軍の情報がまったく公表されずに人々の感情を弄んだようなことに批判が巻き起こっている。

タイタニック号
タイタニック号

「米海軍は潜水艇が崩壊した音を聞いていながら、皆に時間と資源を浪費させた。なんてことだ」

「彼ら(海軍)は4日前に結末を知っていたのに、救出ドラマを続けさせた」

辛口のツイッターは米海軍当局を標的に不満をぶつけている。

こうした疑問に英紙「ザ・ガーディアン」電子版23日の記事は次のように答えた。

「米海軍は潜水艦探査の性能を秘密にしておきたかったのではないか。そうであれば、当初何も公にされず、その後も海軍がどのように潜水艇の崩壊を探知したのか詳細を明らかにしなかった理由が分かる」

潜水艦を探知する音響システムは米海軍の最高機密の一つであるはずだ。もし潜水艇の事故を探知した詳細を公表すれば、システムの性能だけでなくその仕組みまでも敵対国側に類推させることにもなりかねない。米海軍がそれを恐れて情報の公表を渋ったというのはあり得る話だ。

バイデンの情報隠し疑惑

しかし情報隠し疑惑はそれだけでは収まらない。

「バイデン政権は潜水艇が崩壊したことを16日には知っていた。しかし、今日(23日)下院立法委員会で内国歳入庁の内部告発者が(バイデン大統領の次男)ハンター・バイデン氏の捜査を司法省が妨害したと証言するまで待って、そのニュースの影を薄くすることを狙ったのだ」

バイデン大統領と次男ハンター氏(右)
バイデン大統領と次男ハンター氏(右)

ニューヨーク・ポスト紙のコラムニストのミランダ・デバインさんはこうツイートした。

ミランダ・デバイン氏のツイート
ミランダ・デバイン氏のツイート

保守系で反バイデンの立場の同紙の関係者ならさもありなんという指摘だが、実は23日の米国のマスコミは潜水艇の破片発見のニュースを大きく取り上げ、バイデン大統領にダメージになるハンター氏関連のニュースはデバインさんが指摘した通りほとんど顧みられなかった。

果たして真相や如何に?

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。