北海道で新たな鉱物が見つかり、国際機関に「北海道石(ほっかいどうせき)」として登録された。

発見したのは、公益財団法⼈「相模中央化学研究所」の田中陵⼆・主任研究員らの研究グループだ。

北海道の⿅追町や愛別町の⼭林で、世界初となる新鉱物「北海道石」を発見し、今年1⽉に「国際鉱物学連合」で命名承認と登録を受けた。

北海道石は、炭素および⽔素のみからなる有機化合物の天然結晶で、紫外線をあてると美しく光るという特徴を持つ。研究グループは「北海道石は、石油生成の謎を解く鍵になる情報を含んでいる」としている。

北海道⽯を含むオパール(⿅追町産。紫外線照射下、⻩⾊く蛍光する部分が北海道⽯)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]
北海道⽯を含むオパール(⿅追町産。紫外線照射下、⻩⾊く蛍光する部分が北海道⽯)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]
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新たな鉱物「北海道石」は、なぜ、紫外線をあてると、美しく光るのか? また、今回の発見にはどのような意義があり、どのようなことの解明につながるのか?

公益財団法⼈「相模中央化学研究所」の田中主任研究員に聞いた。

紫外線をあてると美しく光る理由

――そもそも「鉱物」とは何?

定義としては、地質学的作用で生じる、組成の定まった結晶性の物質です。


――「北海道石」の特徴は?

炭素原子22個と水素原子12個からなる「炭化水素」と呼ばれる有機化合物の一種「ベンゾ[ghi]ペリレン」と呼ばれる物質が結晶になったものです。

石油のようなものなのですが、地質学的作用により純粋になり、結晶として見られます。そのもの自体は、黄色い四角板状の、座布団のような形の結晶になります。こういう炭化水素の有機化合物の鉱物は珍しく、日本では今まで発見されていませんでした。


――紫外線をあてると、美しく光る理由は?

紫外線を吸収して、分子の内部でそのエネルギーを変換し、黄色~黄緑色の光を発するためです。「北海道石」をはじめとし、多環芳香族炭化水素(PAH)は、すべて紫外線を当てると強い蛍光を出します。

「北海道石は無数にありました」

――「北海道石」は、どこで見つけた?

最初に見つけたのは、北海道愛別町の山林です。そのすぐ後に、北海道鹿追町においても、多量の産出を認めました。


――見つけたのは、いつ?

2021年内に共同研究者の萩原さん(⽇本地学研究会の萩原昭⼈さん)が愛別町で試料採取してきたサンプルの中に「北海道石」があって、それに気づいたのが2022年1月です。

ただし、愛別町のサンプルは量が足りなかったので、いろいろ試料を探して、「益富地学会館」に収蔵されていた古い標本の中に「北海道石」を発見したのが、2022年の1月末から2月ぐらいにかけてです。

それを実際に現場に調査に行ったのが、2022年6月になります。そして、はっきりと新鉱物だというデータが取れたのは、2022年1月です。


――見つけた「北海道石」の数は?

無数にありました。

⿅追町産地における北海道⽯を含むオパールの産状(横幅 60 センチ。紫外線照射下。⻩⾊〜⻩緑 ⾊蛍光を⽰す部分が北海道⽯を含むオパール層)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]
⿅追町産地における北海道⽯を含むオパールの産状(横幅 60 センチ。紫外線照射下。⻩⾊〜⻩緑 ⾊蛍光を⽰す部分が北海道⽯を含むオパール層)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]

新鉱物「1年に100種あまりの申請があり、承認」

――新たな鉱物を承認・登録しているのは「国際鉱物学連合」のみとなるの?

そうです。研究者がおのおの研究している鉱物種名の齟齬(そご)を防ぐための機関です。


――「国際鉱物学連合」がどのようなプロセスを経て、新たな鉱物を承認・登録する?

まず、記載に必要な分析データや外観、そして、命名の提案とその根拠を国内の新鉱物命名委員会にてチェックを受け、その内容をもとに国際鉱物学連合の内部組織「新鉱物および鉱物名に関する委員会(CNMMC)」に投稿します。

これは、内部で委員によって吟味され、最終的には委員の投票の3分の2以上が得られれば、新鉱物として承認されます。さらに、記載論文を2年以内に公表する必要があります。
 

――新たな鉱物は、どのぐらいのペースで承認・登録されている?

現在の状況では、1年に100種あまりの申請があり、承認されています。


――新たな鉱物を見つけることは、どのような意義がある?

鉱物は必ず、生成メカニズムがあり、地球内部における元素の循環の情報を持っています。新しい鉱物は、“新しい元素循環メカニズム”について理解を深めるきっかけになるのです。


――“新しい元素循環メカニズム”について理解を深めることは、どのような意味があり、どのようなことにつながる?

地球の営みを知る、足掛かりになります。
 

「石油の生成に関して、新しい情報を与えるもの」

――「北海道石」の発見は、どのような意義があるの?

今まで、研究例の乏しかった「有機地球化学」という学術分野への貢献になると思います。

これは、地下における有機物(炭素化合物)の変換を扱った学問であり、現在進行形で対策が求められる、地球温暖化なども扱う学術領域です。

地球の中で、炭素を主成分とする有機化合物がどのように形を変え、移動し、あるいは貯蔵されるかについての新しい情報を与えます。

北海道石を含むオパールの産状(長波紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発する。横幅15センチ)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]
北海道石を含むオパールの産状(長波紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発する。横幅15センチ)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]

――「地球の中で、炭素を主成分とする有機化合物がどのように形を変え、移動し、あるいは貯蔵されるかについての新しい情報」を得られると、どのようなことの解明につながる?

例えば、空気中の二酸化炭素を分離して、地層中に固定化させるような地球温暖化対策であったり、あるいは化石燃料資源の利用や開発についてのデータを与えます。


――「北海道石」が“石油生成の謎を解く鍵になる情報を含んでいる”理由は?

「北海道石」の生成は、地下深部の植物遺骸(植物化石)が熱と熱水(高温高圧の水)の作用によって生じたものと考えられます。

石油の生成には、まだ多くの謎がありますが、石油の一種に「熱水性石油」というものがあり、これは生物遺骸が熱水により変化して生じたと考えられるものです。「北海道石」の生成メカニズムの解明は、このような石油の生成に関して、新しい情報を与えるものです。


――この「北海道石」の実物を見ることができる?

現在、北海道の「とかち⿅追ジオパークビジターセンター」「ひがし大雪自然館」「北海道大学総合博物館」で展示しています。

北海道石を含むオパール(長波紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発する。横幅5センチ)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]
北海道石を含むオパール(長波紫外線を当てると黄緑色の蛍光を発する。横幅5センチ)[提供:相模中央化学研究所 田中陵⼆・主任研究員]

新たに発見され、国際機関に登録された「北海道石」。「紫外線を当てるときれい」というだけでなく、この鉱物の生成メカニズムが解明されることによって、石油生成の謎が解明されることを期待したい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。