岸田首相が異次元の少子化対策について「ラストチャンス」と強調、2024年10月から児童手当を拡充する意向を示した。そもそも「なんで結婚する人が増えないのか?」。「婚活」や「パラサイト・シングル」などの言葉の生みの親で家族社会学が専門の中央大学・山田昌弘教授に話を聞いた。

「少子化対策すでに敗北 試合終了のゴングは鳴った…」

一般的に少子化対策というと、児童手当などの子育て対策に焦点が当たりがちだが、実はそもそも結婚する人が減っているという問題がある。

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山田教授は少子化問題について「少子化対策 すでに敗北 試合終了のゴングは鳴った…」とみている。衝撃的な言葉だ。

中央大学 山田昌弘教授:
少子化が初めて話題になったのが1990年なんです。1992年には当時の経済企画庁が国民生活白書で「少子化対策をしなければ、今後社会は大変だ」と言っていたのにもかかわらず、結果的に30年間放置してしまったということなんです。私もいろんなところで、政府の委員等も務めましたので言ってるんですけども、なかなか本格的にやってくれなかったということがあります

中央大学 山田昌弘教授:
2010年代までに、つまり1970年代前半生まれのいわゆる“団塊ジュニア”たちが40歳を超えるまでに本格的な対策を打っていれば、ここまで少子化にならなかったんじゃないかなと思っています。すでに大変な状況なんですけれども、何もやらなければもっともっと悪くなるはずで、大きく対策を打ってもらって、多少なりとも回復していただかないと日本社会は大変なことになると思っています

結婚する人が増えていない現状を、どうにかしないといけないですよね?

中央大学 山田昌弘教授:
結婚というのは、まず好きな人と一緒に暮らすというのもありますけれど、日本社会においてはやっぱり結婚して2人の生活を始めるわけですから“経済問題”なんです。非正規雇用など経済的に不安定な人たちが結婚できないというのは、もう30年前から言われてきたことなんです。現実には若者の間で非正規雇用や、フリーランス、アルバイトで生活する人が増えてきてしまった。その対策を打ってなかったことが、大きな失敗の原因なんです

非正規雇用で「結婚が難しい」と考えている方には、どのような厳しい現実があるのだろうか。

中央大学 山田昌弘教授:
昔も若い人は給料が少なかったんですけれども、ほとんどの人が正社員だったので、今少なくても将来どんどん上がっていく期待が持てたわけです。でも今は、ずっと少ないままかもしれないし、いつ仕事がなくなるかもしれない。社会保障においても育児休業とかあるのは基本正社員だけなんです。「男性育休」といっても、非正規雇用の人は取れないですよね。収入的にも補填されませんし、社会保障においても大きな差があるんです

「非正規雇用」の男性が結婚できない現実

非正規雇用の男性が結婚しない・できない、ということを裏付けるデータがある。雇用形態別の有配偶率をみると、男性の正規雇用の場合の有配偶率59.0%に対し、非正規雇用の場合は22.3%とかなり低いことが分かる。

関西テレビ 加藤さゆりデスク:
結婚には収入が直接関わってくるのかと思います。最近の話を伺うと、若い人、男女ともに相手に経済力を求める傾向があるそうなんです。いわゆる“婚活”をしようと思っても、自分の収入が低かったりすると、もうその時点で「選ばれないな」と思ってやめてしまう。本来なら婚活市場に参入したであろう人も、“スペック”といわれる、経済力・財力によって諦めてしまう傾向があるのかと思いますね

中央大学 山田昌弘教授:
結局、子供を育てている時にお金が足りなくなったら困るっていうのが、結婚そして子育てを控える最大の理由です。単に若者の収入を上げるというより、将来安定して収入が得られるような仕組みっていうものを保証していく必要がありますよね

政府の“異次元の少子化対策”。結婚する人を増やすための効果的な対策はあるのだろうか。
政府案では、
・育児休業制度の強化
・希望する非正規雇用者の正規化
・保育所の整備や手続き等の簡素化

などがあげられている。

政府もなんとか結婚する人を増やそうと、さまざまな対策を打ち出している。

中央大学 山田昌弘教授:
育休と保育所は従来の政策の延長なんですけれども、主に正社員の人を対象にした政策なんですよね。実は東京23区の子供の数は減っていないんです。むしろ20年で増えているんです。男女ともに正社員で子供を育てているカップルが、東京では多いんです。育児休業とか保育所整備すれば、そういう人たちは経済的な心配がないですから、子供がどんどん生まれてくるということで、東京23区さらには多分大阪などの大都市部で子供の数はそれほど減ってないんです。

中央大学 山田昌弘教授:
地方に行くと男性でも非正規社員は多いですし、正社員でも年収200万円といった人たちにインタビュー調査をしたことがあります。地方での子供の減り方というのは急激なんです。いわゆる今の若者の状況は、多様化してるんですよ。昔30~40年前は、男性は全部正社員、女性は一般職というところで政策をやっていればよかったのですけれども、今は男性も女性も、正社員もいれば、フリーランスも非正規雇用もいる。多様化している人たちにきめの細かい対策を本当はしなきゃいけないんです

政府は効果的な対策を打ってこなかったのだろうか?

中央大学 山田昌弘教授:
東京などの正社員同士の共働きカップルに対しては、正しい政策をしてきたわけです。当時の政府としては、これから男女とも正社員のカップルが増えるだろうと思ったんでしょうね。現実には正社員カップルがほとんど増えていません。非正規雇用の人が思った以上に増えてしまったために、この少子化が起きているわけです

効果的な対策は「雇用形態による社会保障格差をなくす」

山田教授が考える最も効果的な少子化対策は、
・正規雇用と非正規雇用の社会保障の格差をなくす
・大学、専門学校など高等教育の無償化

ということだ。

中央大学 山田昌弘教授:
結婚することと、子供を生むことをセットで考える人が、日本では多いわけです。そして子供が生まれた時に、その子が大きくなって大学に行きたいとか専門学校に行きたいと言った時、お金を払ってあげられるよと言ってあげたいですよね。子供につらい思いをさせたくないので、子供の数を控えるわけです。ですから、何人でも行きたければ好きに行っていいよと思えれば、2人、3人生むという人も増えるんじゃないでしょうか

視聴者からこんな質問が届いた。

ーー結婚にはネガティブなイメージが多いから、みんなしないのでは?

中央大学 山田昌弘教授:
そうですね。私も色々インタビュー調査をしている中で、恋愛結婚したはずの親があんまり仲良くなくて、楽しそうじゃないと。子育て費用を稼ぐために一生懸命働いているのを見るのは忍びない。経済的にも情緒的にも、子育てしている親があんまり楽しそうでもないし、お金を稼ぐのに大変そうだっていうところはあると思いますね

もう1つ質問です。

ーー息子の奨学金返済は38歳までかかる。これで結婚できるんでしょうか?

中央大学 山田昌弘教授:
そこで私も色々提言しているんですけれど、今後大学の費用を無償化するだけではなくて、奨学金の返済をどういう形であれ軽減できないかと言っています。私のインタビュー調査の中で、「付き合っているんだけど、2人とも奨学金の返済をしているので、なかなか結婚できない」という人たちが何人もいました。そういう意味で、今現在の大学費用の無償化もですけど、 もう大学を出た人の奨学金という名の借金の軽減というのも、ぜひ入れてほしいですね 

政府が異次元の少子化対策を打ち出していますが、大前提として、まず結婚というステップを踏むことが少子化対策を考える上で大事なことだと思います。

(関西テレビ「newsランナー」2023年6月13日放送)

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