2023年6月6日、福岡県内の自治体の「自治」をつかさどる場で異例の事態が起きていた。その裏で見え隠れする大物政治家の存在。様々な思惑がうごめく異例の選挙戦の舞台裏を取材した。

大任町・永原譲二町長が5期目に意欲

県内31の町と村で構成される「福岡県町村会」。

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「福岡県町村会」・永原譲二会長(大任町):
30数年ぶりに、投票による選挙が執り行われます。我々の目指す未来のためには協同することが不可欠です

県内全ての町と村で構成される町村会は、地域の要望や課題をとりまとめ、時には国に意見書を提出するなどの役割を担っている。その町村会で、記録が残る1989年以降、初めてとなる会長選挙が実施されたのだ。

一番左が永原町長
一番左が永原町長

現職の会長は大任町の永原譲二町長(69)。「ヤバいぜ!」と銘打った町の観光パンフレットに白いハットをかぶって写るのが永原町長、その人だ。

永原町長は、法律で義務付けられている公共工事の入札結果を非公表とするなど、情報公開に後ろ向きともとれる姿勢が時代に逆行していると批判を受けていた。

「福岡県町村会」・永原譲二会長(大任町):
モノ言う町村会。強い町村会を目指していきたい

4期にわたって会長を務めてきた大任町の永原譲二町長。会長任期が満了となるにも関わらず、今回5期目への意欲を見せたのだ。

町村会の規約では「会長の任期は4期まで」と規定されている。これは2010年に町村会を舞台とした汚職事件で、全国町村会長も務めた県会長らが逮捕されたことを受け、設けられた規定だ。逮捕された当時の会長が、約18年にわたって会長職に就いていたことから、権力の集中を防ぐことを目的としている。

「福岡県町村会」・永原譲二会長(大任町)議事録より:
多選批判のためにしたのではなく、マスコミ対策。5期目になると次はもう、全国の会長代行になるように、もう大体、内々に決まっています

4月の臨時理事会で、規約はマスコミ対策に作ったものであり、自身が全国町村会の会長代行に内定していると発言した永原町長。「4期まで」という規約には理事会の同意など例外規定があり、全国町村会の副会長でもある永原町長はこの部分を理由に異例の続投を表明した。

見え隠れする元総務相の姿…

「独裁町政を許すな!」「永原町長リコール!」。

6月4日、大任町で住民団体によるデモが行われた。永原町長は法律で義務付けられている公共工事の入札結果を2023年3月まで非公表としていたほか、議会などの撮影を一切禁止するなど強引とも取れる政治手法が度々問題視されてきたのだ。
こうした経緯に加え、町村会の規約を軽視するような発言に異論を唱えたのが水巻町の美浦喜明町長(68)だ。

水巻町・美浦喜明町長(事前取材):
「ちょっと乱暴すぎやせんね」と思う。規約は規約で守っていかなきゃいけん。それがスジやないんですかと。そのスジを蔑ろにするのはダメだと。少なくとも町長、町民の代表で集まっている組織の中で。それを私は示していきたい

美浦町長は、自身の決心を書面にして各町村長に訴えた。

一方で、永原町長のそばに見え隠れするのは、自民党の武田良太元総務相の姿だ。永原町長が選対本部長を務める武田元総務相は5月末、地元の町長らとの会合を行い「永原続投」で結束するよう訴えるなど、多数派工作を行っていたという。

水巻町・美浦喜明町長(事前取材):
計算で言ったらとても勝てる選挙ではないと思う。勝ち負けで言ったら多勢に無勢やん。しかし4期という歯止めを作った当時の先輩たちの意思を継ぐべきじゃないかなと

当選したのは…

こうして迎えた選挙当日。永原町長優勢との見方が広がる中、31人の町村長が選んだのは…。

水巻町・美浦喜明町長:
「過半数を頂いた」ということで、次期会長に選任をさせて頂きました。身の引き締まる思いです

美浦町長が16票、永原町長が14票、白票が1票となり美浦町長が当選という結果になった。

出席した町長(取材メモより):
選挙で民主的に会長を決めるのは正常なことだ

美浦町長に入れた町長(取材メモより):
リコールの動きなど、町民の賛同を得られない要素がある人なら、代わった方がいい

閉会後、報道陣の問いかけに応じず、足早に会場を去った永原町長。後日、テレビ西日本の取材に対し役場を通じて「コメントすることは何もない」とした。
地方自治を先導するための場で起きた異例の選挙戦。新体制の動きが注目される。

(テレビ西日本)

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