リニア新幹線の工事をめぐり、静岡県は山梨県との県境付近のボーリング調査を中止するよう、JR東海に求めている。静岡側の地下水が山梨側に流出するおそれがあるからだ。だが、山梨県内の湧水を“静岡県のもの”と主張することに、山梨県知事は「おかしな議論」と批判する。
静岡の主張が通るなら…“富士川の水は山梨県のもの”?

静岡県は南アルプスの環境への影響や大井川の流量減少の懸念などから、リニア新幹線の県内の工事を認めていない。

一方でJR東海は南アルプスの地下水や地質の状況を把握するため、山梨県側から静岡県との県境に向けて、ボーリング調査を進めている。

静岡県はこの山梨県内のボーリング調査についても、県境まで300mの区間は掘削しないよう求めている。静岡側の地下水が山梨側に流出する恐れがあるからだ。静岡県は、「JR東海は流出した地下水を静岡側に戻す方法をまず決めるべきだ」と主張している。
この静岡県の主張に、山梨県の長崎幸太郎知事は6月9日の記者会見で、疑問を投げかけた。

山梨県・長崎幸太郎 知事:
何の議論をしているのか、どうしてこういう議論になるのか、よく理解できない点があります。そもそも静岡県の水とは一体何なのか、ここを明らかにしていただかないと、しっかり向き合うべき議論にならないのではないか

長崎知事は、地元を流れる富士川を例にあげて、静岡県の言い分を批判した。富士川は長野・山梨の県境付近を源流にして、山梨県内を流れ静岡県の駿河湾にそそぐ。

山梨県・長崎幸太郎 知事:
源泉、元々の出どころによって、「どこどこの水だ」という話になるのであれば、例えば、富士川の水は山梨県と長野県に源泉を発している訳ですが、それが川になって静岡県にも流れて行くわけですが、それが山梨県と長野県の水になるのでしょうか。こういう話だと思います

山梨県・長崎幸太郎 知事:
それによって(静岡県が求めるように)「民間の経済活動を抑制して下さい」という効果を持ちうるものであるとすれば、我々(源泉の山梨県)も(下流の静岡県内の)富士川の利用に関して何がしか言うことができるのでしょうか。すごくおかしな議論になってくるのでは
長崎知事は山梨県内のボーリング調査の湧水が静岡県の水と主張するなら、法的根拠を示すよう求めた。
静岡の水か山梨の水か どうして区別?

ところで、山梨県側のボーリング調査で出る湧水についてJR東海は静岡県に歩み寄りを見せた。6月7日の静岡県リニア環境保全連絡会議水資源専門部会で、JR東海は、水質などの分析の結果、静岡側から流入したと確認された水は山梨県の同意を得た上で戻す方針を示した。

湧き出た地下水が静岡側のものか山梨側のものかを確認する方法は、県専門部会委員で、国立研究開発法人産業技術総合研究所の丸井敦尚氏が提案している。

丸井氏によると、地質構造でみると、静岡県内の粘板岩と山梨県内の砂岩頁岩互層とは堆積時期が異なるほか、地層への圧力のかかり方も違うそうだ。

そのため、ボーリング調査を進めて、それぞれの地層の透水係数(水が土壌を通過する際の水の通りやすさの度合い)や間隙率(土全体の堆積に占める間隙の比率)が分かれば、どの範囲の地下水が湧出しているか推定できるという。
さらに水温や、同位体組成から推定できる滞留時間などから、静岡側の地下水が分かるそうだ。
専門部会でJR東海側は、「たとえ静岡側からきた水と分かっても、100年前に来た水と1日前に来た水では違うと思うので、戻す水については“時間的概念”についても県と認識をあわせていきたい」と主張していた。
「分析でどちらの水か分かる」にも山梨は疑問
こうして水を分析して、どちらの水が区別することにも、長崎知事は懐疑的だ。

山梨県・長崎幸太郎 知事:
(分析で)どこどこの水になったと、(それが)どういう法的な効果があるのか、既存の法律に基づいてしっかり明らかにしてもらいたい。それが議論の前提で、それがないのに、成分がどうかとか、ちょっとどういう意味があるのか、理解に苦しんでいるところです。ボーリング調査を止めるというのは、ナンセンス以外の何物でもないと思っています。これ(ボーリング調査)を進める、私はJR東海に対して強く進めるべきだと思いますし、やって頂きたいと思っています

5月31日のリニア建設促進期成同盟会では、長崎知事が静岡県の課題に対し期成同盟会のなかで意見交換を行う協議会の設置を提案した。川勝知事も感謝して、両県の知事の関係は良好のように見えていた。
6月13日の定例会見で、今回の長崎知事の批判についての感想を聞かれた川勝知事は、「静岡の水か山梨の水かという主張は今後しない」との考えを示した。

静岡県・川勝平太 知事:
水はみんなのものであり、同時に誰のものでもあり、誰のものでもない。そういう性質のもの。どこからどこまでが山梨、どこからどこまでが静岡というのは行政的にはありますけど、山はひとつの南アルプスです
山梨県内でのボーリング調査の中止要請については撤回する考えがないことを改めて示したものの、県専門部会の総意に従う考えを明らかにした。

県専門部会で水の見分け方を提案した丸井委員が、最後に付け加えた言葉が興味深い。
県専門部会・丸井委員:
日本を含めて、多くの国では、そこの場所で掘った地下水は、その土地を持っている人のものだと。要するに、今回の場合に適して言えば、ボーリング調査は山梨県側で掘っていますので、そこで出てくる水は山梨県のものだという認識で日本の法律もつくられております。ただ、2001年に「世界水の年」というのがあり、あと日本でも国内での水循環基本法というものができて、「水は貴重なものだから、自然の恵みとして、上流と下流の合意の上で管理していきましょう」というのが21世紀になってからの考え方ですので、山梨県だけ、静岡県だけというのではなく、地域の住民みんながハッピーになるように考えていただきたいというのが、最近の法律の趣旨だということを認識していただければと思います。
山梨と静岡の県民だけでなく、リニア沿線の人たちがハッピーになるような結末が来るのだろうか。
(テレビ静岡)