鹿児島・伊佐市にある鶴田ダムの湖底には、明治時代に造られたレンガ造りの建物が沈んでいる。国の登録有形文化財、曽木発電所遺構だ。2021年の大雨で、建物の一部が倒壊してしまったこの貴重な文化財を復元させるため、最新の技術を駆使して挑む関係者を追った。 

水位が下がる5月~9月に現れる

明治42(1909年)年に造られた水力発電所の電気は、近くの金山の動力源となったほか、熊本・水俣市の工場にも供給されたが、1966年に竣工した鶴田ダムの湖底に沈んだ。

鶴田ダムの湖底に沈む曽木発電所遺構(2021年12月撮影)
鶴田ダムの湖底に沈む曽木発電所遺構(2021年12月撮影)
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明治時代の技術の粋を集めて建てられたレンガ造りの発電所は、アーチ構造の壁が特長で、梅雨や台風に備えてダムの水位が下がる5月~9月までは見ることができ、観光客にも人気だ。 

創業時の曾木発電所(伊佐市教育委員会提供)
創業時の曾木発電所(伊佐市教育委員会提供)

2021年の豪雨で倒壊した建物の復元工事も、この期間しか行うことができない。そのため、2022年は遺構周辺に倒壊して散らばったレンガの回収で終わった。

登録有形文化財としての価値を損なわないよう、オリジナルのレンガはできるだけ元の場所に戻されるが、回収したレンガの壁はさまざまな大きさ・形のものがあり、中には数トンのものもある。多くは塊のまま保管されている。

遺構が水没し現地で作業ができない期間には、パソコンを使い別の作業が進められていた。倒壊した壁のブロックが元々どこの場所にあったのかを特定させるために、レンガの塊を3Dデータ化しているのだ。

国土交通省鶴田ダム管理署・有嶋哲朗専門官によると、この技術を使い、これまでに80余りのレンガの塊について、元の場所が特定できたという。北側が87%、南側が54%だ。

レンガの壁は、建物の内側から鉄骨で補強して復元される方針となっている。

鶴田ダム管理署・有嶋哲朗専門官:
今後、壁を立ち上げていく工事が出てくるが、2023年度は壁を支えるための鋼材を建てるためのコンクリートの基礎工事をやりたい

目指すのは「魅せる」工事

ダムの対岸には展望所が設置されていて、復旧工事中も多くの観光客が訪れている。歴史のロマンに加え、限られた期間だけ水面から姿を現す神秘性と希少性にひきつけられるようだ。

訪れた人:
初めてでした。ジブリの世界観というかきれいだな

訪れた人:
壊れているところが直ったらもっときれいになるんじゃないか。楽しみです

では、曽木発電所遺構の「復旧」と「観光」はどう両立させるのか。目指すのは「魅せる」工事だ。

砕けたレンガのかけらは記念品に
砕けたレンガのかけらは記念品に

壁の復元は展望台から見える南側から先に行い、粉々に砕けたレンガのかけらは記念品として再利用する予定で、復元されていく過程も楽しんでもらう計画となっている。

国土交通省鶴田ダム管理所・有嶋哲朗専門官:
地元の人に愛され「早く復旧してほしい」との意見も聞く建物なので、遺構を見ながら工事も見てほしいと思っています

曽木発電所遺構の復旧工事完了時期は未定だが、これからも地元の貴重な観光資源としてダム湖の中にあり続ける。 

(鹿児島テレビ)

鹿児島テレビ
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