民間の資格「グランドシッター」、保育士が不足し負担が大きくなる今、注目されている資格だ。実際に導入している福岡市の保育園で、「グランドシッター」の“よさ”を取材した。

保育士を助けるグランドシッター

福岡市博多区。一見、普通の住宅のように見えるが―。

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橋本真衣アナウンサー:
古民家を改装した住宅ですが、中をみてみると、かわいい子どもたちが、たくさんいますね。おやつを食べたり、ブロックや絵本を楽しんだり、そしてまだお昼寝から目覚めていない子もいます

2021年6月に開園した「SUN・さん保育園」。保育園の名前には「子どもたちが太陽のような温かい場所で育ってほしい」という思いが込められている。
現在、園児は0歳から5歳までの約30人。それに対して保育士は9人と決して多くはない状態だ。

子どもの遊び相手から食事のサポートなど保育士の仕事はとにかく多い。子どもたちがおやつを食べているうちに隣の部屋では、別の保育士がベッドを片付けたり、机を消毒したりと朝から夕方まで大忙し!まさに「フル稼働」の状態だ。

そんな保育士たちに混じって子どもたちに絵本を読み聞かせている男性がいる。「SUN・さん保育園」の園長・日下部陽一さんだ。日下部園長は、園のトップではあるが、保育士の資格は持っていない。持っているのは「グランドシッター」の資格だ。

グランドシッターは民間の資格で、忙しい保育士の補助として主に子どもの遊び相手などを担当する。いま定年後のセカンドキャリアとしてこの資格を取得するシニアが増えていて、人材確保に悩む保育業界で新たな担い手として期待されている。

「シニア」と「保育園」の相性良し

資格は2日間の講習で保育についての基礎知識を学び、試験に合格することで認定される。

「SUN・さん保育園」 日下部陽一園長:
セカンドステージでやるんだったら、「何か人のためにやりたい」とか、「何か世の中にためになりたい」という思いがだんだん強くなってくるんじゃないかな。社会経験がひと通りあって、その中で子どもさんがいらっしゃったら、子育て経験もひと通りあって、ある程度達観して見られる、そういう目で見ていただける

また、日下部園長はこのグランドシッターを活用することで保育士が働きやすい環境を作ろうとしていた。

グランドシッターの導入でいったい何が変わるのか?

「SUN・さん保育園」 日下部陽一園長:
どうしても保育の業界っていうのが、「子どもファースト」になりすぎてる。保育士の休憩場所だったり、時間だったり、非常に制約されている中でやってるから。「保育士さんたちが働きやすい職場になればいいな」って、何か手伝っていただけるような人がいるとかなり保育士が子どもに集中できるじゃないかなというふうに思います

保育園は、一般的に若い職員が多い職場ではあるが、「シニア」と「保育園」の相性は悪くないそうだ。日下部園長は今後、積極的にシニア層にも声をかけ、認定を受けてもらい、雇用したいと考えている。

「SUN・さん保育園」 日下部陽一園長:
多様な人材がほしい、いろんな目線で見られるので、高齢者の方、ぜひ、経験を踏まえて見てもらえると助かる

伸び悩む“現役保育士の数”

内閣府の高齢社会白書(2022年版)によると、収入がある仕事に就く60歳以上の約4割が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答。「70歳くらいまで、もしくはそれ以上」も合わせると約9割にのぼる。

グランドシッターの養成事業を展開する一般社団法人の「日本ワークバランスサポート協会」の武市理事長はシニア世代の経験や知恵が保育の場で生きると話す。

「日本ワークバランスサポート協会」武市海里理事長:
子どもが豊かに育っていくためには、やはりいろいろな人生経験をした人が周りにいて、こういう人と接触することが、「子ども、若い保育士、若い親御さんのために役立つだろうな」と思いますし、「働く先輩として保育士さんたちのカウンセラー的な存在にもなってくれるのでは」とも思います

厚生労働省によると保育士の登録者数と従事者数は、保育資格を持ち、保育士として登録されている人が増えている一方、実際に保育士として働く人は伸び悩んでいる。資格を持っていても実際に従事していない「潜在保育士」は約102万人にも上るとみられている。

なぜ潜在保育士が増えているのか?それはズバリ労働環境だ。過去に保育士として働いていた人が退職した理由では、職場の人間関係に次いで、給料が安いことや仕事量が多い、労働時間が長いことがあげられている。

仕事を持つ保護者に代わって子どもの世話をする保育園。保育士不足も深刻化する中、シニア世代の活用は厳しい保育体制を改善するきっかけになりそうだ。

(テレビ西日本)

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