鹿児島・さつま町で、21年の長きにわたり運航されてきた「ホタル舟」が、2023年5月、その歴史に幕を閉じた。地元の有志が続けてきた手づくりのホタル舟、その最後の運航に密着した。

最終運航を控え子供たちを招き試運転

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さつま町二渡の自然豊かな川内(せんだい)川の川岸に浮かぶ木の舟。「ホタル舟」は、この舟で約40分間川を巡り、ホタルを鑑賞するツアーだ。

元々は、地元の仲間内だけで、漁をするための手づくりの川舟でホタル観賞を楽しんでいた。これを「村おこしに生かせないか」と、2003年に有志で「二渡がらっぱボタルの会」を結成。2004年に営業運航を始めた。「がらっぱ」とは地元の言葉でカッパのことで、川内川には「がらっぱ」の伝説が多い。

2016年の映像を見ると、まるで、木々に宝石がちりばめられているかのような光景が広がっていた。

それから7年。最後の営業運航を翌日に控え、地元の子供たちを招き試運転が行われた。

「舟が動いている時には明かりを絶対に出さないでください」と子供たちに説明するのは、がらっぱボタルの会の会長・下麦清正さん(72)。コロナ禍で運航を休止していたため、お客さんを乗せるのは4年ぶりだ。

「いた?いた?」と、ホタルを探す子供たち。目を凝らして見ると、ぽつぽつと、優しい光を放つホタルが姿を現した。しかし、7年前の映像と比べると、ホタルは激減していた。2021年7月の大雨で幼虫が流されたのが原因だという。

下麦さんはスタッフを集め「明日から本番です。最後、事故がないように、それだけを十分注意して、やりたいと思います」と話した。

船舶免許も取得 舟も手づくり

ホタルが減ったこととメンバーの高齢化を受け、二渡のホタル舟は2023年、幕を下ろす。

受付に誘導役、船頭まで何もかも手づくりで運営してきたホタル舟。営業運航をするため、男性メンバーの多くが船舶の免許も取った。

「ホタル舟」の舟も手づくり
「ホタル舟」の舟も手づくり

使っている舟も手づくりだ。メンバーの一人、富永俊一さん(74)が丸太から製材してつくり上げた。

二渡がらっぱボタルの会・富永俊一さん:
7mの木材を買ってきて、製材して、それを1年間乾かすんです。それからやっと舟ができるんです

口蹄疫や豪雨災害、コロナ禍を乗り越え

会の結成から21年間、色々なことがあった。会長の下麦さんが大切にとっていた予約帳には激動の21年間が記されている。

2010年は家畜伝染病の口蹄疫で、2020年から2022年は新型コロナで中止となった。

2006年
2006年

中でもダメージを受けたのは、2006年にさつま町などに大きな被害をもたらした鹿児島県北部豪雨災害だった。川内川が氾濫し、ホタルも手づくりの舟も流されてしまった。

二渡がらっぱボタルの会・下麦清正会長:
舟が目の前で流されましたから、その時は本当に涙が出ました

それでも活動を続け、豪雨災害から10年後には再びホタルが9割まで回復。しかし2021年の大雨で、またもや幼虫が流された。

最後の年(2023年)も悩みは尽きない。

二渡がらっぱボタルの会・下麦清正会長:
ホタルが少ないからどう説明しようか、それだけが悩みの種です

いよいよラストランへ

それでも、川内川のホタルを見たいと、最後の運航に合わせて多くの人が訪れた。

指宿市から来た親子:
4年前はね、ちょうど私の指に1匹止まったんですよ。なんか感動しました

鹿児島市から来た女性:
ホタルを見た記憶が全くないので、すごく楽しみにしています

乗客がホタル舟に乗り込むと、会長の下麦さんはこう呼びかけた。

二渡がらっぱボタルの会・下麦清正会長:
本日はラストランの乗船ありがとうございます。ホタルが復活するのに10年ぐらいかかったら、私どもも年が何十歳になるものですから、気力、財力もありませんので、ここらがやめどきと思って

川岸から手を振る下麦さん。いよいよ最後のホタル舟が出発した。

指宿市から来た親子:
減ってる分だけすごく貴重な光を感じて、ちょっとうるうるしました

鹿児島市から来た人:
水面に映っている光がすごくきれいだなと思いました。絵本の中の話みたいでした

無事故で幕 あいさつでは亡き仲間への思いも

21年間で約1万7,500人に季節の風景を届けてきたホタル舟。ピーク時に比べればホタルの数は少ないが、光が見えるたびに、乗客から歓声が上がった。ホタルの数は減っても、みる人の胸にホタルの光は届いたようだ。

最後の運航を終え、下麦さんはメンバーの長年の労をねぎらったが、他界した人たちの話になると、思わず声を詰まらせた。

二渡がらっぱボタルの会・下麦清正会長:
一回の事故なく、最後の日を迎えられて非常にうれしく思いますただ、残念なのは(メンバーだった)まもるちゃんがいない、ときちゃんがいない。おってくれたら最高に良かったと思いますけど…仕方がないことですから、素直に無事故で終われることを喜びたいと思います

そう言うと、みんなで乾杯して21年の歴史を締めくくった。

手作りのホタル舟の運航を続けて21年。多くの人に思い出を届けて、メンバーの顔には充実感があふれていた。地域の人たちに愛されたホタルは、いつの日か、またきっと川内川を明るく照らしてくれるに違いない。

(鹿児島テレビ)

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