“ミステリーの女王”アガサ・クリスティーの代表作の舞台になったイギリスの島が今、売りに出されている。貴族や有名人などに愛用されてきたホテル付きの孤島は、どのような経緯で売りに出されることになったのか。

ビートルズも愛用 “ミステリーの女王”が愛した孤島のホテル

イギリス南西部のデヴォン地方にあるバー島。本土から約200メートル離れた島は、干潮時に砂浜の道が現れ、本土から歩いて渡ることができる。一方、満ち潮になると海に囲まれ孤島となる。東京ドーム約2つ分の大きさのこの島では、緑鮮やかな放牧地の中に点在する遺跡やイギリスらしい断崖絶壁などを楽しむことができる。

干潮時の様子(Burgh Island Hotel)
干潮時の様子(Burgh Island Hotel)
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島の大部分を占めるのが、1929年に建てられたアールデコ調の豪華なホテル「バー・アイランド・ホテル」だ。全25部屋の客室があるこのホテルは、レストランやテニスコート、スパ、そして海岸の地形を利用したプライベートビーチ「マーメイドプール」などを併設し、ヘリポートも備えている。昔から王族や貴族、そしてビートルズなどの有名人にも隠れ家的リゾートとして愛されてきた。また第2次世界大戦中には、ノルマンディー上陸作戦直前に、このホテルでアイゼンハワーとチャーチルが会談をしたともいわれている。

ホテルに併設されたレストラン(Burgh Island Hotel)
ホテルに併設されたレストラン(Burgh Island Hotel)

このホテルの宿泊客として最も有名なのが、小説家のアガサ・クリスティーだ。彼女はホテルに併設するビーチハウスに長期にわたって滞在し、この島を舞台にした『そして誰もいなくなった』と『白昼の悪魔』という2つの小説を書いた。

ホテルの客室(Burgh Island Hotel)
ホテルの客室(Burgh Island Hotel)

『そして誰もいなくなった』の冒頭で、バー島は「ヨット好きのアメリカの富豪が島を買いとって、このデヴォンの海岸に近い島に贅を凝らした近代邸宅を建てた…」という“インディアン島”として描かれている。島に招待された10人の男女が次々と謎の死を遂げ、そして最後には誰もいなくなるのだ。

アガサ・クリスティーが滞在したビーチハウス (Burgh Island Hotel)
アガサ・クリスティーが滞在したビーチハウス (Burgh Island Hotel)

売値は約25億円から

歴史ある、美しくかつミステリアスな島が今、売りに出されている。売主は、レンタルオフィスなどいくつもの事業を手掛けるジャイルズ・フックス氏。2018年にこの島を購入し、これまで5年をかけて価値を上げるために整備してきたが、投資家たちからの要望もあり今回売りに出すことになった。値段は、1500万ポンド(約25億円)からの交渉だという。

フックス氏は「これまでに80件以上の問い合わせがあった。多くが冷やかしだと思うが、中には内覧希望者もいるので、買い手は見つかるのでは」と話している。

ホテルは今も営業中で、一泊2人で約8万円から泊まることができる。コロナ明けのこの夏、イギリスに来る際は、アガサ・クリスティーの小説を持参して泊まってみるのもいいかもしれない。

(FNNロンドン支局長 田中雄気)

田中 雄気
田中 雄気

FNNロンドン支局長。侵攻後のウクライナをこれまでに5回取材。元社会部記者。夕方および夜のニュースのディレクター、デスク、プロデューサーなどを経験。