鹿児島県の奄美群島は8つの有人島がある。このうち約9.35平方kmと最も面積が小さいのが、瀬戸内町の与路島だ。2023年4月末時点で、島に暮らすのはわずか59人だが、年に2回、島の人口を大きく上回る人が集まるイベントがある。そのひとつが、5月に開かれた「舟こぎ大会」だ。
コロナ禍の影響で4年ぶりの開催で久々に島に活気が戻ったが、過疎化の影響で今回が最後の開催だという。幕を閉じる島の一大イベントと関係者の思いを取材した。
島民の3倍の人が参加「舟こぎ大会」
奄美大島南部・瀬戸内町の古仁屋港から定期船で1時間40分。船が港に着くと島民が「チヂン」と呼ばれる太鼓で乗客を歓迎する。

この日は島にとって特別な日。到着客が向かうのは、定期船の船着き場の目と鼻の先にある港の岸壁。秋の豊年祭と並ぶ島の一大イベント「舟こぎ大会」が行われるのだ。

奄美では各地で、漁師が使用してきた「板付舟」を使った「舟こぎ競争」が行われている。その歴史は古く、約170年前の奄美の生活を描いた「南島雑話」にも描かれているほどだ。

与路島の舟こぎ大会は、住民同士の交流や地域の活性化を目的に始まったとされ、毎回、島には人口を超える人が集まるという。今回も住民や島の出身者ら、島民の実に3倍となる約180人が参加した。
4年ぶり開催も今回が最後に
舟こぎ大会は、こぎ手6人とかじ取り1人の合わせて7人でチームを組み、往復150mの距離で速さを競う。参加者は20チームに分かれ、地区別や婦人対抗などの部門ごとに、力の限り舟をこぎ、熱戦を展開した。岸壁では多くの人がチヂンを鳴らして応援する姿も見られた。

与路島在住者:
コロナが終わってことし(2023年)は最高ですね。(こんなに人が集まることは)ないです
与路島出身者:
自分も中学校以来、舟こぎを見るの久しぶりだったので、当時の与路のエネルギッシュな時代を思い出しながら楽しませてもらっている

コロナ禍以来、4年ぶりの舟こぎ大会に参加者からは、久しぶりの大会を歓迎したり、懐かしんだりする声が聞かれた。しかしこの大会、今回が最後だという。イベントを主催するメンバーは理由をこう話した。

大会を主催する与路婦人会・津留アツノ会長:
我々の年代がみんな60代で、自分たちの体も動かないし、青壮年団も動かなくなるし
大会を主催する与路青壮年団・登島健仁団長:
青壮年団の人数も激減して、(舟こぎ大会の)準備作業を分かっている人間が少ないから大変なんです
いったんの区切りも…復活願う
高齢者の割合が50%に近い与路島は過疎化も進み、人手不足が深刻となっている。だがやはり、伝統のイベントがなくなることを惜しむ人もいる。

第1回大会から参加している与路島出身・喜入博一さん:
いろんな問題があると思うが、これを一時の休みとして、また復活してもらいたい

そして、「2023年、第33回与路舟こぎ大会、最後のレースとなります」と場内にアナウンスが流れる中、最後のレースが行われた。

小さな島に活気をもたらし、住民や出身者にとって大きな楽しみだった「舟こぎ大会」。青壮年団の登島健仁団長は「Iターン、Uターン者が常駐できるなら、その人たちに教えていけたら、舟こぎ大会はできると思うんですよね。やっぱり5~6人は増えてほしいですね」と希望を語った。

大会の最後はみんなで万歳を三唱し、舟こぎ大会はいったん区切りを迎えた。島にかつてのにぎわいが戻り、再びこの大会が開かれることを願って。
(鹿児島テレビ)