岐阜県高山市の市営スキー場「ひだ舟山スノーリゾート アルコピア」が、2023年3月12日で閉鎖しました。1963年開業の老舗でしたが、ここ数年の雪不足などで来場者数が落ち込んでいました。長年通ったファンや慣れ親しんだ地元の人が最後に口にしたのは「さよなら」ではなく「ありがとう」でした。

地元の人たちに愛されたアットホームなスキー場

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午前8時半の「ひだ舟山スノーリゾート アルコピア」。

オープンと同時に来ていたのが愛知県東海市の大学に通う女子大学生6人組。皆さん、20歳。

高山市出身の1人が友達を連れてきていました。

大学生の唐谷彩楓さん(愛知県東海市・高山市出身 20):
小学生の時に授業で、アルコピアとか何回か来させていただいて。今年(2023年)閉まるというのを聞いて、最後だし思い出作れたらいいなと思って。小学生の時にムカデみたいな…みんなで列になって滑るみたいなのあるじゃないですか。それを初めてやったときは、すごく楽しかった

思い出の地に友人を連れて、新しい思い出作り。この景色を6人で目に焼き付けました。

休憩所では、準備をしている楽しそうな団体がいました。

彼らは、アルコピアが拠点のスノーボード愛好会。住んでいるところはバラバラですが、ここで知り合い、シーズンになると毎週末集まっていたといいます。

今井徹さん(岐阜県下呂市・建設業 59):
僕と彼はもともとこの近くの人間だもんで、小さい頃からスキーで来ていますし…。で、誕生日がここと一緒なんですよ

川上正樹さん(岐阜県下呂市・建設業 59):
昭和38年生まれだもんで

今井徹さん:
ここも38年開設!

アルコピアは59年前、当時は久々野(くぐの)町営のスキー場としてオープンしました。

最盛期の昭和40年代には、1シーズン11万人が訪れました。

かつては、大勢の人をまとめて乗せる通称「トロイカ」が、リフトの代わりだったそうです。

岐阜県屈指のスキー場として名を馳せましたが、仮装スキー大会も開かれるアットホームな場所でもありました。

今井徹さん:
来年、自分たちも還暦で60周年って思っていたら、急に閉鎖にってなったので、寂しい限り

安藤恵子さん(名古屋市・主婦):
1週間がんばってここに来られるっていう、これを楽しみで、みんなに会えるって…

閉鎖後の活動は…。

川上正樹さん:
なんともわからない…。なくしたくはないです

大好きなスキー場がなくなっても、大好きな仲間との縁はずっと続いていきます。

標高1480メートルから見る“アルコピアブルー”の空 「本当に癒しの場所」

午前11時30分。互いに滑る様子を撮影する男性たちがいました。

加藤雅史さん(岐阜県下呂市・製造業 38):
どうでした?

斉藤正昭さん(名古屋市・建設業 50):
いい感じ、撮れたよ

加藤雅史さん:
コケたけど最後!

ここで出会い、仲間になったといいます。

斉藤正昭さん:
お互い前を滑ったり後ろ滑ったりして、撮り合って。(アルコピアは)横も広いですし、人も混み合うことがなかったので、ぶつかる心配もなく撮れる

加藤雅史さん:
景色も“アルコピアブルー”。空が真っ青で、コバルトブルーみたいな

斉藤正昭さん:
ここに来る人しかわからない

標高1480メートルから見る景色は、まさに絶景。北アルプスの山々を見渡すことができます。

“アルコピアブルー”の空は、2人の癒しそのものでした。

斉藤正昭さん:
好きなんですよね、ここが。他に行こうってあんまり思わないです。滑りやすいのと、景色がいいのと…

加藤雅史さん:
本当に癒しの場所ですね、ここは。そういう場所。続けてほしいです、できることなら

59年間レンタルショップを営みながら息子を大学へ

午後2時30分。アルコピアが開業した年にオープンした、スキーの板やウェアなどのレンタルショップ「くるみ」を訪ねました。

レンタルショップの隣に食堂を併設していて、こちらも59年前から営業してきました。

店をずっと切り盛りしてきた森本志乃子さん(88)は、客との会話がやり甲斐だったと振り返ります。

森本志乃子さん(ロッジ経営 88):
夜中の3時から朝食の準備。ほやけど嫌やと思ったことは1回もない。この仕事は私好きやったもん。「今日も来たよ」って何人も来てくださった

59年間ガムシャラに働いてきた母の背中を、小学3年生から手伝っていた息子の章さん(66)はずっと見てきました。

森本章さん(教師・ロッジ経営 66):
感謝しかないです。夜中の3時頃にお客さんが入っている音を聞きながら、ここで寝ていた。起きなきゃいけないなと思いながら、小学生ですから私は、手伝いもできなくて。私が大学を出たのは、このスキー場のお蔭だと思っています。年がら年中働いとる姿が、本当に目に焼き付いています。本当にありがたいなと

親子のかけがえのない場所。

クラウドファンディングでアルコピアを残す 行政などと掛け合い交渉中

アルコピアの存続を願い、「クラウドファンディングでアルコピアを残そう」という話が持ち上がっています。

桐山淳一さん(ロッジ経営 39):
自分、25〜26歳くらいからここ(ロッジ)を営んでいて、スキー場がなくなるって言われたときに「自分で立ち上げてやりたい」という話になって、今、交渉しながら来年に向けて話を進めているところなんで。今、「このスキー場は閉鎖される」って方が強く出ちゃっているので、それをひっくり返したい

ロッジを経営する桐山淳一さん(39)は、思い出が詰まったこの場所を残すため、高山市などと交渉を重ねているといいます。

桐山淳一さん:
自分が育ってきたこの場所を未来の子供たちに残していきたいっていうのが一番の理由。名前はアルコピアスキー場のまま

その第一歩として200万円を目標に始めたクラウドファンディングは、4月末までに451万円集まりました。まだどうなるかわかりませんが、ひょっとすると来シーズン、アルコピアが復活する…かもしれません。

ゲレンデの様子をカメラで撮影していた男性がいました。

徳田栄作さん(三重県南伊勢町・自営業 52):
私、伊勢志摩の南伊勢町から昨日来たんです。最後のスキー場の雄姿じゃないですけど、思い出を撮ろうと思いまして、撮らせてもらっています

ゲレンデに立てられたネットには「ありがとうアルコピア」の文字がありました。

徳田栄作さん:
あれ、私たちが作って飾らせてもらっています。最後のお礼っちゅうことで、気持ちということで

日が暮れた後、アルコピアは打ち上げ花火でフィナーレを飾りました。

女性A:
最後にきれいなもの見られて良かったです

女性B:
花火を見ていて、涙が出そうになりました…

思い出いっぱい「街のスキー場」。

最後の日に溢れていたのは、別れを惜しむ人々の「感謝」でした。

2023年3月21日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
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