5月、石川県能登地方で起きた最大震度6強の地震では、その後も揺れが続くにも関わらず、高齢者が家にとどまるケースが多く見られた。自分で避難することが難しい人への対応が課題となる中、ある取り組みが進められている。

お年寄りなど1人で避難が難しい人を守るための「個別避難計画」

この記事の画像(8枚)

滋賀・大津市職員:
こちらが大津市で進めている「個別避難計画書」です

「個別避難計画」とは、1人で避難することが難しいお年寄りなどの体の状態や、災害時の避難方法などが記載されている。2年前、この計画を作ることが、自治体の“努力義務”となった。

計画書作成の流れは、まず自治体が、支援が必要な人に声を掛け、計画を作ることに同意してもらう。同意を得たら、地域の福祉事業者などと連携し、避難場所や避難する際の注意点などを話し合いながら計画をつくっていく。

自治体は福祉事業者とも連携して計画作り目指す

大津市内で訪問介護などを行う福祉事業者は、利用者に対して、計画作りに協力してもらえるよう説明を始めている。

田中ケアサービス 石川雅之さん:
情報がないと行政もなかなか動かない。それを細かく聞いていこうと思ったら、我々みたいな福祉の専門家がお手伝いしていかないと進まないかなと

1人暮らしの80代女性:
ここに座ってることが多いから、(地震のときは)この机の下に入るのがいいのか、あっちの部屋までばーっといけるかなとか

近くに住む娘:
大雨とか台風とかは、大概予報がすごく前から出て、それまでに私の家に避難するとか考えられる。地震だけは緊急地震速報出てからでは遅いので、間に合わないので

計画作りで高いハードルとなる“支援者確保”

しかし、課題も多くある。その1つが、計画を作る上で高いハードルとなる“支援者の確保”だ。計画書には、避難所への誘導などをサポートする人を記入する欄があるが、緊急事態の中、支援をしてくれる人を見つけるのは簡単ではない。制度設計に携わった防災の専門家は、現状の課題についてこう話す。

兵庫県立大学 大学院 阪本真由美教授:
高齢化が進んでいてサポートする側の人が足りないという大きな問題があって、そこを解決する方法を見いださない限り、仕組みとして難しい。支援する側よりも、される側のほうが多い状況があるので

内閣府は2025年度末をめどに、個別避難計画を作るよう呼び掛けているが、2022年1月時点で、3割を超える自治体が作成に未着手の状態。

専門チームを立ち上げている大津市でも、地震の際に特に避難が難しいとされている700人について計画作成を目指しているが、完成したのは40人ほど。

兵庫県立大学 大学院 阪本真由美教授:
いざというときに行政が駆け付けられるわけではない。周りの助け合いで、早く避難できる方法を考える。そのためには地域を巻き込むのが一番早いので、地域とコラボレーションしながらみんなで考えていく仕組み作りを進めていくと、どんどん(計画の策定率は)上がると思います

「個別避難計画」 3割以上の自治体が未着手(※2022年1月時点)

個別避難計画について、2022年1月時点で3割以上の自治体が未着手となっている。計画が進まない理由として、以下といったようなことがあげられる。

・支援者の確保が困難である
・避難者に情報開示してもらう同意をしてもらえない
・避難者の情報の更新にも課題

このような課題がある中で、個別避難計画は、どのようにして前に進めていけばよいのか?

関西テレビ 加藤さゆり報道デスク:
ケアマネージャーさんの数も限られていますし、実際いざという時に対象者のもとに駆け付けられるか分かりません。私たちができることですが、地域のつながりは薄くなっていっていますから、何が何でも集まらなきゃいけないということではなくて、「あそこに、あのようなお年寄りが住んでいたな」ということを、何となく覚えておいだけでもいいと思います。そうすると自分が避難する時に、例えば「あそこに足がちょっと不自由な方がいらっしゃるから」って言えますし、そういうことを日頃からインプットしておくだけでもいいんじゃないかと私は思います

前尼崎市長でコメンテーターの稲村和美さんは、自治体の首長を務めた経験もふまえ、「あまりにもプレッシャーが強いと、支援をためらうことになる。支援について、100点か0点かじゃなく、安否を確認するだけとか、いろんな使い方が支援計画にはある。『絶対助けるのが責任だ』ということではないと、まず知っていただきたいです。あと普段からコミュニティで見守り活動をやりましょうという取り組みも進んでいるんですけれど、そういった活動と有事の際に支援が必要な方の名簿を組み合わせて、つなげておくことが大事だと思っています」と話す。

地震はいつ来るか分からないからこそ、普段からできる範囲で備えておくことが重要となる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月17日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。