さまざまな事情を抱えた若者が集まる大阪・ミナミの通称「グリ下」に、防犯カメラが設置されて2カ月がたった。トラブルが絶えなかった若者たちの“居場所”にどんな変化があったのか。

通称「グリ下」 2年ほど前から若者が集まるように…

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大阪・ミナミの名物の1つ、「グリコの看板」。そのすぐ下、通称「グリ下」にはゴールデンウィークのさなかも多くの若者が集まっていた。

グリ下に集まる若者:
学校も楽しくないし、家も楽しくないし、しんどいから、居場所を求めて来てるわけだし。ここなくなったらほんまに死ぬしかなくて、もうどうにもならん

グリ下に集まる若者:
1歳の時に出て行った父親養育費払えよ。
アル中の父親、私に缶ビール投げるのやめろ。

虐待やいじめ、不登校…グリ下は2021年の夏前から、さまざまな生きづらさを抱える若者たちが集まり、悩みを分かち合える“居場所”となってきた。

未成年の飲酒や喫煙、薬の過剰摂取、「パパ活」などが多発

一方、ここでの未成年の飲酒や喫煙が常態化。市販薬などを過剰摂取する「OD=オーバードーズ」も問題となっている。また、男性とデートや性行為などをして金を受け取る「パパ活」をする少女もいて、性犯罪に巻き込まれてしまうケースもあった。

グリ下に集まる少女(14):
(Q.「パパ活」をしている人は?)グリ下にいる半分くらいは、たぶんしていると思う。「パパ活」って言っても健全でお金もらってる。ご飯行ったり、好きな物を買ってもらったり

パパ活をする少女に貢がせた30歳男「自己責任じゃないですか」

さらに、「パパ活」をする女性から、服やタバコなどを買ってもらっていたと話す男性も。

Nさん(30):
グリ下の子といっぱい付き合ってましたね、8人ぐらい
(Q.パパ活で得た金で服を買ってもらったことはある?)
それはあります、あります
(Q.それについてどう思いますか?)
自己責任じゃないですか。全員止められないから、自己責任としか

30歳のNさんは2022年4月、SNSを通じてグリ下で出会った当時14歳の女子中学生とみだらな行為をした疑いで逮捕された。Nさんは女子中学生と交際していたと主張し、1度は不起訴となったものの、検察審査会の議決を経て有罪となった。Nさんは、事件当時ホストをしていて、「交際していた女子中学生を守っていた」と主張する。

Nさん(30):
(彼女)不登校児だったんです、グリ下に来た時は。でも「学校に行かなかったら会えないし」って言って、学校に行くようになってたんですよ、僕と付き合っている間は。リストカットもしていたんですけど、やめさせた

防犯カメラ設置2カ月 補導件数は前年の2倍以上

若者が犯罪に巻き込まれたり、経済的に搾取されたりする中で、「グリ下」の治安を守ろうと、地元の商店会や警察などは今年3月、防犯カメラを設置した。それから2カ月、今のところ、検挙に至るような犯罪は起きていないということだ。

グリ下に集まる若者:
「殺すぜ」とか「殴る」とか、変な詰め事はなくなった

一方で、防犯カメラに映らない場所では、今もトラブルは起こっているという。実際、カメラ設置後2カ月間の警察の補導件数は、去年の同じ時期と比べて2倍以上に増えている。

グリ下に集まる若者:
ケンカがあるとしても、結局あっちとかでやったら意味ないんちゃう。
防犯カメラはいいと思うんですけど、あまり効果がないと思うんですよ。ぶっちゃけ。集まるものは集まるし、場所が変わるだけだろうし。

仕事や寮を提供し“若者の自立”を支援する取り組みも

道頓堀の商店会も、治安を守るためには防犯カメラの設置だけでは不十分だと考えている。

道頓堀商店会会長 串かつだるま 上山勝也会長:
グリ下に集まっている人たちは、カメラつけても集まってますから。(グリ下が)解散してほしいと言う言葉が走ったら、おかしくなるかもしれないけども、その人たちは自立をしてほしい。自立しなければならない

「串かつだるま」やお好み焼き「千房」など商店会の飲食店は、仕事や寮を提供して、「グリ下」の若者の自立を支援している。これまでに3人がアルバイトとして働くことになった。

道頓堀商店会副会長 千房 中井貫二社長:
カメラが設置されて、行き場を失った人たちが、また違う闇に潜り込むことを防がないといけない。社会に出る一歩を成功するために。我々も器になれたらと思います

こうした活動に、地元の大阪市中央区も広報活動などで協力すると発表した。生きづらさを抱える若者たちのために何が一番必要なのか。いまも試行錯誤が続いている。

防犯カメラ設置だけで全てが解決することはない

治安の改善を目指して設置された防犯カメラだが、今もカメラに映らない場所で、トラブルが起きているという。

関西テレビ 神崎報道デスク:
人が集まるところに防犯カメラを設置しただけで、全てが解決するわけではなくて、ここに集まる若者たちが犯罪に巻き込まれたり、危ない目に遭わないようにするために、やはり人の力が必要なんですよね。今回この場所でいうと、商店会の人たちによる民間の力とか、あとは警察による巡回とか補導とかで、最終的には大人の力、人の力によって、なんとか若者たちが違う場所に行けるように、例えば仕事を見つけるとかしてあげることが必要なのかと思います

専門家は防犯カメラ設置をどう見ているのでしょうか?“グリ下”で悩みを抱える若者を支援している、田村健一弁護士によると、「(防犯カメラ設置で)“グリ下”での犯罪は減ったと思うが、問題の根本的解決ではない。根本的解決には、行政も含めた街ぐるみでの対策が必要だ」とのことだ。

田村弁護士は管理者を付けた、街に迷惑が掛からないグリ下とはまた違う場所で安全な“たまり場”を作ることなどを検討中だということだ。

行政も民間も力を合わせて、生きづらさを抱えている若者たちをどうやって救っていくか、その対策を講じていくことが必要だ。

(関西テレビ「newsランナー」2023年5月12日放送)

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