新潟市で下校中だった当時小学2年の女子児童が殺害された事件から5年。この事件を機に、自治体や学校で通学路の防犯対策が強化された。

専門家が提唱するのは、犯罪が多く発生している「場所」への注意。不審者ではなく、「場所」に気を付けるという取り組みを取材した。

“いかのおすし”だけでは守れない

「いかのおすし」という防犯標語は知っているだろうか?

これは、【いかない・のらない・おおごえをあげる・すぐに逃げる・しらせる】の語呂合わせで、どれも大切な言葉だが、共通しているのは「すでに犯罪に遭ったときの対策」になってしまっていることだ。

立正大学 小宮信夫 教授:
いかのおすしは襲われたら「こうしましょう」という言葉だが、「いや、襲われたら手遅れでしょう」と思うし、大事なのは起きる前。どうすれば犯罪者と接触しないで済むか、犯罪者に声をかけられないで済むか、なかなかそういう発想を持ってもらえていないのが現状

立正大学 小宮信夫 教授
立正大学 小宮信夫 教授
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こう訴えるのは、犯罪学に詳しい立正大学の小宮信夫教授だ。

犯罪者は子どもをだまして近づいたり、接触したりするため、子どもが犯罪者や不審者を見極めるのは難しいという。

立正大学 小宮信夫 教授:
日本では「不審者に気を付けなさい」と、危ない人に目を向けているが、危ない人かどうかは見た目では分からない

「不審者は分からない」“場所”に注目

犯罪者に接触する機会をなくし、犯罪を未然に防ぐために小宮教授が提唱するのが、人ではなく「場所」に注目するということだ。

立正大学 小宮信夫 教授:
子どもをだまさないものを見るしかない。それが景色。人は嘘をつくが、景色は絶対嘘をつかない。危ない人ではなくて、危ない場所や景色に注目する。これは防犯上、有効であるということ

“場所”に注目
“場所”に注目

子どもが被害に遭っている事件には、統計から「場所」に特徴があるという。それが、子どもに簡単に近づけるような「入りやすさ」があり、自分の行動が他の人に「見えにくい」場所だ。

立正大学 小宮信夫 教授:
犯罪者としては、「犯罪を成功させたい」という気持ちだけはあるので、子どもに簡単に近づけて、うまくだませて、連れ去るところを誰からも目撃されない場所を選ぶ。結果的に「入りやすくて、見えにくい場所」だということは言える

5年前の事件が対策強化のきっかけに

2018年、新潟市西区で当時小学2年の女子児童が下校中に連れ去られ、殺害された事件。その現場はまさに「入りやすくて、見えにくい」場所だった。

新潟市西区(2018年)
新潟市西区(2018年)

立正大学 小宮信夫 教授:
新潟県は雪の問題があるので、ガードレールがある場所は少ない。ガードレールがない場所は、車を使った誘拐犯が簡単に子どもに声をかけて、簡単に車に乗せられる。なので、事件現場は入りやすい場所だった。もう一つのキーワード、「見えにくいかどうか」は、線路沿いで両サイドから見てもらえないという、典型的な見えにくい場所だった。

この事件を機に「通学路の安全」について、各自治体や学校が対策を強化。新潟県は事件の翌年から「入りやすくて、見えにくい」場所に注目し、地域安全マップの作成に取り組んできた。

地域安全マップで危険を可視化

2022年、地域安全マップ作成のモデル校となった佐渡市の両津小学校。

両津小学校の児童たちが作った「安全マップ」
両津小学校の児童たちが作った「安全マップ」

先生:
柵があったら入りにくいんじゃない?

児童:
入りにくいけど、それより見えづらいが勝つし、入り口も一つしかない

両津小学校の児童
両津小学校の児童

児童たちが作ったマップを手に歩くと、まず、目に留まったのは、石の柵で囲まれた神社だ。一見、安全そうだが、入り口の出入りは自由。

神社内の様子は、太く高い柵で囲まれていて見えづらく、まさに「入りやすくて、見えにくい場所」だった。

石の柵
石の柵

また、子どもたちの視線の先にあるという暗い道に関しては、上級生ならではのこんな心配も。

児童:
1年生がここに入ったら危ないよね。本当に暗くて見えなくなるし

一方、子どもたちは危険な場所だけでなく、地域の安全な場所についても理解を深めたようだった。

児童:
花とか植物が多くて、いつこの家の人が来るか分からないから安全

そして、6年生もよく遊んでいる公園には…

児童:
赤いシールが危険な場所。木に隠れたりして危ない所だと思う

児童:
木の枝などで日が届かなくて暗いので危険

地域安全マップを作るため、普段とは違う視点を持って通学路を歩いた経験は子どもたちにとっても学びがあったようだ。

児童:
いつも遊んでいる所、けっこう危険な所が多くてびっくりした

児童:
妹がいるので、一緒に遊ぶときに場所選びを間違えないようにしたい

両津小学校​ 本田祐香里 先生:
実際に、この地域で生活しているのは子どもたちなので、普段、自分たちの身の回りに危険があることを気付けたりとか、自分たちの足で目でつかめることがとても良いなと思った

田んぼに囲まれている通学路は危険?安全?

一方、田んぼに囲まれているような通学路を新潟県内でもよく見る。

見晴らしがいいので、見えにくくはないが、田んぼの真ん中で連れて行かれそうになった場合、大声を出して助けを求めても、近くに家などがないので危険に気づいてくれる人がいない可能性が高い。

また、ガードレールなどもなく、簡単に車に乗せることができるため、注意が必要な場所だ。

通学路やよく遊びに行く公園など、自宅近くの「入りやすくて見えにくい」場所を子どもと歩いて見つけることが防犯対策につながる。

自宅でもできる防犯対策は

また、犯罪者と接触しないための取り組みは自宅でもできる。

自宅でテレビなどを見ながら、「事件のニュースをやっているけれど、これはどんな場所だったのかな」「見えにくい場所ではなかったかな」など、日常的な会話にキーワードを盛り込むことで、防犯意識を高めることができる。

そして、この「入りやすくて見えにくい」場所で1人にならない、知らない人に声をかけられても応じないなどの対応をすることで、犯罪を未然に防ぐことができる。

「GPS持たせれば安心」もNG

また、小宮教授は場所以外にも注意するべきことがあると指摘するのが、GPSだ。

立正大学 小宮信夫 教授:
岡山県で起きた事件では、GPSが犯人に取り上げられて田んぼに放り投げられた。警察関係者はGPSが落ちているところに集まってしまって、その間に子どもが連れ去られてしまった。犯罪者は子どもがGPSを持っているということは想定内なので、そもそも犯罪者と接触しないためにはどうすればいいかを重点的に取り組んでほしい

子どもの犯罪被害を未然に防ぐために…そして、悲しい事件が二度と起きないために…自治体や学校の対策とともに、子どもたち自身の防犯意識を高める活動も求められている。

立正大学 小宮信夫 教授:
知識があればできるが、知識がないから「起きたらどうしよう」ばかり考えてしまう。事件自体は悲しい出来事だが、この取り組みを続けて、事件自体も風化させないで事件を無駄にしないようにしてもらいたい

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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