ロシアによるウクライナ侵攻では、戦禍におびえる人々が大勢いる中、「自分にできることを…」と、名古屋の男性が立ち上がった。男性は病院や被災地の子供たちに笑顔を届けるホスピタル・クラウンだ。戦禍で日常を奪われた子供たちのいるポーランドのシェルターへと向かった大棟さんに話を聞いた。

ウクライナから避難した子供たちを笑顔に ポーランドに渡るクラウン

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大棟耕介さん:
(風船の花は)ウクライナカラーにしているんですよ。ウクライナの国旗が、こんな感じのね。明るくなりますよね、空間は

大道芸などのパフォーマンスで病院の子供たちなどに笑顔を届ける「日本ホスピタル・クラウン」の大棟耕介さん。

2023年2月14日。出発に向けて準備を進める大棟さん。カードゲームや「オセロ」など…。

ちょっとした遊び道具も用意していた。届けたいのは「笑顔になれる時間」だ。

大棟耕介さん:
「地下のシェルターでも遊べるような、子供へのボードゲームがあったら嬉しい」なんていうことを聞きまして、ちょっと「うっ…」と思うわけです。今もそういう状況なのかと、隠れて過ごさないといけない

世界が騒然とした、ロシアによるウクライナ侵攻。戦禍は今も続き、ウクライナ国内は常に危険と隣り合わせだ。侵攻後、ウクライナから隣国のポーランドに避難した人は950万人以上。

すでにその多くが母国へと戻っているが、まだ見知らぬ地での生活を余儀なくされている人が大勢いる。

大棟さんは、そのポーランドにいる子供たちのもとに向かうことを決めた。

大棟耕介さん:
(避難先で)特に一番多いのがポーランド。だったら今ポーランドに避難されている方たちにコンタクトすることが、小さな第一歩になるんじゃないかなと。どうすることもできない、でもそこに対して意識するんじゃなくて、僕はいちクラウンなので、自分の持っている力を全力で出して、いまできることをやり尽くすことが大事かな

本当に必要とされているのか…ウクライナ人の意見は

2006年に、「日本ホスピタル・クラウン協会」を立ち上げた大棟さん。赤い鼻を付け、ケガや病気で入院している全国各地の子供たちのもとに、数えきれないほどの笑顔を届けてきた。

「東日本大震災」や「熊本地震」の被災地も、仲間とともに訪問した。

今回触れるのは、「戦争」という“人災”で傷付いた人々の心。

大棟耕介さん:
やっぱり先の見えない疲弊感、それに対してどこまでアプローチできるかっていうのは、当然不安はあります

不安は覚えながらも向かうのは、ウクライナに“特別な思い”があるからだ。

1986年、チョルノービリで起きた歴史的な原発事故から20年がたち、次第に各国からの支援が少なくなった頃、大棟さんは2007年から7年間通い、病院にいる子供たちに笑顔を届けてきた。

大棟耕介さん:
毎年毎年、通い続けていたので、現地の知り合いもいるし、その時々にサポートしてくれた方たちとのつながりもある

最後の訪問から約10年。ウクライナの国と人々は、またも傷付いている。現地のコーディネーターから、今の状況について、情報を集めた。

大棟耕介さん(日本語訳):
あなたの街への実際のダメージを教えてください

ウクライナ人コーディネーター(イェブゲーニャ・ドンチェバさん)(日本語訳):
ミサイルや爆弾が投下されてからは、建物はほとんど崩壊しています。私の家の前も完全にやられてしまいました

大棟さんが気にかけていたのは、“クラウンの活動”の意義。「現地は本当に必要としているのか」「彼らは、受け入れてくれるのか」…。

ウクライナ人コーディネーター:
今の子供たちには、あなたのパフォーマンス、助けが必要です。怖くて悲劇的で、笑顔が消えてしまって…

大棟耕介さん:
クラウンの力がすごくいま必要であって、特に子供たちにまったくこの1年、笑顔がないっていう状況を聞いて、早く実現しなければいけないなと思いました。パフォーマンスをしている時間の中で、本当に短い時間でも、いまこういう状況に、よくない状況、つらい状況だということを忘れることをしていただけたら、すごくうれしい

届けたいのは、「ほんのひとときでも笑顔になれる時間」だ。

クラウンの力で子供たちに広がったひとときの笑顔

そして、2月20日。ポーランドの首都ワルシャワから20キロほど離れた都市・オトフォツク。

ワルシャワ日本語学校の教頭・坂本龍太朗さんの紹介で、ウクライナ避難民が生活するシェルターにやってきた。

そこにいたのは、7歳から16歳の5人の子供たちだ。ウクライナ西部・リビウを離れ1年、いくつものシェルターを転々としてきた。

言葉の代わりに、「笑顔と心」で。

子供たちから元気を引き出すような、大きなしぐさ。

子供たちから自然と笑い声があがった。

軍事侵攻開始から1年。ほんのひとときでも、シェルターで暮らすウクライナの人々に笑顔の花が咲いた。

シェルターでのパフォーマンスを終えた翌日の2月21日、大棟さんに話を聞いた。

大棟耕介さん:
いま、ワルシャワは10時を過ぎたころです。とても寒いです

Q.子供たちと会った印象は?

大棟耕介さん:
本当はウクライナに入りたいけど、危険だから入れない。そんな中でこのワルシャワに来ているわけですけど、(子供たちは)身の安全は確保されているけども、笑顔が少なくなっています

Q.受け入れられるか不安だとおっしゃっていましたが?

大棟耕介さん:
普通のパフォーマンスだけではなくて、東北の被災地や病院でパフォーマンスした経験があるので、ある程度は受け入れてもらえるかなと思っていたんですが、実際にそこに行くことが良いことかっていうのはわからなかった。でも、喜んでもらえたことがすごくうれしいです

Q.私たちでもできることは?

大棟耕介さん:
僕はたくさんの人にインタビューをして、彼らの状況を知ることができたので、これをどんどん発信していきたいと思うんです。今一番大事なことは、この悪い状態が風化してしまって当たり前になってしまうことが非常に怖い。だからひとつひとつ、日本のみなさんがウクライナに対する思いを持ち続けて、その小さな思いを集めていくことが大事だと思います

Q.もっと大きなシェルターにも行ったと聞いています

大棟耕介さん:
昨日(2月20日)の午後、世界で一番多くのウクライナの人、1000~1200人くらい収容している施設でパフォーマンスをしました。とてもとても喜んでくれました。施設の方たちは、もちろん一番は資金の問題です。一番は資金の問題ですけど、子供たちに対しての笑い、笑顔、アクティビティーっていうのは、とても必要なので、資金があるかぎりこの施設は続くのでまた来て欲しい、っていうことは言ってもらえました

2023年2月21日放送

(東海テレビ)

東海テレビ
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