駅のトイレは電車内で我慢した人が駆け込むケースが多い。電車内で便意を我慢して駅でトイレを見つけてホッとするのもつかの間、個室が使用中で更に長時間待たなくてはならないときのアブラ汗をかきながら必至に耐える苦痛は経験者にはわかっていただけると思う。

「五月病」が増えてきた昨今、あらためてよく聞かれる言葉「トイレ籠城」。

トイレ籠城とは、公共のトイレを自分自身が1人になれるスペースとして長時間にわたり占拠することで、用を足す以外にスマホでゲームしたり、読書や仮眠をしたり、中には食事をとる人もいるという。

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(国土交通省:日常で利用するトイレに関するアンケート調査)
(国土交通省:日常で利用するトイレに関するアンケート調査)

トイレの個室の状況を可視化するシステム

この状況を改善するために今、注目を集めているシステムがある。

館内のトイレの個室全部の内の何個の個室が空いているのかや、個室の使用時間などを「状況を可視化」するシステム。

このシステムを開発した企業の担当者、株式会社バカンの鈴木慎介メディア事業本部長に話を聞いた。

(株式会社バカン 鈴木慎介メディア事業本部長)
(株式会社バカン 鈴木慎介メディア事業本部長)

――システムの特徴は?

弊社ではAirknock(エアーノック)という、トイレの個室に使用時間などを表示するシステムを提供しています。これはloTとサイネージを利用したもので、

今、どこのトイレが空いているかが瞬時にわかるだけではなく、使用開始から何分が経過しているかなどが個室内に表示される。

この情報で結構他のトイレが混んできた、私はちょっと長居しているから他の人に譲ろうかな?などと利用者に気づかせる事ができるのです。

――「トイレ籠城」とは?

トイレの個室を30分以上使用しているケースもかなりあります。私たちの調べでは、その理由は多岐にわたり、スマホ利用や読書・仮眠の他、最近のオフィスのトイレはきれいになっているせいか個室内で食事をとる方もいらっしゃいます。

――利用者へ優しいアプローチって何?

弊社ではシステムを開発するにあたり前提は、「個室からの追い出し」にならない優しいアプローチをすることでした。

個室利用が一定時間を過ぎるとチャイムなどの警告音を発したりトイレ内を携帯電話の電波圏外にする方法なども考えられますが、それは少々きつめのアプローチかな?と考えます。

一覧で空いている個室を示すだけではなく、「個室を使用して何分たっていますよ」と表示させることもできます。このモニターを設置しただけで、個室を30分以上利用している人が64%減ったという実証実験の結果があります。

ノックして早く出ることをせかすのではなく、モニターに出る周りの状況を見て、あっ!トイレに行きたい人がいる。他の個室も混雑中だ。ちょっと私は長居しすぎているかも、譲らなくちゃ。と自ら判断で行動することを促す効果もあるのです。

――今後は?

男女など分類するのがナンセンスな時代ですが、トイレだけはまだまだ男女の分類がされています。またトイレの個室は外部と遮断されている空間です。このモニターに広告を流す事です。ターゲットを絞り込める上、トイレの個室はその人と向き合える場所だと考えています。

取材を終えて

このシステムには日本人の譲り合いの精神が根底にあるようにも見えるが、海外での実証実験の結果も上々だという。またトイレの個室内で気分が悪くなって倒れているケースの発見にもなるこのシステム。

過度のストレスは失敗や人間関係の悪化などネガティブな時だけではなく、自分自身が掲げた目標に向かう際のプレッシャーなどのポジティブな心身状態のときでも受ける可能性がある。特にコロナ禍も落ち着きを取り戻し、マスクを外しつつある今、1人なれるトイレの個室は重要な「避難所=サンクチュアリ」にもなっているのは事実。

閑散としている時間帯ならばある程度の時間、個室を使っても良いだろう。しかし、混雑時にこのサンクチュアリを利用する際には、少しだけ自分だけではなく状況や他人のことを思いやる心も必要なのではないか。

我慢し続けてトイレに駆け込んだとき、長時間、個室が塞がっていたときのことを思い出して…

【執筆:フジテレビ 解説委員 小泉陽一】

小泉陽一
小泉陽一

フジテレビジョン上席解説委員・危機管理 1991年フジテレビジョン入社。アナウンス室、ニュースキャスター、社会部、経済部、報道番組ディレクター、NY支局、パリ支局長、秘書室、WE編集長を経て現職。メディアリテラシーや時事問題を学生や地域の人々と共に考えるのが最近のライフワーク。