長野市中心市街地にあった店が、このほど、2019年に台風による大きな被害が出た豊野町に移転した。きっかけは、店主の男性が災害ボランティアに入ったこと。地域に寄り添う店を目指している。

心を動かしたボランティアの経験

熱々のハンバーグに、クリームソースのパスタ。

長野市豊野町の「カフェレストランSAI」。

カフェレストランSAI 長野市豊野町
カフェレストランSAI 長野市豊野町
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店主は須坂市出身の赤松真一さん(52)。

長野市の中心市街地にあった店を移転し、5月3日、再スタートを切った。

豊野に移転したのには訳がある。

カフェレストランSAI・赤松真一さん
カフェレストランSAI・赤松真一さん

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
台風19号の水害があったので、少しボランティアに参加していたんですけど、その時の状況が忘れられなくて、ここで何かできるかなと思いました。地域の応援とか、元気づけるとか

地域を活気づけたいと移転

台風19号で大きな被害(2019年10月)
台風19号で大きな被害(2019年10月)

2019年10月、長野市を中心に甚大な被害をもたらした台風19号災害。豊野地区も支流の浅川が氾濫し、住宅477棟が全壊、352棟が半壊するなど大きな被害が出た。

赤松さんは災害ボランティアとして豊野に入り、住宅の泥出し作業にあたった。

資料 住宅の泥だし作業
資料 住宅の泥だし作業

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
道路も全部埋まっちゃって、茶色一色で。自分ができることって少ないですけど、ほんの少しだけ役に立てればなっていう気持ちだけ

赤松さんは2011年から市街地の中央通り沿いで店を営んでいた。

コロナ禍の影響や入居するビルで耐震工事が控えていたことから2022年秋、移転を決断。

不動産業者が挙げた移転先の候補地の中に豊野の土地があった。

赤松さんの頭によぎったのは、あの被災地の光景。足を運ぶと、地域は復興の途上にあった。

カフェレストランSAI・赤松真一さん
カフェレストランSAI・赤松真一さん

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
空き地が目立ったりとか、(復興は)まだまだ途中なんだなと強く思いました。ここが一番(被害が)ひどい場所だった。約3mくらい水没した場所だとお聞きしまして、何かできないかなっていうことが非常に大きかった

候補地はおよそ3mの浸水被害で、美容室などが取り壊された跡地だった。

被災から3年半。豊野地区の人口は600人近く減少し、現在は9160人余り。住宅を解体し、空き地のままになっている場所も多くなっている。

空き地が目立つ豊野町
空き地が目立つ豊野町

店が地域を活気づけ、住民のよりどころになればと、赤松さんは豊野への移転を決めた。

住民待望の「憩いの場」

店はテラス席があって開放的
店はテラス席があって開放的

店はテラス席があって開放的。ハンバーグやパスタなどの他、アイスクリームなどのテークアウトも。

飲食店が減ったこともあり、「住民が集える場」へのニーズは高かったようで、連日、多くの住民が足を運んでいる。

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
皆さんのお話を聞くと「何もないから」って言っていて、人が交流できる場所を探していた、待っていたみたいですね

友人夫婦と店を訪れた、近くに住む清水厚子さん(71)。

清水厚子さん(2019年11月):
ここですね。ここまで(水が)来ました

清水厚子さん(2019年11月取材)
清水厚子さん(2019年11月取材)

自宅は床下浸水で済んだが、近くの息子の家は1階が水没した。

清水厚子さん(2019年11月):
来てみたら、ぐっちゃぐちゃでしょ。中なんてしっちゃかめっちゃかでしょ、これはダメだと

変わり果てた地域。バラバラになっていく住民。

清水さんは「住民が気軽に利用し、集まれる場所が必要」と交流拠点「ぬくぬく亭」の運営などに携わるようになった。

食事と会話が楽しめるこうした飲食店を待ち望んでいたと言う。

清水厚子さん(71):
喫茶店みんな流れちゃったし、みんなが気軽に寄って、だべってられる場ってなくなっちゃった、ほんとに。こういうところが欲しかったんだけど。みんな待っていたんだよね

店で食事をする清水厚子さん(71)
店で食事をする清水厚子さん(71)

親族と訪れた住民の福沢嘉宏さん(76)。2階まで水につかった自宅を建て直し、今も豊野で暮らしている。

福沢嘉宏さん(76):
空き地多いね。解体しても、更地のまま(の場所)多いね。住民にとっては喜ばしいことですね。近辺に食事どころってないんです。人が集まれる場所がこういうふうにあれば、近所誘ってでも来ると、いろんな話が聞こえるよね

他の住民も―。

住民は店を歓迎
住民は店を歓迎

住民(70):
落ち込んじゃってる、みんな。こんなすてきなお店できてうれしいよ。自分の気分も明るくなれそう

住民(70):
豊野町がにぎやかに、活気のあふれるような街になってくれればなあ。ようこそいらっしゃいました

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
そんなふうに歓迎されるだけで涙出ちゃう

住民待望「憩いの場」
住民待望「憩いの場」

「みんなで一緒に進もう」

道路を挟んだ店の向かいには2024年8月、水防施設や公民館が入る「防災交流センター」が建設される予定。

店は住民と一緒に地域の復興を見守る。

カフェレストランSAI
カフェレストランSAI

カフェレストランSAI・赤松真一さん:
みんな頑張っているんだなと、傷ついているのもお話は聞いていて思います。そういうのを見せずに、前を向いて進んでいる力強さも感じます。そして、みんな一緒に進んでいこうよってことも感じます。みんな来て、笑って帰ってくれればいいんじゃないでしょうか。明るい顔になって帰ってくれればいい

(長野放送)

長野放送
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