「印鑑」と「ハンコ」の違いを知っているだろうか。いま、多くの人が「印鑑」という言葉を誤用していると指摘した、ハンコ専門店のツイートが話題になっている。

「もう我慢できない」のツイートに添付された画像(提供:永江印祥堂)
「もう我慢できない」のツイートに添付された画像(提供:永江印祥堂)
この記事の画像(6枚)

「もう我慢できない…なんでもかんでも "印鑑" と呼ばれることに限界です!左はネーム印、真ん中はゴム印!あといちばん右の皆さんが "印鑑" と呼んでる物は正式には『印章』です!!!!」「全て『ハンコ』だけど 全て『印鑑』でありません」

「印鑑」は正式には「印章」

「印鑑」などの画像とともに、このようにツイートをしたのは、島根県松江市にあるハンコ製造・販売の専門店・永江印祥堂。本来「印鑑」とは、ハンコを押したあとの形(印影)を指すものだとし、多くの人が誤ってハンコそのものを「印鑑」と呼んでいると指摘。

永江印祥堂がツイートした「印鑑」の画像(提供:永江印祥堂)
永江印祥堂がツイートした「印鑑」の画像(提供:永江印祥堂)

そして、ハンコは正式には「印章」といい、ハンコの中には「ゴム印」や「ネーム印」といった種類があるということを紹介した。

このツイートを読んだユーザーからは、「全部印鑑って言ってましたー!すいませんでしたー!」「勉強になったけど、キレてるハンコ屋さんコワい」「『印鑑を買う』は間違いなのね!印章ってあんま言わない 判子って言っちゃうけど判子だとネーム印やゴム印まで含むから間違いだね 勉強になりました」といったコメントが寄せられていた。

ハンコは色々な場面で使い、身近な存在ではある。その一方で、確かによく知らないことも多そうだ。

またハンコといえば、コロナ禍1年目の2020年、非対面化による感染拡大防止とデジタル化の推進のため、国は行政手続きにおける押印の必要性を見直している。こうした“脱ハンコ”の影響はあったのだろうか。

「なんでもかんでも "印鑑" と呼ばれることに限界」とツイートした理由や、ハンコ業界の現状について、永江印祥堂の営業担当者に聞いた。

我慢できなかった理由

――なぜあのツイートをしたの?

怒っているわけではないのです(笑)。ただ、「印鑑をください」と言われると、受注側としてはそれがどのようなハンコを指しているのかわかりません。

よく、ファクスやメールでそういう注文があるのですが、求められている商品が、実印に使うような名前が彫られた正式なハンコなのか、スタンプタイプのゴム印なのか、それともインクが内蔵されている浸透印なのか、その都度確認をしています。

逆に、「書類に印鑑をください」という意味で「ハンコをください」と言うこともあると思いますが、ハンコ自体をあげることはできませんよね。そんな背景があり、印鑑とハンコ違いについて、ぜひ一般の方にも広く知っていただけたらという思いから、SNS担当者が投稿しました。


――「印鑑をください」という注文はそんなに多いの? 

しょっちゅうですね。一般の方の7~8割の方は印鑑とハンコを混同しているのではないかと思います。


――ハンコを「印鑑」と呼ぶようになったのはなぜだと思う?

おそらくですが、「印鑑証明」という言葉のイメージから広がったのではないでしょうか。

宅配便の受け取り時にも使うハンコ(イメージ)
宅配便の受け取り時にも使うハンコ(イメージ)

――国が行政手続きにおける押印の大部分を廃止したけど、売り上げに影響はあった?

トータルでは変わっていないと思います。コロナ禍で、個人向けの商品については路面店での売り上げは減りましたが、その分インターネットでの注文が増えました。

おそらく、巣ごもり族の増加で、宅配便を受け取る際にペンを使わずにハンコをポンと押したほうが簡単で、感染も避けられるというニーズがあったと思われます。法人向けの商品についても売り上げは変わっていません。

ハンコ業界が元気になればとアイデア商品も

――行政手続きでほとんどの押印が廃止されたのに売り上げに影響はないのはどうして?

2020年の決定で、約1万5,000種類の手続きで押印が不要になったといわれますが、それは全て「認印」という種類のもので、サインでも代用できるものでした。一方、残った実印の印鑑が必要な一部の手続きでは、一切押印は廃止されていません。

つまり、人がハンコを押す頻度は減ったけれど、私たちが作るハンコの本数にはあまり影響がないということなのです。

永江印祥堂が作った「寿限無さん専用印鑑」(提供:永江印祥堂)
永江印祥堂が作った「寿限無さん専用印鑑」(提供:永江印祥堂)

――ハンコ専門店として、時代の変化に対応するためにどんな工夫をしている?

コロナ禍では「ハンコは時代遅れの無駄なもの」という風評被害にあったので、ハンコ業界全体がもっと元気になればいいなという思いもあり、様々なアイデア商品にチャレンジしています。

「しまねっこ お名前データー印」(提供:永江印祥堂)
「しまねっこ お名前データー印」(提供:永江印祥堂)

例えば1円玉より小さい直径の1.2センチの中に、落語「寿限無」の108文字の名前を彫り込んだ「寿限無さん専用印鑑」を作ったり、島根の観光PRキャラクター「しまねっこ」とコラボしたオリジナルスタンプや印章を作ったりなど、これまでもいろいろとやってきていますが、これからもできる限り様々なことに挑戦して、SNSで発信してきたいと思います。

なお、このツイートの数日後には、「もう我慢できない」の最新版として「もう我慢できない… ネーム印を全て "シャチハタ" と呼ばれることに限界です! 皆さんが呼ぶ"シャチハタ"ですが実際は "浸透印をメインに製造販売されている企業名"の事で、さらに正式には 『シャチハタ』じゃなくて『シヤチハタ』株式会社さんなんですよ!!!」と投稿していた。

普段、何気なく言っているハンコに関する用語で、意外と間違って使っていることは多いかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。