物価や光熱費などの高騰が、介護施設を直撃している。
全国介護事業者協議会、介護人材政策研究会、日本在宅介護協会の3団体の調査で、介護施設・介護事業所の約3割で事業廃止や倒産の可能性があることが分かった。
調査は3団体が3月、介護施設・介護事業所を対象に調査を実施し、全国の1277施設・事業所が回答。「2021年10月~2022年1月」と「2022年10月~2023年1月」を比較し、物価・光熱水費等の高騰による影響を聞いたところ、9割以上の施設・事業所が「影響があった」とした。
「大いにあった」(約50%)、「あった」(約35%)、「ややあった」(約5%)をあわせると、約90%だった。
調査では、物価・光熱水費等の高騰によるコストの増加にどのように対応しているかも聞いており、半数近く(約47%)が「預貯金等の取り崩し」と回答した。
この他、「昇給や賞与等の減額/見送り」(約27%)や「人員削減や新規採用の停止等」(約16%)などの回答があり、介護人材への悪影響が大きくなってきていることが分かる。
そして、物価・光熱水費等の高騰を受けて、今後の事業継続についてどう感じているかを質問したところ、約3割(約27%)の施設・事業所が「事業の廃止や倒産の危機に直面」または「数年でその可能性がある」と回答した。
3団体は「介護報酬をもとにする介護施設・事業所においては、コスト増を価格転嫁することが出来ず、著しい影響を受けている」としている。
さらに、2022年9月に創設された「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」における、各自治体等での交付状況等について聞いたところ、7割を超える施設・事業所について交付手続きがされていたにもかかわらず、厳しい影響が続いていることが分かった。
こちらについて3団体は、「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」が交付されてもなお、約3割の施設・事業所が事業継続の危機等を感じており、介護人材への悪影響も生まれている、としている。
今回の調査結果は、介護施設・事業所の厳しい状況を示しているわけだが、これを踏まえ、どのような対策が必要なのか?
高齢化社会へ突き進む日本にとって心配な調査結果について、「一般社団法人介護人材政策研究会」の代表理事・天野尊明さんと、「一般社団法人『民間事業者の質を高める』全国介護事業者協議会」の理事長・座小田孝安さんに”必要な対策”を聞いた。
交付金が交付されても約3割が「事業廃止・倒産の危機」の理由
――このような調査を行った理由は?
2022年の倒産件数は143件と過去最多(東京商工リサーチ)を記録するなど、介護事業の経営状況は年々、厳しくなっています。
こうした中、昨今の物価・光熱水費の高騰による影響が著しいとする声が全国各地の事業者から相次いだことを受けて、実態を把握するために実施しました。
――そもそも、「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」は、どのような交付金?
政府においては新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止とともに、感染拡大の影響を受けている地域経済や住民生活を支援し地方創生を図るため、地方公共団体が地域の実情に応じて、きめ細やかに必要な事業を実施できるよう「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を創設、交付しました。
そうしたところ、ウクライナ情勢等による物価等の高騰が国民生活に影響を与えている状況を鑑み、この交付金を増額・強化するとして、去年9月、「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」を創設しています。
――「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」では、介護施設や事業所に、どのぐらいのペースでどのぐらいの金額が交付されている?
「施設系サービス(特別養護老人ホーム、有料老人ホーム等)」では、1定員あたり数千円~3万円程度、施設単位では主に数十万円~300万円程度と幅広く交付されていました。
しかし、コストの増加金額も大きくなる傾向が強く、十分な補填がされているとは言いがたい状況にありました。
「居宅系サービス(デイサービス、訪問介護等)」では、事業所単位での交付例が多く、通所介護では5万円~数十万円、訪問介護では数万円程に留まったほか、自治体等により対象とならないケースも散見されました。
このほか、ガソリン代として車両あたり1万円~3万円程度が交付されているところもありました。
――この交付金が交付されても、「約3割の介護施設・事業所が事業の廃止や倒産の危機に直面、またはその可能性がある」と回答。この理由としては、どのようなことが考えられる?
この交付金については、物価等の高騰に苦しむ事業者へのフォローとして、政府の判断を大変ありがたく感じています。そのうえで理由としては以下のようなことが考えられます。
・この交付金により交付される額以上に物価等の高騰によるコスト増が大きくなっていること。
・多くの電力各社のさらなる値上げが予定されていること。
・自治体等により、交付される額や対象がまちまちであり、十分な支援がかなっていない可能性があること。
「コスト増がそのまま経営圧迫につながる」
――「介護施設・事業所は介護報酬をもとにする」。改めて、これはどういうこと?
介護事業者が利用者に介護サービスを提供した場合に、その対価として事業者に支払われるサービス費用を「介護報酬」と言います。
「介護報酬」は、サービスごとに設定されており、各サービスの基本的なサービス提供に係る費用に加えて、各事業所のサービス提供体制や利用者の状況等に応じて、加算・減算される仕組みとなっています。
なお、介護報酬は介護保険上、厚生労働大臣が社会保障審議会(介護給付費分科会)の意見を聞いて定めることとされています。
――「介護報酬をもとにしているからコスト増を価格転嫁できない」。こちらも改めて、どういうこと?
介護報酬の額は厚生労働大臣が定める公的価格となっています。そのため、他の産業と違い、物価等の高騰によりコストが増加したからと言って、その分をサービス料金に上乗せすることが出来ない構造になっており、コスト増がそのまま経営圧迫につながることになります。
「来年4月の介護報酬改定ではプラス改定が必要不可欠」
――今回の調査結果、どのように受け止めている?
3割近い事業者が今後の事業継続に危機感を持っているという事実は、国民にとっても大きな影響が及びかねない事態に直面しているということになり、深刻な状況であると受け止めています。
また、一定の事業所では「昇給や賞与等の減額/見送り」や「人員削減や新規採用の停止等」など、介護人材への悪影響が大きくなってきており、来春の介護報酬改定では絶対に、プラス改定で経営支援を行うべきと考えています。
――事業の廃止や倒産になると、その介護施設の利用者はどうなる?
近隣の施設・事業所で引き受けができることが最も望ましいのですが、受け入れまでのタイムラグや生活環境の変化による利用者の健康状態への影響が懸念されます。
また、とりわけ地方などでは、代替施設・事業所が見つからない、または(満床/定員いっぱい等のため)受け入れができないなどの可能性もあり、介護難民が生まれないとも限りません。
――現状、利用者数に対して介護施設のキャパシティーは足りている?
一時は特別養護老人ホームなどで入所待機者問題などが取り沙汰されていましたが、現状においては、むしろ地方部では空床も目立ってきています。
自治体等のレベルでは、3年ごとに各介護サービス量の増減を勘案し、介護保険計画を策定することになっており、今後の人口動態などを踏まえた、必要量の施設・事業所整備を進めていただく必要があると考えています。
――今回の調査結果を踏まえ、どのような対策が必要だと思う?
まず、来年4月に予定される「介護報酬改定」では、プラス改定が必要不可欠であると考えています。
また、3月に「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」が積み増し(介護をはじめとする推奨事業メニューに対し7,000億円)されており、その確実な交付と効果的な活用が求められます。
物価や光熱費の高騰を受け、コスト増を価格転嫁することができないことなどから経営が厳しくなっている、介護施設・事業所。
来年4月に予定される「介護報酬改定」でのプラス改定など、現状をふまえた必要な支援がされることを期待したい。