仕事内容や働く環境、収入など様々な理由から転職を考える人も最近は多いだろう。

その転職について興味深い結果が明らかになった。転職コンサルタントを対象にした調査で、転職コンサルタントの約半数が、「相談者の3人に1人は現職に留まるべき」と回答していたのだ。

調査は、人材紹介サービス「ミドルの転職」を運営するエン・ジャパン株式会社が、転職コンサルタント126人を対象に今年3月、「転職すべき人・現職に留まるべき人」についてアンケートをしたものだ。

この中で、転職コンサルタントに「面談を行なった方のうち、転職せずに現職にとどまるべきと思う方は全体の何割ほどですか?」と質問したところ、54%が「3割以上」、29%が「2割」、11%が「1割」、6%が「1割未満」と回答した。

※「転職せずに現職にとどまるべきと思う人の割合」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)
※「転職せずに現職にとどまるべきと思う人の割合」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)
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「現職に留まるべきと思う理由」については、最も多かったのが「本人の希望と、転職市場での市場価値にギャップがある」で75%だった。次いで「現職企業の待遇が良く、現職以上の待遇での転職が難しい」が52%、「キャリアアップできない理由を会社にあると思っている」が43%と続いた。

※「現職に留まるべきと思う理由」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)
※「現職に留まるべきと思う理由」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)

一方で、転職すべき理由も聞いており、トップ3は「今後やりたいことと、転職理由に整合性がある」(69%)、「現職企業では、本人の希望が絶対に叶わない」(59%)、「現職企業に将来性がない」(54%)だった。

※「転職すべき理由」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)
※「転職すべき理由」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)

「自身で転職の是非を見極めるには、何をすればいいか?」については、最多が「解決したい課題を整理し、解決方法を検討する」の67%、次いで多かったのが「キャリアの棚卸しを行ない、キャリアプランを見直す」(63%)だった。

※「転職の是非を見極めるには、何をすればいいか?」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)
※「転職の是非を見極めるには、何をすればいいか?」(画像提供:エン・ジャパン株式会社)

こうした調査結果が出たわけだが、転職相談に来た3人に1人が現職に留まるべき人であるというのは、意外と多いようにも思われる。では、留まるべき人にはどんな傾向があるのか?

また転職希望者にコンサルタントは、どんなアドバイスをしているのか? 調査を行ったエン・ジャパン株式会社の担当者に詳しく話を聞いた。

自分自身の市場価値を正しく把握できている人は少ない

――なぜこの調査を行った?

昨年実施した「2023年ミドルの求人動向」調査で、2023年の採用活動は円安・不景気の影響を受けて鈍化するのでは、という声が一部ありました。そうした中で、どんな人が転職を留まるべきなのか、逆に転職すべき人はどのような人なのか、について「ミドルの転職」のユーザーへ示唆を与えられればと思い実施しました。


――半数以上が「面談した3人に1人は現職に留まるべき」と回答した。この結果をどう思う?

妥当だと思います。そもそも自分自身の市場価値を正しく把握できている人は少なく、自己分析に関しても意図的に行っている人は少ないのが実情です。自身の市場価値を、現職(現企業)での評価だけでしか考えられない方は多いと思います。

転職を考える際は、市場の状況理解や自身の経験やスキルの棚卸し、自己理解を深めることが大切です。その上で市場とのギャップがあると分かった場合や、転職しない方が良いと判断した場合は、転職しない選択肢をとることは悪いことではありません。人生の転機になり得る機会だからこそ、転職は慎重に考えるべきでしょう。


――転職コンサルタントは、留まるべきと思った人にどんなアドバイスをする?

転職コンサルタントのみなさんは、まず「転職を考えている理由」と「実現したいこと」を正しくヒアリングし、本人の優先順位を整理しています。

その上で、求職者自身の「やりたいこと・やりたくないこと」と「できること・できないこと」もあわせて整理します。市場からそれが求められているのか、給与相場とあっているのか、現職の良い面・悪い面はどこなのか、今置かれている環境でできることはないのかなど、複数の観点から考慮し、求職者の人生がより良くなるために、対話を重ねながらアドバイスを提供します。

※イメージ
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留まるべき人の口癖「会社のせいで…」「私は悪くない…」

――「本人の希望と、転職市場での市場価値にギャップがある」について詳しく教えて

「保有している経験スキル」と「本人の希望」が合わないことが多いです。例えば、給与水準の高いA社で「○○スキル」で800万円もらえていたが、他の会社では「○○スキル」の相場は500万だった、というケースはよくあります。

その他、こんな事例も。現職のA社で30人のマネジメントをしており、本人はマネジメントができると思っている。ただし、実際に行っていたのは、勤怠管理や問題が起きない組織の管理業務のみ。他の会社では、組織の管理は一部の業務でしかなく、マネジメントに求められるものは事業を成長させる力だった。この場合、役職をマネージャーとして希望されていても、マネージャーとして入社させるには力不足と判断されるケースも多いです。


――「キャリアアップできない理由を会社にあると思っている」については?

会社のせいだと他責にしてしまう方は、他の会社に行っても同じことを繰り返す可能性が高いと思います。人間関係の問題や、業務上のトラブル、評価不満などは、一定どの企業に行っても発生します。それらを事象として捉え、周囲と適切にコミュニケーションを取り、解決するためのアクションをとって行くことが重要です。

そう捉えられない方は転職しても同じ問題を起こしてしまいがちです。自身の能力不足を認めて努力する決意や、行動変容が重要だと考えます。


――現職に留まるべき人が、よく口にするセリフはある?

能力や人間性も高く、市場や他社を知らないだけの人たちを除き、ネガティブな理由で現職に留まるべき人の傾向としては、「他責にしがち」「改善性がない」「周囲とうまく進められない」「行動を起こさない」「限界を自分で決めがち」という点があります。具体的には、下記発言が挙げられます。

・会社のせいで…
・上司のせいで…
・言っても変えられないと思って…
・私はこうしたのですが…
・相談できる相手もいなくて…
・私は悪くない…
・私はできることがない…

転職は何でも解決できるものではない

――転職の是非を見極めるためにしておくと良いことの「解決したい課題を整理し、解決方法を検討する」についても詳しく教えてほしい。

今何に困っていて、何を解決したいのかを整理するということです。例えば、「転職して給与を上げたい」と考えている方にその理由を聞くと、「結婚を考えていて、今の収入で家族を持つのは不安がある」という回答をされる方は少なくないです。その場合、いつまでにいくらあればいいのかを整理することによって、より解決方法が見つかりやすくなります。そもそも共働きなら今の収入でも問題ない場合もありますし、今の会社でキャリアアップすれば給与UPが実現できるかもしれない。副業で収入を得る選択肢も考えられますね。

また、「人間関係が上手くいかず転職したい」という方の場合でも、まずは「なぜ上手くいっていないのか」の課題を整理してから解決方法を検討するべきでしょう。転職しても似たような人がいたら同じことが起きてしまう可能性もありますので。上司に相談してみたり、異動希望を出すことなども検討できると思います。このように、実は転職しなくても課題が解決されたり、むしろしない方が良いという判断が出来ることもあります。


――「キャリアの棚卸しを行ない、キャリアプランを見直す」については?

予測できない世の中ですので、定期的に自分の経験やスキルを棚卸してキャリアプランを見直す必要があります。描いていたキャリアプラン通りキャリアが進んでいる方のほうが稀だと思います。計画通りいかなかったことを嘆くのではなく、自分が前に進むための行動が重要です。

そのためには、健康診断と同じように、キャリアの健康診断(棚卸し)を行うこと。家族や友人だけでなく第三者のプロに相談することで、自分の強みや弱み、これから強化するべきポイントなども見えてきます。


――最後に、これから転職を考えている人に向けてアドバイスをお願いしたい。

「転職は慎重に」。まず、転職活動というとネガティブに聞こえがちですが、今いる環境がとても恵まれている環境だということに気が付くかもしれませんし、その職場で頑張ろうと改めて思うきっかけにもなるかもしれません。

一方で、転職は何でも解決できるものではありません。前職が不満で転職したが、転職先では活躍できず前職のほうが良かったということもあります。手前味噌ですが、転職体験レポートで他の人の転職体験を参考にするのもよいでしょう。転職サイトに登録して、どんな企業や職種で求められているかを知るのもいいですし、転職コンサルタントに相談するのもよいと思います。

時には思い切りも大事ですが、勢いで転職しても良いことはありません。冷静になって、整理して、情報を集め、時には第三者も頼りながら、今よりもより楽しく生きるにはどうしたらいいのか、を考えることが重要です。



現職に留まるべき人は、市場の状況や自身の能力などしっかり把握できていない人が多いようだ。転職を考えている人は、担当者のアドバイスを参考に活動していただきたい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。