北朝鮮が4月13日朝に発射したミサイルは、これまでとは違う“新型兵器システム”の可能性があるということだ。ますますミサイルの脅威が高まる中で、日本国民に避難を呼びかける“Jアラート”の発令については混乱も生じた。

北朝鮮のミサイル「新型の兵器」か…

テレビ局の報道フロア Jアラートのアナウンス:
北海道周辺に落下するものとみられます

13日午前8時前、突如鳴り響いたJアラート。北朝鮮のミサイルが、「北海道周辺に落下するものとみられる」という情報とともに、「直ちに避難するよう」促すものだった。

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しかし…

岸田文雄首相(13日午前9時すぎ):
弾道ミサイルは、我が国領域内に落下していないことは確認しています

政府は「落下の可能性がなくなったことが確認されたので訂正する」と発表した。

記者の質問:
以前にも、ミサイル発射情報を出した後に訂正しましたが、情報発信の正確性は今後どう担保するんでしょうか

岸田文雄首相:
はい。Jアラートの件も含めて、確認中です。報告をこれから受けようと思います

「落下するとみられる」から「可能性がなくなった」と訂正されたJアラート。過去にも同じように国民が困惑することがあった。

2022年10月に、弾道ミサイルが発射された際には、出されるべき北海道と青森に加え、注意が必要でない東京都の島しょ部にも出されてしまった。

さらに、2022年11月には、Jアラートが出されたものの、ミサイルは日本上空を通過しなかった。アラートの送信時間が遅いといった批判も上がり、システムの改修が進められていた。

なぜ今回もまた、Jアラートは訂正されることとなったのか。自民党内からは厳しい声が出ている。

自民党 萩生田光一政調会長:
国民の安全にかかる問題であり、この経緯についても検証し、改善すべき点があれば速やかに改善してもらいたい

これについて松野官房長官は、13日午前の会見で、「システムがそうした航跡を生成したため、国民の安全を最優先する観点から、Jアラートを発出した」と釈明。午後には岸田首相も、「発出の判断は適切だった」と強調した。

岸田文雄首相:
Jアラートは、国民の皆さまの安全を最優先する観点から、発出したものです。今回の判断は適切であったと、政府としては考えています

一方、韓国軍は今回の北朝鮮の発射について、「新型兵器システムの試験をしたとみられる」と発表した。また、固体燃料を使ったICBMの可能性があるということだ。北朝鮮にとって大きな意味がある今回のミサイル発射であったようだ。

本格化する北朝鮮の動き この問題に詳しい李相哲教授に聞く

これから本格化するとみられている北朝鮮の動きについて、北朝鮮問題に詳しい龍谷大学の李相哲教授に話を聞いた。そして、早さと正確さが求められる日本のJアラートについても今一度検証する。

まず、13日に北朝鮮から発射されたミサイルは、“新型”とみられる。韓国軍によると、固体燃料式のICBM(大陸間弾道弾)の可能性があるということだ。

2月に行われた軍事パレードで、北朝鮮が「世界最強の戦略兵器が完成した」と言っていたので、その兵器である可能性がある。

新型兵器の脅威は燃料が「固形式」であること

どういった点で世界最強なのか、李先生によると、燃料にポイントがあるとのことだ。従来の燃料は液体だった。液体燃料は発射の都度注入する必要があり、注入時間が1時間ぐらいかかり、その1時間のうちにミサイル発射の兆候が他の国にばれてしまうものだ。

今回発射されたと言われている固体燃料だと、劣化のおそれが少なく、一度注入しておけば、素早く発射でき、奇襲攻撃が可能になる。固体燃料のミサイルは北朝鮮の悲願だった。成功すれば他国にとって脅威が高まるということだ。

龍谷大学 李相哲教授:
ICBM(大陸間弾道弾)には今まで液体燃料を使っていた。それが固体燃料でICBMを発射できたら、すごい脅威になります。北朝鮮にとっては悲願でした。核システムを完成させるために、ぜひとも解決したかった課題で、今回その実験をしたとみられます

関西テレビ・神崎報道デスク:
2月の軍事パレードで新しいICBMが登場して、「固体燃料では…」と言われていましたが、これまで1度も発射されていませんでした。それが今回発射されたのでは。この先おそらく映像が公開されて、ミサイルの炎の形で判別できるのではないかと考えられています。液体ですとろうそく型の炎が出て、固体ですとスカート型に広がった形で煙も多かったりするので、液体か固体か判別できると思います

今回のミサイルはレーダーから消失したということだが、発射実験は失敗だったという見方もあるのか。

龍谷大学 李相哲教授:
今回1000キロメートル飛んだと言われています。燃料の量によって飛行距離は変わり、少なくすれば飛行距離が短くなります。北朝鮮が恣意(しい)的に1000キロにしたのか、あるいは燃料をたくさん積んだのに1000キロしか飛ばなかったのか、今のところ分かりません。北朝鮮はおそらく「成功」と発表するはずですが、成功か失敗か評価する必要があります

4月は「太陽節(故・金日成主席の誕生日)」 動き本格化のおそれ

また李先生によると、これから北朝鮮の動きは本格的になるという。4月のカレンダーを見ると、15日には故・金日成主席の生誕111年の誕生日、「太陽節」となる。25日には朝鮮人民革命軍の創建日を迎え、そして翌26日は韓国のユン大統領がアメリカを訪問する予定になっている。

李先生によると「新たな軍事成果(実験)で、アピールが強まってくるのではないか」ということだ。

龍谷大学 李相哲教授:
政治的な意味合いもありますけれど、「太陽節」というのは、北朝鮮にとって民族最大の祝日です。そのときはぜひとも成果を見せたい。今回1000キロ飛ぶICBM級ミサイルを発射したと言いますが、もうひとつ北朝鮮には念願が残っています。それが「軍事衛星(偵察衛星)」で、発射する可能性がなくもない。今回の発射がそのための実験だった可能性もあります。これまで軍事衛星を飛ばすために、まず発射台を一定の距離まで飛ばして、そこから地上の写真を撮ったり、通信ができるか実験してきました。労働新聞に発表していましたので、軍事衛星発射の準備は進んでいるとみられます。今回のミサイル発射は、衛星発射の前兆であった可能性もあります

対する日本の“Jアラート” 「前回は遅すぎた。今回は早すぎた」

13日のミサイル発射があり、日本ではJアラートが出された。混乱ぶりを振り返る。

・午前7時22分 ミサイルが発射。
・午前7時25分 防衛省が、「北朝鮮から弾道ミサイルの可能性があるものが発射」と発表。
・午前7時55分 Jアラートが発令「8時ごろ、北海道周辺に落下するとみられる」。
・午前8時16分 政府は「北海道周辺に落下する可能性はなくなった」とJアラートを訂正。

政府が情報を訂正したが、松野官房長官は会見で「発射直後、レーダーから消失していたが、システムが生成した航跡をもとに、国民の安全を最優先する観点から、Jアラートを発出。発出は適切だった」と述べた。Jアラートには改善の余地があるのか。

関西テレビ・神崎報道デスク:
ミサイルというのは最初打ち出されるときに、アメリカの早期警戒衛星が監視していて、ミサイルの角度や方角から、「ここに落ちるだろう」と計算します。その他に複数のレーダーがあって、日本の上を確実に通過すると分かってから、これまでJアラートを出していました。

関西テレビ・神崎報道デスク:
2022年の10月に、青森の上空を通るとJアラートが出されたときには、もう通り過ぎていて、出すのが遅すぎるということになりました。その反省から早く出さないといけないということで、今回はおそらく、早期警戒衛星の情報だけをみて、スピード優先で出したら不正確な情報を出してしまったようです。「前回は遅すぎた。今回は早すぎた」ことになります

最後に視聴者から質問。「北朝鮮のミサイル発射の資金はどこから出ているのですか?」

龍谷大学 李相哲教授:
盗んでいるんですね。北朝鮮の貿易額は本当に少なくなっています。国連安保理の傘下に専門家パネルがありますが、その報告によると、2022年1年だけで北朝鮮は6億3000万ドルのお金を、ハッキングなどで盗んだと。普通の経済活動では資金を調達できないので、ハッキングなどの不法な手段でお金を盗んで、軍事開発につぎ込んでいる状況です

(関西テレビ「newsランナー」2023年4月13日放送)

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