人間の質問や指示に応じて自然な文章で回答する対話型人工知能(AI)「チャットGPT」が、世界中で大きな話題になっている。チャットGPTで世界はどう変わるか、裏側に潜むリスクは何か。BSフジLIVE「プライムニュース」では識者を迎え検証した。

自ら学び賢くなるチャットGPT 教育現場への影響は

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新美有加キャスター:
チャットGPTは2022年11月にアメリカで公開され、2カ月で利用者は1億人を突破。Siriなどとの違いは?

松尾豊 東京大学大学院教授:
後ろにある技術が違う。この大規模言語モデルは大量のデータを学習していて「脳の容量が大きい」。人間は他の動物より脳が大きく、つまりニューロンやシナプスの数が多い。これをチャットGPTでは「パラメータの数が多い」という。

反町理キャスター:
ネット上の情報を人間の手でインプットする必要があるのは同じか。

松尾豊 東京大学大学院教授:
そう。だが「自己教師あり学習」といって、テキストを入れると次の単語を予測し続けて学習していく。だんだん完璧に予測できるようになる。インターネット上の情報を与えると自分で学習し、どんどん賢くなっていく。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
僕は愛用している。世界中の情報を集めることができ便利。難しく考えず、おしゃべりロボットの中にすごい知恵の塊を埋め込んだと考えたらいい。

新美有加キャスター:
大きな影響を受けると言われるのが教育現場。松野官房長官は「メリットとデメリットの両方に留意することが重要」と述べ、ガイドライン作成を検討する考えを示した。東京大学は「AIのみを用いたレポートなどの作成は認めない」。

益川弘如 聖心女子大学教授:
レポートは成果物だが、教育で大事なのはそれをどう作ったかという、その人の頭の中。チャットGPTでそれっぽいものを出せても、その人の名前で出すことに責任を負えるのか、という話。

松尾豊 東京大学大学院教授:
いくらでも活用の方法はある。例えば、うちの研究室で面白いと言っているのは、講義のスライドを入れると自動的に確認テストが出てくる仕組み。答えなければ出席にならないようにすれば、先生はすごく楽。レポート提出で確認する方法が古くなっていて、チャットGPTに評価させるほうがいい。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
チャットGPTを使いこなし、そこから新たな創造性を生み出していくのがこれからの授業になっていく。

益川弘如 聖心女子大学教授:
学んだことの先でアイデアを出すとか、自分の経験と結びつけて何が言えるかといった内容は、チャットGPTを頼るわけにもいかない。教育者が学生や生徒に何を求めるか、教育の目標などの見直しにも繋がるのでは。

急速すぎる普及 社会の受け入れ態勢は整っているか

新美有加キャスター:
チャットGPTの急速な普及に警戒の動きも。米非営利団体フューチャー・オブ・ライフ・インスティチュートは、「AI開発が制御不能な競争に陥っている」として一部のAI開発の半年間中断を求め、実業家のイーロン・マスク氏も含めAI開発者ら2万人以上が賛同。マスク氏は「我々の近くに危険なほど強力なAIがある」と危機感を示すツイート。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
彼はチャットGPTがアメリカ経済界の事実上の標準になることを抑えるため、自分たちが追いつく時間のために、開発を半年やめさせようとして発言したと言われている。ビジネスの話。

反町理キャスター:
ビル・ゲイツは「特定のグループが一時休止を求めても、課題の解決になるとは思わない。必要なのは注意すべき分野を特定すること」。

松尾豊 東京大学大学院教授:
「追いつけないから止まって」というビジネスの面はやはりある。一方で技術の進歩が速すぎ、ルール作りなど受容する社会の側の準備が追いついていない面も。もう少し遅くした方がいいという意見もわかる。

新美有加キャスター:
チャットGPTへの懸念として誤情報や個人情報などの流出などが挙げられ、イタリアは一時的な使用禁止を発表。フランス・ドイツ・アイルランドなどでも規制に向けた動きがある。日本はまだない。

松尾豊 東京大学大学院教授:
個人情報については、今までクラウドに上げていた情報と同じで、チャットGPTだからというのは成り立たないかも。ただ競争上の話なら、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の発展に対しヨーロッパがルール作りでひっくり返そうとする流れはある。

益川弘如 聖心女子大学教授:
AI自身は倫理観などを持っていないから、社会が追いついてルールを作り入れていくことが大事。私たちがAIを賢く使うためのリテラシーを学ぶ機会を増やしていく必要がある。

ジャーナリスト 木村太郎氏:
ヨーロッパには伝統的に、新しいものが出てくると怖がる「テクノフォビア」がある。日本がこれまでにハイテク関係で失敗してきた最大の原因でもある。巻き込まれない方がいい。

松尾豊 東京大学大学院教授:
自動車も、発展していく中で最初にはなかった仕組みやルールができていった。チャットGPTも使いながら定めていけばいい。ルールがないから使わない、先にルールを決めようという話じゃない。これは本当に面白い技術。みんなでワクワクしながら開発していければいい。怖がる必要はない。

AIに仕事が奪われるのか、仕事のやり方が変わっていくのか

新美有加キャスター:
米専門サイト「インサイダー」で挙げられた「チャットGPTに奪われるかもしれない仕事」は、エンジニア、マスコミ、教師、経理、顧客サービスなど。

松尾豊 東京大学大学院教授:
マスコミのように、高賃金で参入障壁が高い仕事のほうが奪われやすいとされる。なくなるのは、情報を集めて整理して加工する途中の部分。取材する仕事や、このように番組で喋る仕事もなくならない。つまり両端は価値が上がり、中間の価値が下がる。

益川弘如 聖心女子大学教授
益川弘如 聖心女子大学教授

益川弘如 聖心女子大学教授:
奪われるとか置き換えられるのではなく、AIが支えになることで仕事のやり方が変わる。今まで苦労していた部分がなくなり、先のことに取り組める形に変わっていくのでは。

反町理キャスター:
これからのポイントは、AIへの指示の出し方になるか。

松尾豊 東京大学大学院教授:
そう。そこが面白いところで、人間の言葉で指示の出し方をうまくできれば、うまく動くという世界。部下への指示の出し方が大事なのと全く同じ。指示の出し方やどう人に教えるかということは、文化として日本企業の中にあり、チャットGPTの活用にも必要。うちの研究室の学生もプログラミングをするのは開発の最初の何時間かだけで、あとはずっと日本語での指示の出し方を改良している。

松尾豊 東京大学大学院教授
松尾豊 東京大学大学院教授

反町理キャスター:
子どもの頃からチャットGPTに触れるべきか。古いことを言うが、小学生が読書感想文や夏休みの日記を全部AIに書かせることになっていいのか。まだ良い指示ができないとして、どう指示するかの習熟が人間の成長とイコールになっていなければおかしいのでは。

益川弘如 聖心女子大学教授:
AIはその子の考えを深めていくための道具なので、教師の役割として「学ぶとはどういうことか」を教えることが重要になる。学習観や教育観の見直しが起きるのだと思う。

松尾豊 東京大学大学院教授:
僕が小学生なら、チャットGPTにいろんなことを聞きたい。空はなぜ青いのか。光の屈折のためだと答えてくれる。屈折とは何か教えてくれる。波長というものがあるとか、人間の目がどう色を認識するか、など広がっていく。その可能性を閉じないで欲しい。

「数百億円で先頭集団の最後尾に」日本はAI開発に乗り遅れるな

新美有加キャスター:
その他の対話型AIとして、米IT大手グーグルは「Bard(バード)」の試験版を提供開始。中国でもIT大手の百度(バイドゥ)など各社が対話型AIを公開している。競争に乗るべきか。

松尾豊 東京大学大学院教授:
日本でもどんどん開発していくべき。チャットGPTのオープンAI社はすごいスピードで駆け続け、その後を巨人グーグルが追っている。中国も。日本の場合、大きな投資がしにくいが、今は非常に大きな時代の変わり目。現時点での勝ち負けはさておき、自国で技術を開発してついていくべきなのは間違いない。こんなチャンスはあまりない。

反町理キャスター:
グーグルやマイクロソフトのない日本で、どこが主体となるか。

松尾豊 東京大学大学院教授:
どこがやってもいい。僕は、数百億円の投資で、マラソンで言えば先頭集団の最後尾につけられると言っている。半導体工場に比べればはるかに安い。それで次の時代のプラットフォームを取る可能性への賭けができるなら、絶対やるべき。

ジャーナリスト 木村太郎氏
ジャーナリスト 木村太郎氏

ジャーナリスト 木村太郎氏:
必要だからと政府が金を出すのではダメ。政府は口を出さず、手を挙げた人は自由にやってくれという環境を作るのが大事。教育でも何でも、AIのようなものはこれからの社会のあるべき姿だとしていくこと。

反町理キャスター:
30年間続いた日本のデフレを考えると、民間からの投資を待つなら政府の金を引っ張り出したほうが早いかもしれないとも思うが。

松尾豊 東京大学大学院教授:
本当に悩ましい。国のお金で本当に大きなイノベーションが起きるかはかなり疑問だが、経営陣がその規模の投資を意思決定できる民間の会社はほぼないと思う。すると複数の企業で連合を組むなどとなるが、動きを本当に作っていけるか。

反町理キャスター:
やきもきしてます?

松尾豊 東京大学大学院教授:
やきもきしてますよ。だからいろんなところで、使った方がいいと言っている。時代の変わり目は本当に数十年に一度しか来ない。このチャンスを取りに行った方がいい。

(BSフジLIVE「プライムニュース」4月12日放送)