7年前の熊本地震で大きな被害に遭った東海大学農学部。南阿蘇村から益城町に移転した新しいキャンパスには学生たちの声が響いた。大学と南阿蘇村はどう変わったのか、7年間の足跡を追った。

大きな被害に遭った阿蘇キャンパス

テレビ熊本・西村勇気アナウンサー(2016年7月の取材):
東海大学で最も被害の大きかった阿蘇キャンパスの1号館です。中に入りますと、物が傾き、植木鉢が割れるなど、本震の日そのままの姿となっています

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1973年(昭和48年)に開かれた東海大学・旧阿蘇キャンパス。地震当時、農学部の学生約1,000人が通っていた山あいの学びや。

テレビ熊本・西村勇気アナウンサー(2016年7月の取材):
阿蘇キャンパスの事務室です。重そうな書類棚が倒れてきています。昼間に本震が来ていたらと思うと背筋が冷たくなります

あれから7年。
阿蘇キャンパスは、地震の記憶を語り継ぐ「震災遺構」として保存され、一般の人も見学できる施設へと生まれ変わっている。

4月6日、2023年に採用された熊本県の新人職員たちがここを訪れた。

震災遺構のガイド:
この地区は「本震」によって被害が出ました。マグニチュード7.3、最大震度6強といわれています。この柵の中を見てもらったらわかるんですけれど、これが地表に現れた「活断層」です

生々しい断層や、被害に遭った東海大学の建物を前に、若者たちが感じたことは…。

県新規採用職員・村上陽菜さん:
そこで生活していた方のことを思うと、何とも言えない気持ちというか、「心が痛いな」という気持ちになりました。地域の方から教えていただいたことを(仕事に)生かしていく姿勢を大切にしたいと思います

県新規採用職員・那須匠馬さん:
(熊本出身だが)ここまでひどいものは見たことがなかった。(防災には)地域の皆さんのコミュニティーが大切だなと思いました

「自然に囲まれながら学ぶのがちょうどいい」

旧阿蘇キャンパスに替わり、益城町に建設された東海大学阿蘇くまもと臨空キャンパスは、農学部専用の校舎で、動物や植物に関する実習の拠点となる。4月7日から本格的な運用が始まり、学生の声が響いた。

東海大学 農学部3年・石本啓汰さん:
きれい、きれいです!新しい歴史が始まったなって思います

東海大学 農学部3年・堀彩葉さん:
阿蘇(キャンパス)が地震で使えなくなってからは、熊本校舎でもよかったんですけど、周りに自然がなく、ちょっと都会だったので、今は自然に囲まれながら学ぶのが農学部にはちょうどいいなと思いました

この日、真新しい実習棟では、動物科学科の2年生が羊の毛刈りを学んだ。コツは、体のラインに沿って、しっかりめにバリカンを当ててやることだそうで…。

東海大学 技術職員:
(刈り方が)優しすぎる。なのでちょっと毛が残っちゃってる。そうそうそう

東海大学 農学部2年・岡崎健人さん:
羊がずっと「メーメー」鳴いてるので、「怖いんかな?」って思いながらも、ちょっと強引に(ひづめを)切りました。実習が多めにできて、身近に動物がいる環境で学校生活を送れるので、とてもうれしいです

東海大学 農学部2年・仙波奏さん:
(新キャンパスで)いろんなことに挑戦できるのでワクワクと、どんなことを学べるのかなという期待があります

2022年 南阿蘇村には専門学校が開校

イデアITカレッジ阿蘇・井手修身校長:
IICA(イデアITカレッジ阿蘇)は、熊本地震からのソフトパワーの復興の象徴として、ちょうど1年前にこの南阿蘇村に開校いたしました

一方そのころ、南阿蘇村では専門学校の入学式が行われていた。

2022年に誕生した「イデアITカレッジ阿蘇」では、2年間で、IT技術や観光、国際ビジネスを学ぶ。国内だけでなく、海外からの学生が多いのも特徴だ。

シバンカル・パラビさん:
おはようございます。おばちゃん、私の弁当どれ?

大家・竹原伊都子さん:
こっち。パラビさんのサイズが違うから

インドからやってきたシバンカル・パラビさん。かつて東海大の学生が住んでいたアパートで暮らしている。

ーー(下宿の)おばちゃんはどんな人?

イデアITカレッジ阿蘇 シバンカル・パラビさん:
「優しい」の言葉だけじゃ足りないくらいの優しさがある人。ふさわしい言葉が私にはわからないけど、何があっても何時でもおばちゃんに電話したら安心

「学生村」の復活にも期待

地震前の南阿蘇村には800人の東海大生が住んでいて、このあたりは「学生村」と呼ばれていた。イデアITカレッジが誕生し、再び若者が定住し始めたことで、地元では「学生村」の復活に期待を寄せている。
学校側も村にIT企業を誘致し、学生の就職先としてマッチングを計画するなど、若者に魅力的な学びの場を模索している。

人気の観光スポット阿蘇ファームランドには、学校が休みの日に、アルバイトで観光客の案内係をするパラビさんの姿があった。

アルバイトで観光客の案内係をするパラビさん
アルバイトで観光客の案内係をするパラビさん

イデアITカレッジ阿蘇 シバンカル・パラビさん:
おはようございます、お客さま、初めてでしょうか?大きな緑の滑り台は「キングスライダー」となっております。キングスライダーご利用の場合は下の方の受け付けにお願いします

新型コロナウイルスが少しずつ落ち着き、海外からの観光客も戻り始めた中、日本語と英語ができるパラビさんたちの活躍の場が広がりそうだ。

阿蘇キャンパスそばには震災ミュージアムを建設中
阿蘇キャンパスそばには震災ミュージアムを建設中

また、南阿蘇の震災遺構、阿蘇キャンパスそばには、熊本地震の様子を追体験できる設備を備えた震災ミュージアムが建設中で、この夏にオープンする予定だ。

復興に近づく東海大学と南阿蘇村。ともに少しずつ変化を重ね、あの地震から7年の日を迎える。

(テレビ熊本)

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