長崎を舞台とした「沈黙」などで知られる作家・遠藤周作が生誕して2023年で100年となる。その遠藤周作が愛した外海の風景を守ろうと、海岸の清掃を始めた男性の思いに迫った。

深刻な問題「海洋プラスチックごみ」

踏むがいいと銅板のあの人は司祭に向かって言った。
「踏むがいい。
お前の足の痛さをこの私が一番良く知っている。
踏むがいい。
私はお前たちに踏まれるため、この世に生まれ、
お前たちの痛さを分つため
十字架を背負ったのだ。」
――『沈黙』

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遠藤周作の作品「沈黙」。裏切るもののつらさやキリスト教の愛をテーマにした作品で、舞台となったのは長崎市の外海地区だ。

人間がこんなに哀しいのに 主よ 海があまりに碧いのです

遠藤周作の「沈黙」の碑に刻まれているように、眼下には紺碧(こんぺき)の海が広がっている。しかし、外海歴史民俗資料館下の海岸をよく見てみると、ペットボトルやポリ袋などのプラスチックごみが流れ着いている。

外海歴史民俗資料館下の海岸に放置されているペットボトル
外海歴史民俗資料館下の海岸に放置されているペットボトル

プラスチックごみは、海中を漂って数百年も自然分解することなく海を漂い続け、海を汚染するだけでなく、魚類や海鳥など海の生態系にも甚大な影響を及ぼすと考えられている。
年々増え続ける海洋プラスチックごみは2050年には魚より多くなると予測されるほど深刻な問題となっている。(環境省「海洋ごみ問題について」(2020年)、「プラスチックを取り巻く国内外の状況」(2021年))

外海海岸のごみ拾いをスタート

この現状に心を痛めた熊川泰秀さん(※取材当時63歳)は、2022年7月、外海海岸のごみ拾いを友人や知人に呼びかけた。

長崎Costal Debris Guard・代表 熊川泰秀さん:
何が世界遺産だ、世界遺産たるものがある浜が、こんなにごみだらけで世界遺産と言うな

そんな憤りとも言える思いで始めた海岸の清掃活動。毎月1回、長崎市の浦上地区から車で1時間近くかけて外海に通い、友人たちと海岸に漂着したプラスチックごみを拾う。

参加者:
みんなごみ捨てちゃダメですね。風で飛んでここに来ますから

大野浜海浜公園をゴミ拾いしたときに撮影
大野浜海浜公園をゴミ拾いしたときに撮影

熊川さんが最初に手がけた大野浜海浜公園。

ゴミ拾いの結果、きれいになったように見える大野浜海浜公園
ゴミ拾いの結果、きれいになったように見える大野浜海浜公園

この海岸にも、プラスチックなど多くのごみが流れ着いていて、以前と比べるときれいになったようにも見えるが…。

長崎Costal Debris Guard・代表 熊川泰秀さん:
表面上は自然界に無い色のものは海岸には見当たらない。その状態にまでなりました。ところが岩を裏返したら(ごみが)たくさん出てくる。それ考えたらまだまだ一合目、活動は始まったばっかりです

熊川さんは還暦を過ぎた時に、国際協力機構(JICA)の海外ボランティアとして活動したいと上京。しかしコロナ禍で夢はかなわず。アルバイト先の仲間に誘われて、東京湾に面した千葉の幕張で海岸清掃をするうちに、ふるさと・長崎で活動したいと思うようになった。

この日の清掃活動の参加者は11人、長崎大学の掲示板の呼びかけに応えて、大学生3人も初めてやってきた。

初参加の大学生:
想像していたよりもだいぶごみがあって、全部キレイにするのは大変だなあと思います

初参加の大学生:
思ったよりいっぱいごみが落ちていたので、近所の海とかも見てみたいなって思いました

漂着ごみの再資源化目指し

長崎県の海岸線の長さは418万3,357メートル。北海道に次いで全国2位、離島を中心に各地で漂着ごみに頭を痛めている。

拾っても拾っても、次から次へと海を漂って押し寄せてくる。離島のひとつ・五島市の魚津ケ崎海岸でもごみが毎日流れ着き、地道な清掃活動が続いている。

清掃活動を呼び掛けている「五島自然塾」・代表 永冶克行さん:
きょうこんなにしてみんなで取っても、明日また元のもくあみになっているのは本当に情けない

五島の場合、冬場は風の影響で特に北側にごみが多く流れ着くという。

清掃活動を呼び掛けている「五島自然塾」・代表 永冶克行さん:
五島もごみを本土に運ぶだけではなくて、何か資源として活用できれば

熊川さんたちが外海で集めたプラスチックごみも、今は一般廃棄物として処理されている。しかし最終的には、行政を巻き込んで資源に再生化するシステムを導入したいと考えている。

熊川さんの友人・永井博さん:
(清掃活動が)もっと大きな輪になって波になって広がっていけばいいが、それが無かったら死ぬまで「ごみ拾いのおっちゃん」で終わるよねって

長崎Costal Debris Guard・代表 熊川泰秀さん:
海のごみを拾い集め、それをペレットに戻して、ペレットとして世の中に出す。そういう活動ができればいいなって。まだよちよち歩き。ごみを集めている段階

世界中の海で大きな問題となっている「海洋プラスチックごみ」。環境省によると、ごみの量は年間500~1,300万トンと推計されている。

そうした海洋プラスチックごみを再生資源化し、きれいな海を、浜を取り戻し、資源を無駄にしないサイクルを作る。熊川さんは誇れるふるさとの海を目指し、これからも月に1回の活動を続けていく。

(テレビ長崎)

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