京都の“保津川下り”の舟が転覆した事故。舟に乗っていた女性の証言から、事故当時の生々しい状況が見えてきた。水難事故のスペシャリスト、明治国際医療大学教授で、水難学会の理事も務める木村隆彦さんに、あらためて「命を守るために本当に必要なことは何なのか」について聞いた。

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“川の事故の恐ろしさ”3つのポイント

今回の事故で、乗客への取材から見えてきた“川の事故の恐ろしさ”の中で、木村先生が指摘するポイントは3つ。

1 頭まで水につかり、足も着かずに流される
2 急流で岩をつかめず「死ぬかも…」と思った
3 岸に上がっても「低体温症が怖かった」

「頭まで水につかり、足も着かずに流される」について。

水難学会理事 木村隆彦さん:
乗客の皆さんは泳ぎに来たわけではない。ですから、舟に乗っていて、安全に(終点の)嵐山まで着くだろうと思っていた。それが突然水の中に放り出されてしまった状況ですから、本当に怖かったと思います

急流で岩をつかめず「死ぬかも…」と思ったについて。

水難学会理事 木村隆彦さん:
(急流の中で何かにつかまるのは、)非常に難しいと思います。自分が流されているわけですから、何か障害物があって、そこに手を伸ばすというのは非常に難しい。またつかもうと手を伸ばす動きによって、沈みやすくもなりますので、実際のところ手を伸ばす行為はなかなか難しいです

水難学会理事 木村隆彦さん:
急流の中では、障害物に自分の体が挟まったり、何かが引っ掛かってしまうと、流れによって水の中に沈んでしまって、呼吸ができなくなる危険性があります。この場合は、流れてしまって、流れが緩やかになる所まで移動してしまった方が、助かりやすい。抵抗せずに力を抜いて流れてしまう、「浮いて待て」という考え方ですね

岸に上がるも「低体温症が怖かった」について。

水難学会理事 木村隆彦さん:
人間の体は普通に陸上で生活している時、35~36度ぐらいの体温があります。水につかることによってどんどん熱を奪われて、生きていくために必要な環境でなくなり、命の危険にさらされます

「救命胴衣」はベスト型とベルト型、手動式と自動式などのタイプ

女性の証言の中で、「救命胴衣は、知らぬまに膨らんでいた」ということだった。救命胴衣に注目しますと、ベスト型の救命胴衣、そして腰に巻いてベルトのように使う救命胴衣がある。最近はベルト型のものが主流になっているのか。

水難学会理事 木村隆彦さん:
主流と言いますか、レジャーの中ではベルト型の方が手軽で、締められる感覚がなく、増えてきています。腰に巻く救命胴衣には、水の中に入れば自動で膨らむタイプと、ひもを引いて手動で作動させて膨らむタイプがあります

水難学会理事 木村隆彦さん:
(着用義務は?)努力目標と言いますか、着けることを徹底しましょうと対応されていると思います

救命胴衣は全員が腰巻き型のものを着用していた。腰巻き型には手動式と自動式がある。手動式は落水時にひもを引くと膨らむ。自動式は水を感知し、自動的に膨らむ。

今回、乗客は、手動式と自動式が混在して使用していた。船頭は全員手動式だった。亡くなった船頭の救命胴衣は、膨らんでいなかったそう。手動式のものは、すぐに膨らませることができるのか。

水難学会理事 木村隆彦さん:
若干のタイムラグはありますが、ひもを引っ張れば中に仕込まれているボンベから炭酸ガスが出て、浮力体を膨らませるようになっています。水に落ちてからでも膨らませられるものだが、落ちると分かっている状況でしたら、あらかじめ膨らませておく方が安全だと思います。自動式は、手動でも使えるようになっているので、その点でも自動式の方が安全かと思います

救命胴衣は「ベスト型の方が良い」と専門家

「自動式の救命胴衣」がどのように膨らむのか、水を張った容器に沈めて実験してみた。少しタイムラグはありますが、膨らみだすと、一瞬で膨らんだ。

水難学会理事 木村隆彦さん:
水にぬれたと判断されると、すぐにガスが充填され、膨らみます

理想の救命胴衣はどのようなものだと考えられるか。

水難学会理事 木村隆彦さん:
やはりベスト型の方が良いと思います。最初から浮くことが前提で、着ることができますので、より安心だと思います。値段的にはベスト型の方が安いです

最後に「保津川下りは、もう終わってしまうのですか」という疑問について。現在のところ再開のめどはたっていない。安全を担保した状況で再開するとなれば、どういうことが求められるか。

水難学会理事 木村隆彦さん:
400年続いてきた伝統ある川下りです。今回の事故を検証し、安全対策、特に事故が起きた時に全員が生還することを前提に、どのような訓練が必要なのか、どういう対策が必要なのか、考えて行く必要があると思います

(関西テレビ「newsランナー」2023年4月3日放送)

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