俳優として多くの映画やドラマに出演する井浦新さんが、自然由来のシャンプーづくりに取り組んでいる。

なぜ俳優がナチュラルコスメブランドなのか?井浦さんの自然環境への想いを伺った。

「95%ナチュラルなら残りの5%は何だろう」

「僕にとって自然は畏怖を持ちながらも共生するもので、自然の中でアクティビティをするのが僕のライフスタイルでした」井浦さんは自然への想いをこう語り始めた。

「結婚して子どもたちが生まれてからも、家族で自然を楽しむのが生活の基本になっていました。こうした中でだんだんとより身体や環境にいいプロダクトを意識的に選んで買うようになったのですが、『95%ナチュラルと書いてあるけど、では残りの5%は何だろう』と調べてみると、完全にナチュラルではないことに疑問や矛盾を感じるようになりました」

井浦新さんと妻のあいさん
井浦新さんと妻のあいさん
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井浦さんの家族には髪の毛や頭皮に悩みがあり、改善を目指して様々なヘアケアを試していた。そしてよりナチュラルなプロダクトを探す中で出会ったのが石けんシャンプーだ。石けんシャンプーは自然由来以外の成分を使わないので環境に負担をかけない。そこで妻のあいさんと井浦さんは「自分たちでつくろうと話して開発することになった」という。

「お菓子の家がある森を散策する感じの香りを」

2022年に井浦さん夫妻が立ち上げたコスメブランド「Kruhi(くるひ)」。

この石けんシャンプーはアルミでつくられたボトルが印象的だ。環境への負荷を考えリサイクルにこだわり、ボトルはプラスチックではなくアルミを選んだ。シャンプーは環境に循環するよう化学物質を一切使わない自然由来で、特徴的なのがこれまで嗅いだことがないような独特の甘い香りだ。

Kruhiは環境への負荷を考えアルミボトルを選んだ
Kruhiは環境への負荷を考えアルミボトルを選んだ

井浦さんは「Kruhiを作るとき、とにかく香りにこだわりたかった」という。

「これまでのナチュラルコスメには無かったような、真面目だけどユーモアがあるような香りにチャレンジできたらと思ったんです。香りのイメージとしては、フルーツ畑と花畑を抜けていって、お菓子の家がある森を散策する感じで調合しました。この香りは(工場がある)大隅半島でなければ出会いませんでした。香りの1つに大隅半島特産のタンカンという柑橘果実やパッションフルーツをつかっています」

役作りと香りには強い結びつきがある

そもそも井浦さんにとって香りは役作りと強い結びつきがあったという。

「僕は1年に数作品の映画やドラマに出演しているのですが、俳優としてあまり器用なタイプではないので、1つ1つの作品にきちんと向き合わないと役作りをするのは難しいのです。香りは昔からとても好きで、自分の中で気持ちの切り替えや、モチベーションを上げていく際に香りを使っていました」

井浦さんにとって香りは役作りと強い結びつきがある
井浦さんにとって香りは役作りと強い結びつきがある

そして井浦さんはこう続ける。

「ですから役づくりの際にも『この役はこんな香りをしているんじゃないかな』とイメージして、気に入っているアロマオイルやエッセンシャルオイルを使って役作りをします。そうすると撮影現場でその香りを嗅ぐと役へのスイッチが入りやすくなります。香りは人間の心にものすごく作用するものだなと感じますね」

「嬉しさで2人で飛び上がりました」

先日“人にも地球にもやさしいコスメ”を表彰する「サステナブルコスメアワード」で、Kruhiの石けんシャンプーとトリートメントが2022年度のGOLD賞を受賞した。受賞理由は「原料調達から廃棄まで、徹底して持続可能な社会に向けた取り組みが実施されている」だった。

「とにかく嬉しさで、2人で飛び上がりました」

受賞した喜びを語り、井浦さんはこう続ける。

「エントリーをするときに、2人の中では『徹底的に追求してこだわってきたものだけれども、どのような評価をされるのかな』という思いがありました。だからGOLD賞だと聞いた時には飛び上がりました。とにかくこだわって設計をしていたので、それが間違いではなかったということが本当に大きな喜びになりました」

KruhiはサステナブルコスメアワードのGOLD賞を受賞(左は審査員長の岸紅子さん)
KruhiはサステナブルコスメアワードのGOLD賞を受賞(左は審査員長の岸紅子さん)

このアワードは「人にもやさしいコスメ」であることが評価基準となっている。あいさんによると、Kruhiは規格外の農作物をアップサイクルしている。

「規格の農作物と同じ価格でお支払いして、農家の方々の支援にもつながるようにしています。農家ではどの作物も大切につくっているのに、規格外と判断されると廃棄されてしまう。だから規格外でも農作物として価値があることを伝えたいと思いました」(あいさん)

撮影現場でも環境への意識が高まっている

いま撮影の現場でも「環境への意識の高まりを感じることがある」と井浦さんはいう。

「映画もテレビも現場はどんどん変わってきています。たとえば台本は紙ではなくデータ化されてタブレットを持ち歩くが当たり前になっていますし、マイボトルを持ってくる人たちが圧倒的に多くなっています。仕出しのお弁当もプラではなく紙のケースが使われていることが増えていて、僕が役者を始めた頃とは全く景色が変わりましたね」

井浦さん「僕が役者を始めた頃とは全く景色が変わった」
井浦さん「僕が役者を始めた頃とは全く景色が変わった」

今後どんなプロダクトを開発するのかと聞くと、井浦さんは「売れそうだから作るということを僕らはしません」と答えた。

「プロダクトを作っていくことによって、地域や農家の方々と知恵を出し合ったり価値を見出し合ったりして、お互いがいかしあえるようなものづくりができる。そういう出会いがあった時に『これを作っていこう』となると思います」

環境や人に優しいコスメの作り手は着実に増えている(2022サステナブルコスメアワードの受賞者たちと審査員)
環境や人に優しいコスメの作り手は着実に増えている(2022サステナブルコスメアワードの受賞者たちと審査員)

井浦さん夫妻の環境にも人にも優しいプロダクトづくり。次に何が生まれるのか、楽しみでしかない。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。