岩手県のJR釜石線を走る観光列車「SL銀河」は、客車の老朽化により2023年6月で運行を終えることが決まっていて、ラストシーズンの運行が3月25日から始まった。
整備や点検を行い、その運行を陰で支える若手検修員たちが奮闘している。

SL銀河を陰で支える検修員

3月25日、最後のシーズンの運行を開始したSL銀河。その雄姿をカメラに収めようとホームや沿線には多くの人が集まった。

ラストシーズンへの運行が始まった「SL銀河」
ラストシーズンへの運行が始まった「SL銀河」
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乗客からは「すごい煙でかっこいい」、「初めて乗るので、今年最後ということですごく楽しみにしてきました」などの声が聞かれた。

SL銀河は、観光面から被災地の復興と活性化を目的に、2014年4月からJR釜石線などで運行されてきた。これまで約480本・7万人が乗車したが、客車の老朽化を理由に、6月で運行を終えることが決まっている。

盛岡SL検修庫で作業する検修員たち
盛岡SL検修庫で作業する検修員たち

2023年1月、盛岡市にあるSLの車庫では運行に向けた準備が行われていた。作業をしているのは、列車の点検や整備を担当する「検修員」と呼ばれる社員たちだ。

検修員歴2年目の阿部さん
検修員歴2年目の阿部さん

JR盛岡支社・阿部美月さん:
隙間を見ても、これがいいものなのか、うまく判断がつかなかったので、聞きながらだったが、なんとかできたので本当に良かった

検修員歴2年目の阿部美月さんは、JR盛岡支社のSL検修員で唯一の女性だ。

検修員歴2年目の高坂さん
検修員歴2年目の高坂さん

同じく2年目の高坂仁さんとともに、今回初めて車輪をつなぐ連結棒の取り付け作業に参加した。

部品の重さは1本約150kg、機械を使って持ち上げる。取り付けのための軸受は寸法ぎりぎりのため、わずかでもずれると、うまくはまってくれない。0.1mm単位の精密な作業で、1本の取り付けは7人がかりで1時間ほどかかる。

JR盛岡支社・阿部美月さん:
重いのや汚れてしまうのは男女関係ない。SLの部品はとにかく重いので、男性でも重いし女性でも重い。重いとか汚れなどで男女に差はないと思った

復興・安全…検修員たちの思い

遠野市出身の阿部さんが、SL銀河に携わる仕事を選んだのは、東日本大震災からの復興への思いだった。

JR盛岡支社・阿部美月さん:
SLを見るとみんなが笑顔になっていて、SLが震災復興とイコールのイメージで考えていたので、自分も携わりたいと思いSL検修を希望した

また、高坂さんは地域や乗客のために働くことに仕事のやりがいを感じると話す。

JR盛岡支社・高坂仁さん:
手を振ってくださる地域の人や話しかけてくださるお客さま、そうした人たちが待ってくれていると思うと、モチベーションにつながる

SLの検修の技術は今やJRの中でも簡単に学ぶことはできない。1回1回の作業そのものが貴重な経験となる。

JR盛岡支社・藤村信彦さん:
初めてやったわりには、よくやってくれたのではないか。1両しかない分、練習もできないし、ここで集中してやるしかない。そこが大変なのではないか

先輩の検修員たちが継承するのは、技術だけでなく安全な運行に対する鉄道員としての使命だ。

JR盛岡支社・藤村信彦さん:
乗っていただくお客様のためと思って信念を持ってやる、すべての作業に対して。それに尽きる

JR盛岡支社・高坂仁さん:
本当に尊敬している。アドバイスをしていただく場面がほとんどなので、そういった先輩になれるよう頑張っていきたい

未来へと続く”思い”

SLヘッドマークも試運転用の特別仕様に
SLヘッドマークも試運転用の特別仕様に

運行開始が直前に迫った3月21日、釜石駅にSL銀河の姿があった。ラストシーズンを無事運行するための試運転が続く中、そのうち1日を使い沿線の人たちを乗客として招待することにしたのだ。釜石駅からは地元のほか大槌や住田に住む110人が招かれた。

乗客:
自宅の裏を走っているので、よく子どもたちと一緒に手を振っていたので寂しい

乗客:
最後だから、しっかり手を振ったり写真撮ったりしようかなと思っている」などの声が聞かれた。

遠野駅までの40km余りの道のりを約1時間半かけて走り抜けたSL銀河。復興を支えてきたその雄姿は沿線の住民たちの心により深く刻まれた。

乗客:
きょうも乗ってみてすごく元気づけられたので、本当に心強い列車でした

残すは2カ月半、6月の最終運行日まで走り続けるSL銀河。それを支える検修員たちの仕事は日々続く。

JR盛岡支社・阿部美月さん:
しっかり整備をしてきたので、ラストシーズンではSLに携わる社員や地域の方々、乗車を楽しみにしているお客さまの思いを乗せて、岩手の地を走り抜けたい

JR盛岡支社・高坂仁さん:
非常に濃厚な貴重な体験ができたし、技術も身に付けた。一緒に仕事をする先輩たちの姿勢を今度は自分が伝えていく立場になっていきたい

そして、安全な運行を守るという鉄道員としての使命は、SL銀河がその歴史に幕を閉じても未来へと受け継がれていく。

(岩手めんこいテレビ)

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