死刑囚が裁判のやり直しを求めている、いわゆる袴田事件は、検察の特別抗告断念により再審開始が決まった。事件発生から57年、袴田巖さんは87歳だ。再審の裁判で、検察は従来通り死刑を求刑するのか、それとも東京高裁の決定などをふまえ無罪を求刑するのだろうか。元検事の若狭勝弁護士に聞いた。

34年前の島田事件再審 求刑は死刑 判決は無罪

島田事件は再審で無罪判決(1989年・静岡地裁)
島田事件は再審で無罪判決(1989年・静岡地裁)
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1989年に静岡地裁で開かれた、いわゆる島田事件のやり直しの裁判。
判決で無罪が言い渡され「えん罪」が確定したが、検察側の求刑は「死刑」だった。

無罪が確定した赤堀政夫さんと弁護団(1989年・静岡地裁)
無罪が確定した赤堀政夫さんと弁護団(1989年・静岡地裁)

再審、やり直しの裁判で、検察側がどのような求刑をするかは、ケースによって違う。
検察が死刑を含めた有罪を求める場合もあれば、無罪を求刑する場合もある。

元検事の若狭弁護士「再審裁判でも死刑求刑か」

東京高裁が再審開始を認める(2023年3月13日)
東京高裁が再審開始を認める(2023年3月13日)

袴田事件の再審を認めた13日の東京高裁の決定では、袴田さんの有罪の決め手となった“犯行時の着衣”の5点の衣類について、捜査機関による「ねつ造」の疑いを指摘した。

有罪の重要証拠とされた“犯行時の着衣”
有罪の重要証拠とされた“犯行時の着衣”

元検事で、東京高裁の決定直後から検察の特別抗告断念を予想していた若狭勝弁護士は、再審裁判での検察の対応を次のように推測する。

若狭勝弁護士(元東京地検特捜部 副部長)
大きな重要な証拠について既に検察は相当なハンデを負っている。もうその点ではかなり無罪に近いということを突きつけられているのですから、再審の裁判においても検察の主張はかなり苦慮すると想定されます

特別抗告の申し立て期限だった3月20日。
東京高検は特別抗告の断念を決めた後、記者団の取材に対して、静岡地裁で開かれる再審の裁判について「適切に対応する」と述べた。

若狭勝弁護士
(検察は)今回はおそらく白旗を揚げて「完全にこれは無罪です」という対応ではなく、きちんと「やはり有罪ですよ」と(主張すると思う)。これまで一審・二審・最高裁と有罪で死刑判決が出ているわけですから、それを踏まえると、「証拠的にはやはりこれは有罪で、死刑であるべきだ」という主張を、再審の裁判の土俵で行う可能性が高いと思います

弁護団も裁判が始まるまで手を尽くしていく考えだ。

西嶋勝彦弁護団長
最初からあまり期待しない方がいいと思う。こちらから力で押していかないといけない。黙って座っているだけでは検察は無罪論告(求刑)をしませんから、法廷の外と内で両方が一体となって、無罪論告をさせるような力を検察官に示さないといけない

検察「適切に対応する」

再審の場合の検察の対応は、裁判によって異なる。

検察側は島田事件や免田事件では死刑を求刑した。
一方、足利事件や東電OL事件では無罪を求刑した。

袴田事件の対応について、東京高検は20日「再審公判に向かって静岡地検で適切に対応する。公判のあり方について、この場でお伝えするのは差し控えたい」と、述べるにとどまっている。
また、事件から57年が経過していることについては、「事件が長い時間を経たことは承知している。まずは公判に適正に対応したい」と答えている。

再審決定を袴田さんに伝える姉・ひで子さん(右)
再審決定を袴田さんに伝える姉・ひで子さん(右)

事件当時30歳だった袴田さんは87歳、支え続ける姉・ひで子さんは90歳になった(2023年3月現在)。
迅速な審理が求められている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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