替え刃の剃刀(かみそり)などの普及により、需要が減った和剃刀(わがみそり)。それでも、「磨いた技は、時代を越えて生きる」と、新潟県三条市で和剃刀をひたむきに作る鍛冶職人を取材した。

顔剃りに欠かせない「和剃刀」

三条市にある理容室「いなこし」。ヘアスタイルとともに、特別な思いで提供する技術が、和剃刀を使う顔そりだ。

理容室「いなこし」
理容室「いなこし」
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客:
一皮むけたよう

いなこし店主 稲越敏男さん:
お客が心地よい顔剃りを目指している

店主の稲越敏男さんには、お客さんを気持ちよくする顔剃りに欠かせない道具がある。

いなこし店主 稲越敏男さん:
やっぱり、水落さんの和剃刀

和剃刀を作る80歳の鍛冶職人

三条市南四日町にある「三条製作所」。

暗い工房で炉の光を見つめているのが、和剃刀を作る鍛冶職人の水落良市さん(80)。

鍛冶職人 水落良市さん
鍛冶職人 水落良市さん

この日、行っていたのは、鉄の地金と刃となる鋼を一体にする工程。

鍛冶職人 水落良市さん:
ホウ酸はある温度までいくと、ガラス状の液体になる。そこで鉄と鋼を圧着させる

鍛冶職人 水落良市さん:
鉄と鋼がくっつく温度は限られている。その温度にするためには、熱した鉄の色が大事

水落さんが鍛冶職人の道を歩み始めたのは、高校時代のこと。鍛冶職人で部活の先輩だった岩崎重義さん(90)からの誘いだった。

鍛冶職人 水落良市さん:
剃刀は人の肌に触れるので、非常に難しい刃物だけどやりがいがある

「売れなくなった」一度は辞めるも…

水落さんが鍛冶職人の世界に入り、10年が経とうとするころ、世の中の変化に和剃刀が飲み込まれることに。

鍛冶職人 水落良市さん:
高度成長期になり、「消費は美徳」と言われるようになった

替え刃の剃刀が登場すると、和剃刀は売れなくなり…

鍛冶職人 水落良市さん:
和剃刀では、食べていけなくなった

水落さんは鍛冶職人を辞めて、実家の金物卸の仕事に就くことを決断。

以来、30年近く金物卸の仕事を続けていた水落さんに再び転機が訪れたのは、60歳のときだった。

鍛冶職人 水落良市さん:
岩崎さんが体調を崩したので、再び岩崎さんに鍛冶職人として世話になり、20年経った

海外需要も!「一生使える」和剃刀

その努力を感じているのが、水落さんの作る和剃刀を使う理容師・稲越敏男さんだ。

いなこし店主 稲越敏男さん:
力がいらない。調子が悪くても、剃刀が顔剃りをしてくれる。水落さんの和剃刀は刃が均一

鍛冶職人 水落良市さん:
研ぎを上手にできれば、一般の人は一生使える

研ぎ終わると、刃に髪の毛が触れただけで切れてしまうことも。

簡単に切れる髪の毛
簡単に切れる髪の毛

鍛冶職人 水落良市さん:
だから肌触りが非常にいい

これが日本国内だけでなく、海外で和剃刀の需要が広がっている理由の一つ。

鍛冶職人 水落良市さん:
6:4の割合で外国へ売れている

弟子をサポート「技術は必ず残る」

4年前、水落さんの元へ弟子入りした稲垣良博さん(22)は神奈川県出身。

稲垣良博さん:
自分がやりたいと思ったことをできているので、ありがたい

三条市による「後継者育成事業」を利用し、稲垣さんは水落さんのサポートを受けながら、鍛冶職人として独り立ちを目指している。

鍛冶職人 水落良市さん:
うちは若手がやってくれているので、私も若返って、だんだんと年の差が詰まってくる

水落さんと稲垣さん
水落さんと稲垣さん

職人の技をひたむきに吸収する稲垣さんだが、技術を受け取るだけではない。

スマートフォンにQRコードをかざして見せてくれたのは、稲垣さんが撮影や編集を行った、和剃刀の研ぎ方を分かりやすく説明する動画。

稲垣良博さん:
動画を通して、和剃刀に少しでも興味を持ってほしい

かつて需要は減っても、なくなりはしなかった和剃刀。

鍛冶職人 水落良市さん:
難しい技術は、必ず残ると思っている

春が訪れる中、鉄を打つ音が力強く響く。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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